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タクマの決心
嬉しい提案と久々のお祈り
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「おお、そうだ。タクマ殿。別部屋を用意すると言ったが、もしよかったら奥さんと王都に出てみてはどうだ?」
タクマたちが執務室から出ようとすると、ふいにノートンが王都に出てみてはどうかと提案する。
「王都にですか?」
「うむ。あのお三方の様子だと、まだまだ時間が掛かるだろう。それまで君たちを城に留めるのは申し訳ない。私としては王国としてやらなければならない事は終わっているし、一旦戻ってもらって後日としても良いのだが……」
こうした気遣いが抜けているのが残念だとため息を吐きながらタクマ達を気遣うノートン。そしてタクマ達にとってもその気遣いはありがたいものだった。落ち着かない城で待つなら外に出たいとも思っていたからだ。
「俺たちとしてはありがたい申し出ですがよろしいので?」
「構わんよ。むしろ待たせてしまう事の方が申し訳ない。それに普段はのんびり夫婦で行動などあまりできんだろう?なにせ君たちの所は子だくさんだからな。折角二人でいられる時間があるのだ。ゆっくりとその時間を楽しんでくれ」
そう言って笑うノートンの申し出にタクマ達はありがたく乗る事にした。アークスが城に残り念話で呼び戻してくれることになった。
「ありがとうございます。お気遣いありがとうございます。ではそうさせていただきますね」
「ああ、楽しんできてくれ。一旦案内する部屋で待っていてくれ。送りの馬車を用意させる」
タクマ達が執務室から出ると、そのタイミングで案内をしてくれる使用人が現れ、そのまま来賓用の部屋へと移動した。
案内の使用人が退室すると、そばに控えていたアークスが口を開く。
「タクマ様。城での雑事はお任せください。心配ないとは思いますが王都はトーランとは違います。どうかお気をつけて。そして絡んでくるような輩が居た場合……自重をお願いします。良いですか?自重ですよ」
普段行動するトーランとは違い、王都の治安はあまり良くない。タクマが居て危険があるとはアークスも思ってないが、注意は怠らないようにと言われてしまう。そんなアークスの口ぶりにタクマは苦笑いを浮かべてもちろんだと返す。
そもそもアークスはタクマがヴェルドミールに来たばかりの容赦ないタクマを知っているのだ。自分に敵対する相手に対する苛烈さは誰よりも知っているからこその言葉だった。
「……分かった。のんびりとさせてもらうさ。まあそうそう絡まれることもないだろ。最近は比較的平穏な毎日だしな」
そう言って忠告を素直に受け取るタクマだが、その答えを聞いている夕夏とアークスは心の中で思う。「あ、これなんかある」と。
息をする様にフラグを立ててしまうタクマだが、本人は本気でそう思っている。
「タクマ様。お待たせしました。ご準備の方が出来ましたので馬車までご案内させていただきます」
そうこうしていると使用人の女性が迎えに来てくれた。タクマと夕夏は立ち上がり王都へと繰り出すことにした。
「さて……まともに王都内をぶらつくのも久しぶりな気がするな。用があってくるときは殆ど直で動いていたし」
「タクマは空間跳躍があるからそうなっちゃうわよね。折角ノートン様がのんびりと巡れるように手配してくれたのだから楽しみましょ」
夕夏は笑みを浮かべてタクマとの行動を楽しんでいる。いつもの家族に囲まれた生活も大好きだが、こうして二人きりでのんびりと歩き回るのも好きなのだ。
嬉しそうな夕夏の姿にこうして出かける時間も作ろうと心に決めると共に、アークスが自重をしろと言った本当の意味も理解するのだった。
馬車は城を出てゆっくりと動き出し、あらかじめ頼んでおいた場所へと進んでいく。
「そういえば乗る時に行先を言っていたみたいだけど何処へ行くつもりなの?」
「ああ、ずっと馬車で動き回るのは好きじゃないし、王都の教会で降ろしてくれって言ったんだ。久しぶりにヴェルド様の本体にも挨拶しておきたいから。分体のあの方はエンジョイしているけど、本体はきっと待っていると思うしな。ちょっとあってからぶらつく感じにしよう」
いつも分体と顔を合わせているから忘れそうになるが本体は別にいるのだ。折角機会が来たのだからデート前に済ませておきたいと考えた。
何気ない会話を交わしているとあっという間に教会へと到着し、馬車の扉が開かれた。タクマ達は御者に礼を言って教会内へと入っていく。礼拝堂は祈りの時間ではないせいか人の姿はなかった。
二人はゆっくりとヴェルド像の前に進むと跪いて祈りを捧げる。
(ご挨拶が遅くなりすいません。機会が出来ましたので伺わせていただきました)
祈りを捧げるとすぐに浮遊感を感じ目を開ける。いつもの白い空間にポツリと立っているヴェルドの姿があった。
「お久しぶりですね。タクマさん、ユウカさん」
「お、お久しぶりですヴェルド様」
「はい、遅くなってしまってすいません」
女神を前に緊張気味の夕夏に続いて改めて挨拶をする。そんな二人にヴェルドは優しい笑みを浮かべて迎えてくれた。
「さあ、折角来てくれたのです。少しお話しましょう。タクマさん、テーブルなどをお願いできますか」
嬉しそうなヴェルドを横目にタクマはテーブルセットを取り出し、お菓子やお茶などを準備している。きっとそれを楽しみにしているのは分かっていたから。
「あらあら、そんなにたくさんありがとうございます。さあ、おしゃべりをしましょう」
