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第2章 邂逅
第14話 似た者同士
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「ヴラムさん!」
スコールに斬られ、片膝を付きながら傷を抑えるヴラム。
いつも余裕の態度を崩さないヴラムが、苦悶の表情を浮かべるということは、かなり深手だろう。
「……大丈夫ですよ。吸血鬼の私に斬撃など……」
ヴラムの体に魔力の光が宿る。
体を蝙蝠にしたときのように、何か動けるようになる魔法を使っていると思うのだが……
「くっ……!」
魔力の光が、まるで空気に溶けるかのように消えていく。
体にも力が入らないのだろう、そのまま倒れそうになる。
「無茶しちゃダメです!」
倒れる前にヴラムを支えるが、やはり上手く体が動かせないようだ。
「魔力が散っていく……まさか、その刀は……」
「さすが、俺のご先祖様の同僚。この魔族殺しの妖刀、ミスティルテインもご存知か」
刀を抜きながら、にやりと笑うスコール。
「あんたの想像は当たってるぜ。こいつは、さっきまで使っていた刀とは違う」
刀身にスコールが手を触れると、青い光と共に、不気味な文字が浮かび上がる。
「ご先祖様がクソ魔王様から受け取った、妖刀ミスティルテイン……魔力が強い奴ほど効くクソ魔王の呪いが込められているから、存在そのものが魔力みたいなあんたには、効果覿面だろ?」
「馬鹿なことを……! その刀は、使い手をも呪う妖刀……いくら魔力が殆ど無い貴方でも、ただでは済みませんよ……!」
「百も承知さ。だが、今からやる事を考えると、最大の障害である、あんたを動けなくする方が優先なんでねぇ」
(今からやる事……?)
スコールがヴラムを斬るという、ゲームに無い展開のせいで停止していた思考が、ようやく動き出す。
動き出した思考でまず思った事は、違和感だった。
(強敵のヴラムを潰すのは分かる……でも、潰したところで何になるの?)
スコールは以前の魔王が憎い。
だが、以前の魔王の復活が絶望的になったので、他の行動……つまり、オトシマエをつけている。
最初に思いつくのは、『腹いせ』だ。
憎い魔王を崇拝するテスタメントを粛清する、実際、さっきからのスコールの態度を考えても、テスタメントに何かしようとするのは間違いないだろう。
だが、最大の障害であるヴラムを斬ってから、スコールは何もしてこない。
ヴラムが動けない今、今すぐここにいる人達に襲い掛かって復讐するなんて簡単なはずなのに。
だとしたら、別の目的があるはず……つまりは、オトシマエだ。
オトシマエということは、おそらくスコールにとって理になる行動をしている。
利になる行動で最初に思いつくのは、テスタメントの掌握だが、おそらくこれも違う。
テスタメントを乗っ取るというなら、真っ先に狙うのは次期魔王の私のはず。
それに、ここまで挑発続けているということは、スコール自身もテスタメントの人心掌握をする気がないだろう。
(それに、テスタメントを掌握しても、スコールにとってあんまり意味がないはず……)
テスタメントは魔王崇拝要素が強く、一枚岩でもない。
さっきの公爵さんのように力を持った人もいるようだが、魔王崇拝は一級犯罪であり、証拠が見つかったら、問答無用で騎士団の中でも精鋭部隊が送り込まれてくるので、表立って動けないだろう。
それでも無理やり動かして、誰か捕まったりしたら、一枚岩ではないゆえの忠誠心の低さから自供する可能性が高く、なんなら多額の懸賞金目当てで密告者も出るだろう。
そこから証拠をひとつでも抑えられたら、国の最大戦力が襲い掛かってくる……そんな危なっかしい集団を、下になんて置きたくないだろう。
スコールのようにいわゆる裏家業で稼ぐ人からすれば、テスタメントは、取り込むより利用した方がいいはず。
つまり、ゲームのスコールのように、テスタメントの存在という情報……つまりは、『騎士団に通報されたくなければ黙っていろ』と脅しつつ、テスタメントを泳がせて、適度に利益を得た方がいいだろう。
だが、それでもスコールは、テスタメントに対してオトシマエと言っている。
魔王を復活させて斬ろうとしていたスコール……だがそれはできなくなった……そして、今からやるのはテスタメントへのオトシマエ……
「おっと、他の連中は動くなよ? あんたらが何もしないで暫く大人しくしてくれているなら、俺も、俺の家族たちも何もしねえよ」
スコールたちの最大の武器は、テスタメントの存在という情報であり、それを使わないということはありえない……そして、一番邪魔なのは、私じゃなくてヴラムといって攻撃した……
(……っ!?)
