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タクマの決心
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「そう言えばヴェルド様。あの国境の結界についてなんですけど……」
依頼を快く引き受けたタクマだったが、その他にも聞きたい事があったのだ。気分を変える意味でもそれを聞いておくことにした。急な話の転換に目を丸くするヴェルドだったが、それがタクマの気遣いだと気づいて表情を緩ませる。
「ああ、アレの事ですね。あれは単に悪意があるものにしか作用しませんよ。タクマさんが懸念する一般の人間、動物、モンスターの生活に影響はありません」
密かに懸念していた国境周辺で生活の糧を得ている者たちが戻れなくなるような事は無いのだと説明され、タクマはホッとする。これまで出来ていたことが出来なくなれば、どうしても民にも反感が生まれる。国の思惑で行動する者たちの事はどうでも良いが、そこで世界する者たちにとっては死活問題だと思っていた。
「あの結界は自分の国以外に害意を持っていたり、それに付随する任務を負った者たちにしか作用しません。そう言った任務を帯びた者たちは負の感情を表に出すことはなく一般に紛れています。ですが内面まで隠すのは無理です。そこにしか反応しないようにしています。お互いを刺激しないままで国境をどうにかするとなるとそれしかないかと」
「なるほど……俺がやろうとしていた壁を作るという方法よりも良いですね」
タクマはそう言ってうんうんと頷きながらヴェルドの話を聞く。
「ただ……注意も必要ですよ。私の作った結界にも穴はあります。制限を緩くする分突破できる者も多くなりますから。まあ……あの王の様子を見ていたら大丈夫そうですが。ちなみにですが各国の王には神託という形で話は通してあります。パミル王国だけに作用するものではないですから」
なんとヴェルドは既に他国に対しても働きかけていた。どこの国を護る為ではなく争いを望んでいないからこその結界なのだと。きっかけはタクマをこれ以上目立たせないようにというヴェルドの親心のようなものだ。そこに国の思惑などはなかった。
「私はヴェルドミールの民たちが穏やかに生きて欲しい。それだけなのです。それはタクマさんも同じですよ。迷惑ばかりかけてしまっているので私が言える事ではないかもしれませんが……」
「いや俺はヴェルド様の頼みを嫌だとは思っていませんよ。たまに面倒だなと言う事もありますが断る理由には足りないですね。それに……ヴェルド様には感謝していますから」
照れ臭そうに答えるタクマにヴェルドは少し驚いた表情を浮かべた。タクマにばかり面倒を押し付けている自覚はヴェルドにもあったのだ。
申し訳なさそうに笑うヴェルドにタクマは手を振って問題ないと返し続ける。元々タクマはヴェルドの頼みを嫌だとは思っていない。面倒だと愚痴る事はあるが断ろうとは思ってないと。ヴェルドが自分の事を慈しみ心を割いてくれている事は十二分に理解しているから。明らかに間違った事を頼まれれば断るつもりだが、そうでもない限りヴェルドの頼みは聞くと決めていた。
「俺は元々自分の納得した事じゃない限り誰に頼まれようと受け入れるつもりはないです。それがヴェルド様であろうとも。力を得てしまったからこそ、その使いどころは自分の納得した事に使用したいと決めているので」
誰に靡くわけでもなく、自分の良いと思った事に進んでいく。そんなタクマの揺るぎない本心を聞いたヴェルドは優しく微笑みを浮かべて頷く。
「それで良いかと思います。そしてこれからも自分の思うまま行動してください。優しいタクマさんならきっと間違った方向にはいかないでしょうし。それにタクマさんが間違っていたらそれを正してくれる家族もいる。そうですよね?」
タクマには最愛の妻と大切な家族がいる。それはきっとタクマの道を正しく照らしてくれるだろうとヴェルドは笑う。
「ええ、俺には最高の家族が居ますから」
そう笑うと二人と一柱の間に生まれた微妙な空気は払拭され、いつもと同じ和やかな雰囲気へと変化していく。
「ありがとうお二人とも、私の頼みを受け入れてくれて。タクマさん、これを。手に取れば体に吸収されて使用時に解放されます。受け取ってください」
タクマは言われるがまま差し出された手に自分の手を翳す。すると宝石はスッとタクマへと吸収されて消えていく。その瞬間、ヴェルドから託された力の使い方が理解できた。
「使い方は分かりましたね?面倒だとは思いますがよろしくお願いします」
ヴェルドはタクマと夕夏に深く頭を下げる。
「いやいや!もう良いですって!瘴気の対処は俺に任せてください。神様が簡単に頭を下げたら駄目ですって!」
「そうですよ。タクマは納得して引き受けているんですから。それにタクマには空間跳躍がありますから。いつでも帰って来れますから、ね?」
神直々に頭を下げる姿に慌てるタクマ達にヴェルドは顔を上げて笑みを浮かべる。
「ふふふ。私のお願いを聞いてもらうのです。頭を下げるのは当然ですよ。タクマさん、どうか気を付けて行ってくださいね。夕夏さんはお体を大切に。恐らくここから戻るとすぐに迎えが来るでしょう。あちらも話自体は終わっているようですから。そしておいしいお菓子をありがとう。また何か話したい事があればいつでも来てくださいね。」
