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第4章 魔法学校実技試験

第45話 フェリル・バレスティーナ

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「これって、どういう事……?」

 魔力感知なんて便利なスキルがない私ですら感じた、とてつもなく強力な魔力の波動と衝撃。
 衝撃によって粉塵が舞い、周囲の状況がつかめなくなったその瞬間に……

「レムリア……レムリアァ……」
「ふふっ、気になってたんだよぉ、お前の事がぁ……!」

 クラスメイトが、私に向かって襲ってきたのだ。

「ふっ、ひひぃ! オレと結婚してくれぇ! そしてオレは、次期公爵にぃぃ……げふぅ!」
「えーと、ごめんなさい」

 とりあえず、飛び掛かってくる男子生徒を、手加減アポカリプス背負い投げで気絶させる。

「元魔抜けの成り上がりのくせに、教師より魔力が高いとかぁ、徹底的に教育……いや、調教してやるわぁ……」
「レムリア様ぁ……私と一緒にぃぃい……」
「食事をご一緒したいぃ……そのお体に触れたいぃぃ……」

 次々と襲い掛かってくる他の生徒や、教師たち。
 しかも、普段言わないような事を呟き、ゆらり、ゆらりと近寄ってくる。
 いわゆるゾンビ作品のようだが、明らかに違う点はひとつ。

「……ファイヤァボォルゥ」
「ウィンドカッタァ……!」

 噛むのではなく、本人の魔法で攻撃してくるという事だ。

「アポカリプス、グラビティフィールド!」

 魔法攻撃をアポカリプスで防ぐ。
 最初に襲われたときは、何か異変が起きているぐらいだったが、この状況は完全に異常事態だ。
 どうするかと悩んでいた瞬間。

「……ブラッディレイ」

 大量の紅い閃光が、生徒たちを貫く。

「グ、グリム!?」
「……手加減してる。『今は』だけど」

 指を差した先に、大量の生徒が私を狙って向かってきているのが見える。
『あれが全部襲ってきたら、手加減する余裕はなくなる』、グリムは暗にそう言っていた。
 救いがあるとしたら、全員がこっちに向かっているのではなく、一部は別の場所に向かっているという事だろう。

「……食い止める」

 そのまま、集団に向かって駆けるグリム。
 本来ならひとりで向かわせるなんて事は絶対にしないが、今は『倒せる相手』が敵である事から考え、退路の確保と、アオイさんたちと合流を優先し、その後にグリムに助太刀するのが上策だろう。
 何故ならば、この状況はおそらく、アオイさんが言っていた『敵』の攻撃だ。
 そして狙いは、私か、おそらく衝撃と共に発生している魔王の武具、生徒たちを向かわせている別の標的、もしくはその全て。

「みんな! 安全な場所に……っ!」

 近くにいたエレオノーラたちを大声で呼んだ瞬間、私の体を黒い光が覆う。
 ヤサクニが自動で発動し、私を魔王モードにするだけでなく、強力なグラビティフィールドを発生させる。

 このグラビティフィールドの前には、最大級の魔法だろうと逸れていき、巨大な魔物だろうと侵入できずに弾かれる。
 そんなグラビティフィールドの中央にいる私のすぐ横を、高速の石礫……『殺意』が通過していった。

(……グラビティフィールドがなかったら、死んでた)

 体を伝う冷や汗。
 そこに見知った、本当に見知った顔が現れる。

「うふふぅ、どこに行こうといういうんですかぁ……?」
「ア、アンナベル……?」

 おそらく、石礫を放った張本人のアンナベルが、ゆらり、ゆらりと、体を左右に振りながら近づいてくる。
 私に魔法で石礫を放ってきた点も含めて、明らかに様子がおかしい。