私の頭の中に、最悪のシナリオが浮かび上がってくる。
「そ、それは本当だろうな!」
「ああ、本当さ。30分ぐらいかねぇ? それだけ大人しくしていれば、ここから出られる。もちろん、そこに居るヴラムのオヤジもだ」
(まさか……)
魔王が現れないスコールにとって、今できる最大の復讐であり、最もオトシマエが大きいもの……
「……大物が多いほうが、アガリがデカいからなぁ」
その言葉に、疑惑が核心に変わる。
「皆さん、ここに居ては駄目です! 魔王崇拝者を捕縛しに、騎士団がここに来ます!」
気が付けば私は叫んでいた。
「え……?」
「何を言っているの?」
私の言葉に、ざわざわと騒ぎ出す魔族たち。
だが……
「黙れ偽物!」
「下手に動いて、そこのスコールに斬られたらどうするのだ!」
『偽物』である私の言葉は届かない。
「……だ、そうだぜ。お嬢ちゃん」
その言葉を聞いて、ニヤニヤするスコール。
やはり間違いない。
スコールの狙いは……!
――ズガァァン!
その瞬間に、会場に響く破裂音。
「……愚か者たちの叫びは、本当に耳障りね」
その音の中心には、魔導銃を撃ったアオイさんが居た。
「だ、誰が愚か者だ!」
「答えを貰っているのに、そこにいる狼の策略も見抜けない奴を愚か者と言って何が悪いの?」
「策略だと……?」
「今この場所は、そこの狼にとって良い稼ぎ場所ってことよ」
「稼ぎ場所? どういうことだ?」
「……そういうことですか」
その言葉にヴラムも気付いたのか、言葉を続ける。
「ここにある彫像や魔道具は、ひとつでも魔王崇拝の証明となるもの。そこに魔族たちは集まり、中にはこの国の宰相である私や、ワズル公爵、そして時期公爵のレムリア嬢もいる……この場所を騎士団に通報した者は、一生遊べる懸賞金を受け取れるでしょうね」
「……なっ!?」
顔面蒼白になる魔族たち。
「……先ほどの遠吠えは、おそらく騎士団へ通報をしろという合図。事前にここにある彫像や魔道具を手に入れておき、通報する時にそれを見せれば、最優先で騎士団が派遣されてくるでしょう」
――パチパチパチ。
拍手をし、ニヤニヤと笑いながら立ち上がるスコール。
「……まさか、こんなに早く見抜かれるとは。やっぱ、俺にはこういう策略系は向いてないのかねぇ」
「き、貴様! 我々を売ったというのか!」
「同じ魔族に向かってなんてことを!」
「同じ魔族ねぇ……色々と言いたいところはあるが、逃げたきゃ好きにしな」
「あ、当たり前だ! こんなところで捕まって……ひぃ!?」
いつの間にか、周りを取り囲んでいるヴラムの仲間達。
しかも、パーティー会場の時より数が増えている。
「……ただ、うちの家族は人懐っこくてねぇ。お前らが居なくなるのは寂しいとよ」
「くっ……!」
「さーて、全部見抜かれちまったし、ちゃんと働くとしますかねぇ。お前ら、宰相様を奥の部屋に連れていっとけ」
ヴラムに近づく、スコールの仲間たち。
だが、そこにアオイさんが立ち塞がる。
「おいおい、お嬢ちゃん。あんたが只者じゃないのは分かってるが、さすがにそれぐらいに……」
その言葉が言い終わる前に、アオイさんの周りに大量の光が現れる。
「……邪魔」
その声と共に、光は矢となって正確に敵を射抜く。
しかも対象は、ヴラムを連れていこうとした者だけではない。
「……なっ!?」
「こっちにまで……がはっ!?」
この会場に居た他の者たちを、正確に射抜いていく。
「……冗談だろ?」
さすがの状況に、スコールも驚く。
だが、そんなスコールを無視して、アオイさんはヴラムに肩を貸しながら立ち上がらせる。
「……向かってくる騎士団と接触するわよ」
「え?」
「現状の打破は、派遣中の騎士団を、宰相の貴方がなんとか追い返して、とにかく現場を抑えられない事。それ以外に方法は無いわ」
「……それを、俺が許すとでも?」
そう言いながら近づき、神速の抜刀を放つスコール。
肩を貸して動けなくなり、しかも油断している瞬間という完璧なタイミングだ。
「……なっ!?」
だからこそ、読みやすい。
「……」
バチィィ! という音と共に刀だけでなく、アポカリプスによるシールド展開でスコールを弾き飛ばす。
体制を崩すことなく着地するが、予想外のシールドを警戒してか追撃はしてこない。
「感謝はするけど、ここからは関わらなくていいわ。貴方は屋敷に戻りなさい。高速移動とそのシールドがあれば、切り抜けられるはずよ」
「……私はここでスコールを抑えます。いくらアオイさんでも、ヴラムを抱えながら正面のスコールの家族たち、後ろのスコールを相手にするのは無理ですから」
……自分でも驚くようなセリフが、口から出てくる。
決闘ではない、本当の意味での殺し合いになるというのに、私はここに残ろうと言っている。
「お馬鹿! あいつが危険なのは分かってるでしょ! ただの女子高生は引っ込んでなさい!」
本当にその通りだ。
いくらアポカリプスがあるといっても、私にできることなんてたかが知れている。
でも……
「理由は、はっきり答えられないんですけど……」
魔王の力で『みんなが自分らしく生きられる世の中にしたい』って言ったから?
