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第四章
聞き込み
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「さて、どこから手をつけるかな」
意外と広いキャンパスに、キョロキョロと辺りを見回した。悩んだ結果、まずは学生課へと足を運んだ。
「すみません。陶芸学科を受けたいと思っている者なんですが、ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい」
女性の方が色々と喋ってくれるだろうと思い、中年の愛想のいい女性の方に声をかけた。
「実は陶芸家の峯野真人さんに憧れてまして、確か彼はここの出身でしたよね?」
「はい、そうです」
「峯野さんのことを知っている人がいたら、彼の作品づくりに関わることなど教えていただきたいなと思うのですが……」
「ああ、それでしたら――、川北さん!」
彼女は突然立ち上がり、俺らの背後にいる人を大声で呼んだ。呼ばれたその川北という人が、こちらに近づいてくる。
「何ですか?」
「突然ごめんなさい。今時間ありますか? この方達が、峯野先生のことを伺いたいのですって」
「わかりました。ちょうど今空いているので、場所を移動しましょうか? こちらへどうぞ」
この川北という男性は気さくな人なのか、気軽に俺らを誘導した。
「ここでいいかな?」
彼が連れて来てくれたところは大学内のカフェテリアだ。ランチ時間はとっくに過ぎているので、人はまばらだった。
「で、聞きたい事って何ですか?」
「あ、はい。実はこいつがここの陶芸学科に受験しようかどうか迷っていまして、で、憧れてもいる峯野先生がどうゆう学生生活を送り、陶芸への道に進んだのかを知りたいなと思いまして」
俺の言葉に川北さんはチラッと視線を一弥に向けた。だが、すぐに視線をこちらに戻す。
「峯野の学生時代ですか?」
「はい、ご学友ですか?」
「ええ、一緒に切磋琢磨して、夢への道を競い合っていましたよ」
「そうなんですか。ではあなたも陶芸家に?」
「はい。今こちらで教鞭をとっている合田先生の弟子として、こちらではアシスタントをしています」
「そうなんですか」
相槌を打つ横で、一弥がじっと川北さんの方を見ていた。それに気付いた川北さんが、言葉を続けた。
「峯野は真面目な学生でしたよ。俺らの中でも、たぶん一番熱心に土と向き合っていたんじゃないかな。元からそう饒舌じゃあ無かったが、実習に入るとのめり込んじゃって、無駄口は一切叩かなかったし。しかもうまくいかない時はムキになって、何度も何度もやり直していたな……」
「なるほど、努力家だったんですね」
「ええ、そりゃもう。もちろんセンスもある奴でしたけどね」
「……努力してたら玉の輿にも乗れるの?」
「おいっ」
あからさま過ぎる一弥の直球に俺は慌てた。何かやんわりとうまく引き出せないかと考えていたところだったのに。
川北さんもやはり少し呆れたようだった。困ったような表情で一弥を見ている。
「だって憧れるだろ? 陶芸なんて確かに好きだけど、それで食えるやつなんてそうそういないのが現実だろ? チャンスをものに出来たラッキーな人だってことも、俺の中では憧れの一因なんだけど」
「現実はそんな甘いもんじゃないよ」
「だからラッキーを手に入れられた峯野さんに憧れるんじゃん」
「そうじゃない! 峯野はそれをラッキーだなんて思っていないってことだ」
「なんでさ。重鎮に認められて、お嬢様までゲットしたっていうのに」
一弥のさらなる言葉に、 川北さんの表情が苦々しくなる。一時は一弥の暴走に困ったと思っていたが、存外、 俺よりも言葉を引き出す術に長けているのかもしれない。
「あいつはそんなんじゃない。大事な婚約者もいたし、あの縁談だって元々は断っていたんだ」
「え? じゃあ何で?」
「こういう世界は狭いんだよ。力のある者に捩じ伏せられたら、その世界ではやっていけなくなる」
そう思わずこぼした後、川北さんはハッとした表情になった。
「言い過ぎたな。これからの未来を夢見て頑張ろうと思っている若者に、言う言葉じゃなかった」
「すみません、こちらこそ」
こちらの方が誘導させて言わせたのだ。俺も慌ててペコリと頭を下げた。
「……でも聞けてよかった。俺やっぱり峯野さんに憧れるよ。いろんなことがあっても頑張って、陶芸続けてるんだもんな」
一弥の言葉に、川北さんは顔を上げた 。
「ああ、そうだ。あいつは頑張ってる。君もよく考えて、進路を決めたらいいよ」
「ありがとうございます」