ヴェルドは椅子に座り二人とお話したかったのだと笑う。タクマ達も席に着き久しぶりのお茶会(?)が始まるのだった。
タクマたちが執務室から出ようとすると、ふいにノートンが王都に出てみてはどうかと提案する。
「王都にですか?」
「うむ。あのお三方の様子だと、まだまだ時間が掛かるだろう。それまで君たちを城に留めるのは申し訳ない。私としては王国としてやらなければならない事は終わっているし、一旦戻ってもらって後日としても良いのだが……」
こうした気遣いが抜けているのが残念だとため息を吐きながらタクマ達を気遣うノートン。そしてタクマ達にとってもその気遣いはありがたいものだった。落ち着かない城で待つなら外に出たいとも思っていたからだ。
「俺たちとしてはありがたい申し出ですがよろしいので?」
「構わんよ。むしろ待たせてしまう事の方が申し訳ない。それに普段はのんびり夫婦で行動などあまりできんだろう?なにせ君たちの所は子だくさんだからな。折角二人でいられる時間があるのだ。ゆっくりとその時間を楽しんでくれ」
そう言って笑うノートンの申し出にタクマ達はありがたく乗る事にした。アークスが城に残り念話で呼び戻してくれることになった。
「ありがとうございます。お気遣いありがとうございます。ではそうさせていただきますね」
「ああ、楽しんできてくれ。一旦案内する部屋で待っていてくれ。送りの馬車を用意させる」
タクマ達が執務室から出ると、そのタイミングで案内をしてくれる使用人が現れ、そのまま来賓用の部屋へと移動した。
案内の使用人が退室すると、そばに控えていたアークスが口を開く。
「タクマ様。城での雑事はお任せください。心配ないとは思いますが王都はトーランとは違います。どうかお気をつけて。そして絡んでくるような輩が居た場合……自重をお願いします。良いですか?自重ですよ」
普段行動するトーランとは違い、王都の治安はあまり良くない。タクマが居て危険があるとはアークスも思ってないが、注意は怠らないようにと言われてしまう。そんなアークスの口ぶりにタクマは苦笑いを浮かべてもちろんだと返す。
そもそもアークスはタクマがヴェルドミールに来たばかりの容赦ないタクマを知っているのだ。自分に敵対する相手に対する苛烈さは誰よりも知っているからこその言葉だった。
「……分かった。のんびりとさせてもらうさ。まあそうそう絡まれることもないだろ。最近は比較的平穏な毎日だしな」
そう言って忠告を素直に受け取るタクマだが、その答えを聞いている夕夏とアークスは心の中で思う。「あ、これなんかある」と。
息をする様にフラグを立ててしまうタクマだが、本人は本気でそう思っている。
「タクマ様。お待たせしました。ご準備の方が出来ましたので馬車までご案内させていただきます」
そうこうしていると使用人の女性が迎えに来てくれた。タクマと夕夏は立ち上がり王都へと繰り出すことにした。
「さて……まともに王都内をぶらつくのも久しぶりな気がするな。用があってくるときは殆ど直で動いていたし」
「タクマは空間跳躍があるからそうなっちゃうわよね。折角ノートン様がのんびりと巡れるように手配してくれたのだから楽しみましょ」
夕夏は笑みを浮かべてタクマとの行動を楽しんでいる。いつもの家族に囲まれた生活も大好きだが、こうして二人きりでのんびりと歩き回るのも好きなのだ。
嬉しそうな夕夏の姿にこうして出かける時間も作ろうと心に決めると共に、アークスが自重をしろと言った本当の意味も理解するのだった。
馬車は城を出てゆっくりと動き出し、あらかじめ頼んでおいた場所へと進んでいく。
「そういえば乗る時に行先を言っていたみたいだけど何処へ行くつもりなの?」
「ああ、ずっと馬車で動き回るのは好きじゃないし、王都の教会で降ろしてくれって言ったんだ。久しぶりにヴェルド様の本体にも挨拶しておきたいから。分体のあの方はエンジョイしているけど、本体はきっと待っていると思うしな。ちょっとあってからぶらつく感じにしよう」
いつも分体と顔を合わせているから忘れそうになるが本体は別にいるのだ。折角機会が来たのだからデート前に済ませておきたいと考えた。
何気ない会話を交わしているとあっという間に教会へと到着し、馬車の扉が開かれた。タクマ達は御者に礼を言って教会内へと入っていく。礼拝堂は祈りの時間ではないせいか人の姿はなかった。
二人はゆっくりとヴェルド像の前に進むと跪いて祈りを捧げる。
(ご挨拶が遅くなりすいません。機会が出来ましたので伺わせていただきました)
祈りを捧げるとすぐに浮遊感を感じ目を開ける。いつもの白い空間にポツリと立っているヴェルドの姿があった。
「お久しぶりですね。タクマさん、ユウカさん」
「お、お久しぶりですヴェルド様」
「はい、遅くなってしまってすいません」
女神を前に緊張気味の夕夏に続いて改めて挨拶をする。そんな二人にヴェルドは優しい笑みを浮かべて迎えてくれた。
「さあ、折角来てくれたのです。少しお話しましょう。タクマさん、テーブルなどをお願いできますか」
嬉しそうなヴェルドを横目にタクマはテーブルセットを取り出し、お菓子やお茶などを準備している。きっとそれを楽しみにしているのは分かっていたから。
「あらあら、そんなにたくさんありがとうございます。さあ、おしゃべりをしましょう」
ヴェルドは椅子に座り二人とお話したかったのだと笑う。タクマ達も席に着き久しぶりのお茶会(?)が始まるのだった。
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