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4話
しおりを挟む「どういうこと……?帰せるって本当なの?っでも……」
一瞬期待しそうになったが、アイカに教えてもらった魔族の特徴を思い出す。魔族がその者の望んでいる願いを口にした時は決して対価を払おうとしては行けないということを。
魔族はその者の一番の願いを使って誘惑してくる。
実際願いを叶えて貰える者もいるが、その対価は重く、最悪の場合は死が対価となるのだ。
魔族に悪い人は居ない。だけど、願いを叶える為の対価となれば残虐行為を平気で行える……それが魔族だ。
今、目の前の魔王は帰せた場合の対価を要求した。
帰すことは出来ても、その対価によっては無事で帰ることは出来ないだろう。
そして、この身一つでこの世界に来た私には魔王の望む対価を用意できる自信が無い。
「帰りたいんだろ?なんで迷うんだ?」
目の前の魔王は戸惑う私をみて心底不思議そうに見つめる。先程の威圧感はなく、殺気も無くなっていた。
「対価……は今の私には……」
言い淀む私に魔王は「なんだ?」と催促する。
「私には差し出せる物がないから……」
「お前が勇者の力を俺に差し出す。それだけで対価になるだろ。」
一瞬、魔王が何を言ってるのか理解できなかった。
勇者の力……。魔王の言うそれがなんなのかも分からない私は、困惑した。
「勇者の力って……さっきも言ってたけどそんなの私にあるとは思えない」
「いや、魔王の俺が感じるんだから絶対あるよ。帰りたいんだろ?」
魔王の言ってることは私にとって好条件だ。その勇者の力というやつだけで家に帰れるのならばすぐにでも差し出したい。しかし、魔王の言う勇者の力は私には目に見えない力で、それを差し出すと言われても正直なんとも言えないのだ。
「なんで悩む必要があるんだ?」
「魔王様、勇者は勇者の力がなんなのか分からないのでは?それを差し出せと言われても困惑してしまいますよ」
先程の男の子が私を援護するように魔王に説明する。
私の言いたいことを言ってくれたお陰で私も首を縦に振り、男の子の言ってることに肯定した。
「ふむ……勇者の力は俺を殺す為だけの力だ。勇者の力を持たなければどれだけ強かろうと、魔王の俺を殺せない。俺もしっかりとした仕組みは分からないけどその勇者の力を持つものは異世界から召喚された者だけが持ってる。だから毎回魔族に恨みを持った人族が勇者召喚が国を挙げて行ってるわけ。」
「そんな中、勇者が寄りにもよって竜族の国で召喚されたので我々も焦った訳ですよ」
魔王の言葉に付け足し説明する男の子。
なぜ、竜族だと焦るのか分からなかった私は首を傾げた。
「竜族だと良くないの?」
「当たり前ですよ!竜王は魔王様と同じくらい強いんですよ?魔王様がいくら殺されないとはいえ、瀕死や弱体化させてしまえば後は力のない勇者でもサクッと魔王様を殺せちゃいます。仮に無理でも勇者を育てる時間は竜王なら稼げてしまいます」
「そ、そんなに強いの……」
「だから一か八かでとりあえず準備した転移魔法も2回だけ使えるし、勇者をこっそり殺して即逃げようと思ってな。けど、何故か勇者は足切られてるし、竜王の番らしいし、訳がわかんなかったよ。」
魔王は何故だか不服そうだったが、私からしたらもしかしたら殺されてたかもしれないという情報をサクッと言われたのだからたまったものじゃない。
「じゃああの時私をそのまま殺した方が良かったんじゃ……」
「そうですよ魔王様!なんで連れ帰ってきてるんですか!殺した方が良かったのに!」
味方だと思っていた男の子がさりげなく酷い言葉を言ったことに少しショックを受けてしまう。
「うーん……勘だな。」
魔王は私と男の子を面倒くさそうに見て、頭をかきながらそう言い放った。
どうやら勘で私は殺されなかったらしい。正直魔王が今まで会った人達の中で1番何を考えてるか分からない。
「勘って魔王様!??」
「落ち着けロマネス。実際対価に勇者の力を貰えるならむしろ攫ってきて良かったろ。」
「結果論じゃないですか!!」
「そんなことより、勇者の力だよ。さっき言ったように勇者の力は俺を殺せる力だ。その力さえなければ俺は死なないし、人族も攻めてこなくなる。俺にとっては勇者の力で対価は充分なんだよ」
「勇者の力がどんな物なのかは分かった……けど、どうやって渡せばいいの?私には勇者の力の感覚……?みたいなものも無いし、そういうのってそもそも差し出せるものなの?」
「そこなんだよ。まさか昔見つけた方法が役立つとは俺も思わなかったが、元の世界に帰還する際に勇者の力は勇者から離れる。これは先代魔王が殺されて勇者が元の世界に返される瞬間に分かったことだ。それに勇者を強制送還した際に力を奪う方法は昔からあったから気にしないでいい。」
「え、そうなんですか。じゃあなんで魔王様は今までの勇者を殺してたんですか?」
私より先に疑問をぶつけるロマネス君。確かにそうだ。強制送還というのが出来るのであれば、殺す必要はないはず。
それでも殺したと言うことはなにか条件的なものがあるのか。
「面倒臭いことに何故かある程度強くなった勇者は強制送還出来ないんだよ。そして、強制送還は勇者が来てから半年経たないと発動できない。半年もあれば勇者は結構強くなるし、力も奪えない。待つ意味もないから早めに殺した方が良い。」
魔王の言うことを信じるならば……
「……勇者として強くない私はこのまま何もしなければその強制送還で帰れるのね。」
「そういうことだ。まさかこの条件が当てはまる勇者がいるとは思わなかったが、この際どうでもいい。半年、あいつから勇者を奪われなければ全て解決する。面倒臭いが、これで勇者の力が使えなくなるならこの先楽できるからな。」
魔王はそう言ってニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。
「まぁ、よろしくな、勇者。」
その笑顔は何を考えてるか分からず、まさに魔王そのものだったが、私にはもう選択肢もなかったので魔王の言葉を肯定するように静かに頷いた。
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