川北さんはチラッとはめている腕時計に目を止めて、「そろそろ行かないといけないので」と言って席を立った。
意外と広いキャンパスに、キョロキョロと辺りを見回した。悩んだ結果、まずは学生課へと足を運んだ。
「すみません。陶芸学科を受けたいと思っている者なんですが、ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい」
女性の方が色々と喋ってくれるだろうと思い、中年の愛想のいい女性の方に声をかけた。
「実は陶芸家の峯野真人さんに憧れてまして、確か彼はここの出身でしたよね?」
「はい、そうです」
「峯野さんのことを知っている人がいたら、彼の作品づくりに関わることなど教えていただきたいなと思うのですが……」
「ああ、それでしたら――、川北さん!」
彼女は突然立ち上がり、俺らの背後にいる人を大声で呼んだ。呼ばれたその川北という人が、こちらに近づいてくる。
「何ですか?」
「突然ごめんなさい。今時間ありますか? この方達が、峯野先生のことを伺いたいのですって」
「わかりました。ちょうど今空いているので、場所を移動しましょうか? こちらへどうぞ」
この川北という男性は気さくな人なのか、気軽に俺らを誘導した。
「ここでいいかな?」
彼が連れて来てくれたところは大学内のカフェテリアだ。ランチ時間はとっくに過ぎているので、人はまばらだった。
「で、聞きたい事って何ですか?」
「あ、はい。実はこいつがここの陶芸学科に受験しようかどうか迷っていまして、で、憧れてもいる峯野先生がどうゆう学生生活を送り、陶芸への道に進んだのかを知りたいなと思いまして」
俺の言葉に川北さんはチラッと視線を一弥に向けた。だが、すぐに視線をこちらに戻す。
「峯野の学生時代ですか?」
「はい、ご学友ですか?」
「ええ、一緒に切磋琢磨して、夢への道を競い合っていましたよ」
「そうなんですか。ではあなたも陶芸家に?」
「はい。今こちらで教鞭をとっている合田先生の弟子として、こちらではアシスタントをしています」
「そうなんですか」
相槌を打つ横で、一弥がじっと川北さんの方を見ていた。それに気付いた川北さんが、言葉を続けた。
「峯野は真面目な学生でしたよ。俺らの中でも、たぶん一番熱心に土と向き合っていたんじゃないかな。元からそう饒舌じゃあ無かったが、実習に入るとのめり込んじゃって、無駄口は一切叩かなかったし。しかもうまくいかない時はムキになって、何度も何度もやり直していたな……」
「なるほど、努力家だったんですね」
「ええ、そりゃもう。もちろんセンスもある奴でしたけどね」
「……努力してたら玉の輿にも乗れるの?」
「おいっ」
あからさま過ぎる一弥の直球に俺は慌てた。何かやんわりとうまく引き出せないかと考えていたところだったのに。
川北さんもやはり少し呆れたようだった。困ったような表情で一弥を見ている。
「だって憧れるだろ? 陶芸なんて確かに好きだけど、それで食えるやつなんてそうそういないのが現実だろ? チャンスをものに出来たラッキーな人だってことも、俺の中では憧れの一因なんだけど」
「現実はそんな甘いもんじゃないよ」
「だからラッキーを手に入れられた峯野さんに憧れるんじゃん」
「そうじゃない! 峯野はそれをラッキーだなんて思っていないってことだ」
「なんでさ。重鎮に認められて、お嬢様までゲットしたっていうのに」
一弥のさらなる言葉に、 川北さんの表情が苦々しくなる。一時は一弥の暴走に困ったと思っていたが、存外、 俺よりも言葉を引き出す術に長けているのかもしれない。
「あいつはそんなんじゃない。大事な婚約者もいたし、あの縁談だって元々は断っていたんだ」
「え? じゃあ何で?」
「こういう世界は狭いんだよ。力のある者に捩じ伏せられたら、その世界ではやっていけなくなる」
そう思わずこぼした後、川北さんはハッとした表情になった。
「言い過ぎたな。これからの未来を夢見て頑張ろうと思っている若者に、言う言葉じゃなかった」
「すみません、こちらこそ」
こちらの方が誘導させて言わせたのだ。俺も慌ててペコリと頭を下げた。
「……でも聞けてよかった。俺やっぱり峯野さんに憧れるよ。いろんなことがあっても頑張って、陶芸続けてるんだもんな」
一弥の言葉に、川北さんは顔を上げた 。
「ああ、そうだ。あいつは頑張ってる。君もよく考えて、進路を決めたらいいよ」
「ありがとうございます」
川北さんはチラッとはめている腕時計に目を止めて、「そろそろ行かないといけないので」と言って席を立った。
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