「まさか……アンナベルも、他の人みたいにおかしくなってるの……?」

 認めたくない事実に愕然とする私。
 そこに、追い打ちをかけるように雷光が奔る。

「え……?」

 魔法の中でもトップクラスの速度を誇る雷魔法であり、そしてアンナベルに攻撃された事でショックを受けていた私は、まったく反応できない。

「……大地よ、その大いなる力を示せっ!」

 突如地面から生えた樹木が、その攻撃を防ぐ。
 だがその圧倒的な威力の雷は樹木を引き裂き、その魔法を使った少女……フェリルに直撃した。

「あああぁああっつっっつ!」
「フェリルっ!」

 衝撃で飛ばされるフェリルを空中で受け止める。

「大丈夫、フェリル!」
「あはは……奥の手の、ハイエルフ式精霊魔法もダメかぁ……あたしが、こんな簡単に倒されるの……喜ぶべきやら、悲しむべきやら……」
「喋らないで、今、回復魔法を……くっ!」

 今度は、石礫と雷光が同時に襲ってくるが、なんとかアポカリプスで防ぐ。

「……レムリア? なぜ私以外を見ているの?」
「うふふぅ……あんなに私をいたぶったんですから、次は私の番ですよぉ……?」
「エレオノーラ……アンナベル……」

 明らかにいつもと違う様子のアンナベルとエレオノーラが近づいてくる。

「もうすぐね……『理想の私』が、レムリア様の隣に立つ……ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとず~~~~っと、待っていたわ……!」
「いたぶられている間は、『家の恥』と呼びながら私の事を見てくれる……いたぶってる間は、私の事を『化け物』と呼びながら見てくれる……ふふっ。これを繰り返せば、ずーーっと私の事を見てくれる。魔力が暴走した私を見て発狂して、私の存在を忘れたお父様みたいな間違いは、もうしないんですょおおおぉぉ!」

 叫びながら、凄まじい威力の攻撃魔法を放ち続けるふたり。

「……くっ!」

 アポカリプスでなんとか防ぐが、少しでも力を緩めると、力場を貫通してきそうだ。

(ふ、二人の魔法って、こんなに強かったっけ……?)

 一緒に訓練していたとき、二人の魔法にここまでの威力はなかったし、連発もできなかった。
 性格といい、もはや別人だ。

「……何かに憑依されてる」
「えっ?」
「体を操り、精神や感情の制御を失くすことで、限界を超えた魔力を引きずり出されてる……そうじゃなきゃ、あの二人が、私にしか喋ったことがないって言ってた秘密を、自分から喋るなんてありえない」
「それって……」
「このままじゃ、魔力の使い過ぎで二人は死んじゃう……!」
「……!?」

 二人が……死ぬ……?
 私の、大切な友達が……?

「……レムリアっち! 危ない……!」
「えっ!?」

 油断した私に迫る魔法。
 動揺によってグラビティ―フィールドが弱くなっていたのだろう。
 力場を貫通して私に迫ってくる。

「……精霊よ、か弱き森の民にその加護を!」

 フェリルが宝珠を取り出し、そこから放たれた魔力によって、エミルの精霊の矢のような輝きを放つ魔力障壁が現れる。

「なっ!?」
「くうぅっ!」

 その障壁は防ぐだけでなく跳ね返し、二人を怯ませる。

「……過去の勇者がハイエルフに託した、一度だけ精霊魔法を使える至宝。まさか、復活した魔王を倒すためじゃなく、守るために使うなんてね」

 崩れ去る宝珠を見ながら、苦笑するフェリル。
 だが、宝珠を使ったせいなのか、もはや立つ力もなく倒れ込む。

「フェリル! フェリル!」
「……二人をお願い、レムリアっち。滅茶苦茶な奴らだけど、肌の色のせいで同族からも忌み嫌われて……ずっと一人だったあたしにできた、初めての友達なんだ……」
「分かった! 分かったから!」
「あはは……本当、魔王っぽくないね、レムリアっち。そんなだから、みんなも、あたしも惹かれるんだろうな……」

 そして、私の方を見て微笑みながら……

「それじゃあ、ちょっと寝るから……あとは、よろしく……」

 ……そのまま、倒れていった。
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