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第一章
20話
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噂というのは実に便利だった。
あの男がどの日に後宮に行くのか、どのくらいの時間戻ってこないのか知ることが出来た。
それも全部アイカとヴィルのおかげだ。
自分は身一つでこの世界に連れてこられたから、大切な物等もないし、何よりアイカがついてきてくれるのだ。
元々1人で行くつもりだったのでアイカの仕事を私なんかの為に捨てることは無いと言ったが、彼女の「どちらにせよここには入れなくなりますから」と言う言葉で初めて私は人を巻き込んで居ると言うことに気づいた。
私が逃げたとして、罪に問われるのはアイカだ。ヴィルはあの男に内緒で私に高度な魔法を教えてるだけで、調べられたとしても私が魔法を使わない限り関係のない人物で終わる。
一応念の為と私にこれまで関わった人達に罪は無いと一筆書こうとは思っているが、それがどこまで通じるかも分からない。
アイカがこの先ここにいても待ってるのは尋問だろう。
むしろ今まで気づかない方が愚かだ。私はその時になってやっとアイカの覚悟を知ったのだ。軽いものでは無い、確固たる意志を持った覚悟を。
「…やっぱり……今日も後宮に行くみたいよ」
「番様がいても…しょうがないわよね……本気」
と城の侍女達が声を潜めて噂する。耳に強化魔法をかければ城の中の声は大体聞こえた。ヴィルに教えてもらった強化魔法がこんなところで役に立つとは。
慣れない時は雑音にしか感じなかったこれが今では声を聞き分けられるようにもなり聞きたい情報を聞けることも出来るようになった。
相変わらず後宮に通う様子のあの男に溜め息が出そうになるが、今はその事に感謝した。
部屋の中にはアイカと私しかいない。アイカは部屋の暖炉に手を入れた。
ガキンッと音がしてドアが開いた。ドアが開く際、思っている以上の大きな音が部屋の中へと響いたので慌てたが、あの男がかけたらしい私の部屋にかけられた防音魔法のおかげで外には聞こえなかったみたいだった。
「行きましょう」
「うん、アイカ……ごめんね」
後悔をしてないと言えば嘘になる。時期を早めるのも自分のため、逃げるのも自分のためだ。アイカもヴィルも巻き込んで私は自分の為だけに逃げるのだ。
それでも自分は元の世界に戻らないといけない。
薄暗くじめじめとした道をアイカの後ろにつきながら歩く。
城の外に繋がる経路は覚えたが、実際に歩くと沢山ある道から本命の道を探すのは大変だった。
殆どアイカの指示のもと、私は後ろを着いていくだけとなった。
──情けない
こんな時ですら自分一人の力では解決できないのだ。
自分の不甲斐なさに落ち込むも、アイカの「もう少しですよ」と言う声に意識を前へと向けた。
部屋から歩いて約15分ほど、ついにはしごを見つけた。城の外に繋がっているであろうその梯子を登れば、あとは計画通り逃げるだけだ。
アイカが先に梯子をのぼり、周りを確認したあと、私を引き上げた。外に出ればそこは城の壁と森の間とも言える場所だった。
ここからが重要だ。1日で、ここから遠い国へと離れなければならない。
そのために私は魔法陣を取り出し、魔力を流した。
この魔法陣が発動すれば私の部屋に仕掛けた火の魔法が私の部屋を包むだろう。きっと、私を助けるためあの男は消火活動を必死に行う。いもしない番のために……。
その騒ぎに乗じて私は逃げるのだ。
きっとすぐに企みはバレてしまうだろうが時間稼ぎとしてはちょうどいいだろう。
魔力を流した魔法陣が光り始める。
──あれ、なんか……光が強い…?
