くたばれ番

第一章

1話

｢やりました！！成功しました！陛下！！｣

そんな声とともに閉じていた瞼を開くと、先程までいた場所とは違う場所に彼女はいた。
どういうことだと混乱しながらも、状況を把握するため周りを見渡せば、一緒にいた友人の姿はなく、見知らぬ人達が自分に注目していた。

なに？
ここはどこ？意味がわからない。
消えかかっていたはずの体は元通りに戻っている。突然光とともに違う場所へと自分は移動したのだと理解したはいいものの、どうすればいいのか分からず、周りにいる笑顔の人達をこっそり盗み見る。

ふと、自分に影がかかった。目の前に誰か来たのだと気づき、恐る恐るそちらを見る。

｢やっと、やっと会えたな。我が番よ｣

そういったのは豪華な装飾品をつけた見目麗しい男性。羨ましいほど、艶のある黒髪。目元はキリリとして、どこか冷たさを感じる。芸能人かと疑いたくなるようなその美貌に私は言葉を出せずにいた。

｢陛下、番様はまだ召喚されたばかり。疲労もあるでしょうし、とりあえず部屋で休んでいただきましょう｣

今度はなんだとその声の方向を見れば、これまた燃え上がりそうなほど綺麗な赤髪に顔が整った男性が。よく見れば他の人たちも美しい人達が多かった。
いや、そうでは無い。それどころではないのだった。
私は怖い感情を押し殺して目の前にいる黒髪の男性へと声をかける。

｢……ここはどこですか？｣

｢ここは竜の国"アティラン"。潤んだ瞳も愛らしいな我が番よ｣
そう言って黒髪の男は私の瞳を覗き込むように見てくる。こんな美形に見つめられることなどなかった私はドキマギしてしまう。

｢家には、家には帰れるんですよね？｣

希望を持って聞いた言葉に何故か周りは眉をひそめた。黒髪の男性も例外ではなく、それどころか何故か傷ついた顔をしたのだ。

｢番様、番様はこちらにいらっしゃるリュカ＝アンブラー竜王陛下の番ですので、帰ることは出来ません｣

無知な幼子に教えるような優しい声色で赤髪が最悪の事実を告げる。

｢私、番とかそんなの知らないです、！帰してください！！！犯罪ですよ｣

必死にそう叫んでも周りは何を言ってるのだろうと言う疑問の顔しか出してくれない。それどころか不快そうな顔をするものまでいた。おかしいのは私ではないはずだ。頭の良くない私でも分かる。ここは私のいた世界ではない。現に、見たことも無い服装に、竜王だなんてありもしない事をこの人達は言って述べた。

｢はやく、早く帰して、！元の場所に……帰してよ……｣

段々と涙が出てくる。リュカと呼ばれた男性は何故そんなに傷ついた顔を私に向けるのだ。傷ついてるのは私で、おかしいのは貴方たちなのに……。
｢帰して！帰してよぉ……！｣
必死に泣いて縋っても返事は｢出来ません｣としか返ってこない。
それどころか｢番様の部屋へご案内致します……｣などと、ここで暮らすかのような物言いに私は恥も捨てて暴れ出す。
それもすぐに止められ、嫌がる私を部屋まで案内する赤髪。

いつの間にかリュカと呼ばれた男は居なくなっていた。

暴れたせいで危険だと判断されたのか部屋の前には騎士のような者が2人、そして、部屋の中にまで女性が2人配置されていた。
逃げることすら出来ないようだった。

私はとにかく泣いた。泣くことしか出来なかった。
途中で女性のため息が聞こえ、なぜ私がため息までつかれなきゃ行けないのだとまた涙が出てきてしまった。
朝になるまで、私はずっと泣いていた。