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第六章
遠山さんという人 2
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「ほんっとにお前らは失礼な奴だな。確かに俺はこんなんだけどな、これでも教師なんだから生徒のことは可愛いって思えるんだよ。多少嫌なことがあったって頑張らなきゃと思うし、それはお前らだって同じだろ?」
「まあ、それはそうだけど」
うんざりしたように言い放つ先生に、遠山さんも渋々といったように頷いた。
「さ、もういいだろ、その辺で。そんな事より、この敷地の奥に渓流を楽しめる散策コースがあるって話しただろ?天気も良くて清々しいから、これから出かけないか?」
柳瀬さんが、パンと手を叩いて立ち上がる。
みんなそれに釣られてガタガタと席を立った。そして財布やそれぞれの貴重品を手にして、外に出る。
しばらく歩いていると、ここのコテージに泊っている他のグループの人たちにも遭遇した。
特に女性だけのグループとかは、綺麗な先生やカッコいい渚さんに目を奪われるようで、振り返りながらしばらく姿を追っていた。
通りすがりに、「カッコいい」とか、「見た? 今の人、すっごく綺麗だった」とか時折興奮気味に話す声も俺の耳に届く。
そして男の人たちも、美人な志緒利さんが気になるようで、チラチラと窺う人が何人もいた。
「南」
「え?」
周りをキョロキョロしながら歩いていたら、渓流散策コースの入り口に着いていた。
みんなより少し遅れて歩いてしまっていた俺を、先生がわざわざ戻って来て俺の腕を引いた。
「お前放っておいたら迷子になりそうだな」
「あ、ご、ごめん」
先生はそう言って俺の腕から手を放して、その手で今度は俺の手をキュッと握った。
え?と驚く俺に、「迷子防止」と真顔で言われた。
そんな俺たちを、みんなが振り返ってじいっと見てるのがちょっと怖い。
「じゃあ、南くんのそっちの空いてる手は、俺が取ろうかな」
なぜだかそう言って、わざわざ笑顔で近づいてくる遠山さん。
……何なの、この人。
気持ち悪くて、先生に思わず引っ付いてしまう。
「おい、そこ。何やってんだよ。こういう所で女性を先に歩かせるなよ。遠山! お前もこっちに来い」
渚さんが、来い来いと大きく手を振って合図をしている。
「分かった、分かった」
それもそうかといった風に、遠山さんが手を振って渚さんに返した。そして俺たちに振りかえる。
「なーんか南くんがさ、可愛く見えるんだよな。なんでだろ」
「さあな。俺たち大人と違って、素直な高校生だから眩しく思えるんじゃないのか?」
遠山さんの言葉に、え?と、ギョッとした俺の手を先生がギュッと一瞬素早く握る。そしてシレッと続けた言葉に、気持ちが落ち着いていくのを感じた。
「そうかもな」
遠山さんは、それ以上何かを言う事もなく、素直に渚さんの元へと歩いて行った。
という事で俺たち一行は、先頭に渚さんと遠山さん、そして高田さんと小波さん。その後に柳瀬さんと志緒利さんが続いた。そしてその後に俺たちだ。
「いやな気持にさせたか?」
「あ、ううん。大丈夫。……変わった人だね」
俺がそう言うと、先生がちょっぴりため息を吐いた。
「……あれな、しばらくあいつと会ってなかったから忘れてたけど、あいつ俺が普通に接する相手が気になるようなんだよな」
「……へえ?」
何、それ。
ちょっとどころかかなり気持ち悪いんですけど……。
「そうよね。私も澪と特別に仲が良いなとか、いろいろ言われたわね」
「――そういや、俺も」
「え?」
俺たちの会話が聞こえたんだろう。振り返って志緒利さんと柳瀬さんが話の輪に入る。
先生はそのことを知らなかったようで、驚いていたようだ。
「渚のことは聞いていたけど……」
「遠山さ、紫藤にライバル意識持ってるんだよ。不愛想なくせに、なぜかみんなが絡みたがるって。おまけに頭も良くて教授たちにも一目置かれてるのが気に食わないって、学生時代によくこぼしてた」
「しかも澪って、あの当時私たちには割とまともに返事してくれたけど、遠山君に対してなおざりだったでしょ?それがかなり気になってたみたいだったわよ」
「マジかよ」
そう言って頭を掻いた先生は、ため息を吐いた。
「まったく。俺なんか関係ない奴に興味を持てないただの欠陥人間なんだから、羨ましがる要素なんてないから放っとけばいいのに」