「っ!アカリ様っ!」
アイカのその声とともに私達は大きな光に包まれた。
眩いその光に目を瞑ってしまった私は目を開けた次の瞬間、絶望のぞんどこに突き落とされる。
「やはり、こうなったか」
そう言って混乱する私を憎々しげに見つめるのはあの男だった。
そして、その横には何故か家族の元に先に帰ったはずのヴィルもいた。
あの男がどの日に後宮に行くのか、どのくらいの時間戻ってこないのか知ることが出来た。
それも全部アイカとヴィルのおかげだ。
自分は身一つでこの世界に連れてこられたから、大切な物等もないし、何よりアイカがついてきてくれるのだ。
元々1人で行くつもりだったのでアイカの仕事を私なんかの為に捨てることは無いと言ったが、彼女の「どちらにせよここには入れなくなりますから」と言う言葉で初めて私は人を巻き込んで居ると言うことに気づいた。
私が逃げたとして、罪に問われるのはアイカだ。ヴィルはあの男に内緒で私に高度な魔法を教えてるだけで、調べられたとしても私が魔法を使わない限り関係のない人物で終わる。
一応念の為と私にこれまで関わった人達に罪は無いと一筆書こうとは思っているが、それがどこまで通じるかも分からない。
アイカがこの先ここにいても待ってるのは尋問だろう。
むしろ今まで気づかない方が愚かだ。私はその時になってやっとアイカの覚悟を知ったのだ。軽いものでは無い、確固たる意志を持った覚悟を。
「…やっぱり……今日も後宮に行くみたいよ」
「番様がいても…しょうがないわよね……本気」
と城の侍女達が声を潜めて噂する。耳に強化魔法をかければ城の中の声は大体聞こえた。ヴィルに教えてもらった強化魔法がこんなところで役に立つとは。
慣れない時は雑音にしか感じなかったこれが今では声を聞き分けられるようにもなり聞きたい情報を聞けることも出来るようになった。
相変わらず後宮に通う様子のあの男に溜め息が出そうになるが、今はその事に感謝した。
部屋の中にはアイカと私しかいない。アイカは部屋の暖炉に手を入れた。
ガキンッと音がしてドアが開いた。ドアが開く際、思っている以上の大きな音が部屋の中へと響いたので慌てたが、あの男がかけたらしい私の部屋にかけられた防音魔法のおかげで外には聞こえなかったみたいだった。
「行きましょう」
「うん、アイカ……ごめんね」
後悔をしてないと言えば嘘になる。時期を早めるのも自分のため、逃げるのも自分のためだ。アイカもヴィルも巻き込んで私は自分の為だけに逃げるのだ。
それでも自分は元の世界に戻らないといけない。
薄暗くじめじめとした道をアイカの後ろにつきながら歩く。
城の外に繋がる経路は覚えたが、実際に歩くと沢山ある道から本命の道を探すのは大変だった。
殆どアイカの指示のもと、私は後ろを着いていくだけとなった。
──情けない
こんな時ですら自分一人の力では解決できないのだ。
自分の不甲斐なさに落ち込むも、アイカの「もう少しですよ」と言う声に意識を前へと向けた。
部屋から歩いて約15分ほど、ついにはしごを見つけた。城の外に繋がっているであろうその梯子を登れば、あとは計画通り逃げるだけだ。
アイカが先に梯子をのぼり、周りを確認したあと、私を引き上げた。外に出ればそこは城の壁と森の間とも言える場所だった。
ここからが重要だ。1日で、ここから遠い国へと離れなければならない。
そのために私は魔法陣を取り出し、魔力を流した。
この魔法陣が発動すれば私の部屋に仕掛けた火の魔法が私の部屋を包むだろう。きっと、私を助けるためあの男は消火活動を必死に行う。いもしない番のために……。
その騒ぎに乗じて私は逃げるのだ。
きっとすぐに企みはバレてしまうだろうが時間稼ぎとしてはちょうどいいだろう。
魔力を流した魔法陣が光り始める。
──あれ、なんか……光が強い…?
「っ!アカリ様っ!」
アイカのその声とともに私達は大きな光に包まれた。
眩いその光に目を瞑ってしまった私は目を開けた次の瞬間、絶望のぞんどこに突き落とされる。
「やはり、こうなったか」
そう言って混乱する私を憎々しげに見つめるのはあの男だった。
そして、その横には何故か家族の元に先に帰ったはずのヴィルもいた。
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