すこしすっきりした表情にも見えるヴェルドを見ながらタクマ達は元の空間へと戻っていった。
依頼を快く引き受けたタクマだったが、その他にも聞きたい事があったのだ。気分を変える意味でもそれを聞いておくことにした。急な話の転換に目を丸くするヴェルドだったが、それがタクマの気遣いだと気づいて表情を緩ませる。
「ああ、アレの事ですね。あれは単に悪意があるものにしか作用しませんよ。タクマさんが懸念する一般の人間、動物、モンスターの生活に影響はありません」
密かに懸念していた国境周辺で生活の糧を得ている者たちが戻れなくなるような事は無いのだと説明され、タクマはホッとする。これまで出来ていたことが出来なくなれば、どうしても民にも反感が生まれる。国の思惑で行動する者たちの事はどうでも良いが、そこで世界する者たちにとっては死活問題だと思っていた。
「あの結界は自分の国以外に害意を持っていたり、それに付随する任務を負った者たちにしか作用しません。そう言った任務を帯びた者たちは負の感情を表に出すことはなく一般に紛れています。ですが内面まで隠すのは無理です。そこにしか反応しないようにしています。お互いを刺激しないままで国境をどうにかするとなるとそれしかないかと」
「なるほど……俺がやろうとしていた壁を作るという方法よりも良いですね」
タクマはそう言ってうんうんと頷きながらヴェルドの話を聞く。
「ただ……注意も必要ですよ。私の作った結界にも穴はあります。制限を緩くする分突破できる者も多くなりますから。まあ……あの王の様子を見ていたら大丈夫そうですが。ちなみにですが各国の王には神託という形で話は通してあります。パミル王国だけに作用するものではないですから」
なんとヴェルドは既に他国に対しても働きかけていた。どこの国を護る為ではなく争いを望んでいないからこその結界なのだと。きっかけはタクマをこれ以上目立たせないようにというヴェルドの親心のようなものだ。そこに国の思惑などはなかった。
「私はヴェルドミールの民たちが穏やかに生きて欲しい。それだけなのです。それはタクマさんも同じですよ。迷惑ばかりかけてしまっているので私が言える事ではないかもしれませんが……」
「いや俺はヴェルド様の頼みを嫌だとは思っていませんよ。たまに面倒だなと言う事もありますが断る理由には足りないですね。それに……ヴェルド様には感謝していますから」
照れ臭そうに答えるタクマにヴェルドは少し驚いた表情を浮かべた。タクマにばかり面倒を押し付けている自覚はヴェルドにもあったのだ。
申し訳なさそうに笑うヴェルドにタクマは手を振って問題ないと返し続ける。元々タクマはヴェルドの頼みを嫌だとは思っていない。面倒だと愚痴る事はあるが断ろうとは思ってないと。ヴェルドが自分の事を慈しみ心を割いてくれている事は十二分に理解しているから。明らかに間違った事を頼まれれば断るつもりだが、そうでもない限りヴェルドの頼みは聞くと決めていた。
「俺は元々自分の納得した事じゃない限り誰に頼まれようと受け入れるつもりはないです。それがヴェルド様であろうとも。力を得てしまったからこそ、その使いどころは自分の納得した事に使用したいと決めているので」
誰に靡くわけでもなく、自分の良いと思った事に進んでいく。そんなタクマの揺るぎない本心を聞いたヴェルドは優しく微笑みを浮かべて頷く。
「それで良いかと思います。そしてこれからも自分の思うまま行動してください。優しいタクマさんならきっと間違った方向にはいかないでしょうし。それにタクマさんが間違っていたらそれを正してくれる家族もいる。そうですよね?」
タクマには最愛の妻と大切な家族がいる。それはきっとタクマの道を正しく照らしてくれるだろうとヴェルドは笑う。
「ええ、俺には最高の家族が居ますから」
そう笑うと二人と一柱の間に生まれた微妙な空気は払拭され、いつもと同じ和やかな雰囲気へと変化していく。
「ありがとうお二人とも、私の頼みを受け入れてくれて。タクマさん、これを。手に取れば体に吸収されて使用時に解放されます。受け取ってください」
タクマは言われるがまま差し出された手に自分の手を翳す。すると宝石はスッとタクマへと吸収されて消えていく。その瞬間、ヴェルドから託された力の使い方が理解できた。
「使い方は分かりましたね?面倒だとは思いますがよろしくお願いします」
ヴェルドはタクマと夕夏に深く頭を下げる。
「いやいや!もう良いですって!瘴気の対処は俺に任せてください。神様が簡単に頭を下げたら駄目ですって!」
「そうですよ。タクマは納得して引き受けているんですから。それにタクマには空間跳躍がありますから。いつでも帰って来れますから、ね?」
神直々に頭を下げる姿に慌てるタクマ達にヴェルドは顔を上げて笑みを浮かべる。
「ふふふ。私のお願いを聞いてもらうのです。頭を下げるのは当然ですよ。タクマさん、どうか気を付けて行ってくださいね。夕夏さんはお体を大切に。恐らくここから戻るとすぐに迎えが来るでしょう。あちらも話自体は終わっているようですから。そしておいしいお菓子をありがとう。また何か話したい事があればいつでも来てくださいね。」
すこしすっきりした表情にも見えるヴェルドを見ながらタクマ達は元の空間へと戻っていった。
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