「相手してやる気は無いのか?」
そう聞く柳瀬さんに、先生は鬱陶しい表情を返した。
そして端的に一言。
「あるわけないだろ」
先生はそう言って俺の手を引っ張って歩き出した。
「まあ、それはそうだけど」
うんざりしたように言い放つ先生に、遠山さんも渋々といったように頷いた。
「さ、もういいだろ、その辺で。そんな事より、この敷地の奥に渓流を楽しめる散策コースがあるって話しただろ?天気も良くて清々しいから、これから出かけないか?」
柳瀬さんが、パンと手を叩いて立ち上がる。
みんなそれに釣られてガタガタと席を立った。そして財布やそれぞれの貴重品を手にして、外に出る。
しばらく歩いていると、ここのコテージに泊っている他のグループの人たちにも遭遇した。
特に女性だけのグループとかは、綺麗な先生やカッコいい渚さんに目を奪われるようで、振り返りながらしばらく姿を追っていた。
通りすがりに、「カッコいい」とか、「見た? 今の人、すっごく綺麗だった」とか時折興奮気味に話す声も俺の耳に届く。
そして男の人たちも、美人な志緒利さんが気になるようで、チラチラと窺う人が何人もいた。
「南」
「え?」
周りをキョロキョロしながら歩いていたら、渓流散策コースの入り口に着いていた。
みんなより少し遅れて歩いてしまっていた俺を、先生がわざわざ戻って来て俺の腕を引いた。
「お前放っておいたら迷子になりそうだな」
「あ、ご、ごめん」
先生はそう言って俺の腕から手を放して、その手で今度は俺の手をキュッと握った。
え?と驚く俺に、「迷子防止」と真顔で言われた。
そんな俺たちを、みんなが振り返ってじいっと見てるのがちょっと怖い。
「じゃあ、南くんのそっちの空いてる手は、俺が取ろうかな」
なぜだかそう言って、わざわざ笑顔で近づいてくる遠山さん。
……何なの、この人。
気持ち悪くて、先生に思わず引っ付いてしまう。
「おい、そこ。何やってんだよ。こういう所で女性を先に歩かせるなよ。遠山! お前もこっちに来い」
渚さんが、来い来いと大きく手を振って合図をしている。
「分かった、分かった」
それもそうかといった風に、遠山さんが手を振って渚さんに返した。そして俺たちに振りかえる。
「なーんか南くんがさ、可愛く見えるんだよな。なんでだろ」
「さあな。俺たち大人と違って、素直な高校生だから眩しく思えるんじゃないのか?」
遠山さんの言葉に、え?と、ギョッとした俺の手を先生がギュッと一瞬素早く握る。そしてシレッと続けた言葉に、気持ちが落ち着いていくのを感じた。
「そうかもな」
遠山さんは、それ以上何かを言う事もなく、素直に渚さんの元へと歩いて行った。
という事で俺たち一行は、先頭に渚さんと遠山さん、そして高田さんと小波さん。その後に柳瀬さんと志緒利さんが続いた。そしてその後に俺たちだ。
「いやな気持にさせたか?」
「あ、ううん。大丈夫。……変わった人だね」
俺がそう言うと、先生がちょっぴりため息を吐いた。
「……あれな、しばらくあいつと会ってなかったから忘れてたけど、あいつ俺が普通に接する相手が気になるようなんだよな」
「……へえ?」
何、それ。
ちょっとどころかかなり気持ち悪いんですけど……。
「そうよね。私も澪と特別に仲が良いなとか、いろいろ言われたわね」
「――そういや、俺も」
「え?」
俺たちの会話が聞こえたんだろう。振り返って志緒利さんと柳瀬さんが話の輪に入る。
先生はそのことを知らなかったようで、驚いていたようだ。
「渚のことは聞いていたけど……」
「遠山さ、紫藤にライバル意識持ってるんだよ。不愛想なくせに、なぜかみんなが絡みたがるって。おまけに頭も良くて教授たちにも一目置かれてるのが気に食わないって、学生時代によくこぼしてた」
「しかも澪って、あの当時私たちには割とまともに返事してくれたけど、遠山君に対してなおざりだったでしょ?それがかなり気になってたみたいだったわよ」
「マジかよ」
そう言って頭を掻いた先生は、ため息を吐いた。
「まったく。俺なんか関係ない奴に興味を持てないただの欠陥人間なんだから、羨ましがる要素なんてないから放っとけばいいのに」
「相手してやる気は無いのか?」
そう聞く柳瀬さんに、先生は鬱陶しい表情を返した。
そして端的に一言。
「あるわけないだろ」
先生はそう言って俺の手を引っ張って歩き出した。
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