偽者となったとはいえ、一応はテスタメントのトップみたいなものだったから、責任を果たすため?
理由っぽいものはいくつか浮かんでくるが、どれもしっくりこない。
ただ、強いて言うなら……
「……今逃げたら、一生後悔する気がするんですよね」
「……っ!?」
その言葉に驚くアオイさん。
今日は散々な日だけど、アオイさんの色んな顔が見られるのは新鮮なので、そこだけは得した気分だ。
「……変なところで、同じなんだから」
下を向き、表情は見えないアオイさん。
少しでも笑ってくれていると嬉しいが、たぶんそうじゃないんだろうなぁ。
「忠告はしたわ。あとは勝手になさい」
そのままヴラムに肩を貸しつつ、出口へと向かう。
「……死んだら、一生恨んでやるから」
「あはは……それって、死ぬより怖いので頑張ります」
「行くわよヴラム」
「……お願いします」
「ま、待て!」
「我々はどうすればいいのだ!」
そこに魔族の人たちが一斉にアオイさんに声をかける。
「貴方たちの面倒を見る余裕はないわ。襲われても助けなくていいというなら付いてきなさい。それが嫌なら、ここに居るのね」
「なっ……」
「お、おい!」
そんな魔族の人たちを放っておきながら、上へと向かうアオイさんたち。
さすがに言葉きつ過ぎなので、フォローでも入れたいところだが、申し訳ないけど私にもそんな余裕はない。
「……まさか、お嬢ちゃんたちがここまでバケモノとは、完全に誤算だぜ……俺、策略とか向いてねえのかなぁ」
「向いてないとは思いますよ。そういうのは、もっと性格が悪い人がやるべきだと思います」
「……それは、執事のお嬢ちゃんと、吸血鬼のオヤジ、どっちのことだぃ?」
「両方かなぁ……」
「ふふっ、ははっ! あははははっ!」
本気で爆笑するスコール。
本来ならここで私も気を抜けるところだが、笑っているのに全く隙が無いスコールを目の間にすると、そんな気は失せる。
「本当、もう少し早く出会いたかったぜ。魔王にも全然興味ないみたいだし、気も合いそうだしなぁ。本当に、世の中思い通りにはいかねえもんだ」
居合の構えを取るスコール。
獲物を狙う狼の目に睨まれ、体に震えが走る。
「……そうですね。世の中思うようにいかないっていうのは、同感ですよ」
自分の戦う意思とは関係なく、勝手に震えだしている体を見て、本当にそう思う。
「……しっ!」
そんな、思うようにいかない現状を、頬を軽く両手で叩くことで気合という自分の意思で、無理やり止める。
体は動く……いや、無理にでも動かす。
そうしたら、あとはもう前に進むだけだ!
「……二段、姫野葵。行きます!」
スコールに斬られ、片膝を付きながら傷を抑えるヴラム。
いつも余裕の態度を崩さないヴラムが、苦悶の表情を浮かべるということは、かなり深手だろう。
「……大丈夫ですよ。吸血鬼の私に斬撃など……」
ヴラムの体に魔力の光が宿る。
体を蝙蝠にしたときのように、何か動けるようになる魔法を使っていると思うのだが……
「くっ……!」
魔力の光が、まるで空気に溶けるかのように消えていく。
体にも力が入らないのだろう、そのまま倒れそうになる。
「無茶しちゃダメです!」
倒れる前にヴラムを支えるが、やはり上手く体が動かせないようだ。
「魔力が散っていく……まさか、その刀は……」
「さすが、俺のご先祖様の同僚。この魔族殺しの妖刀、ミスティルテインもご存知か」
刀を抜きながら、にやりと笑うスコール。
「あんたの想像は当たってるぜ。こいつは、さっきまで使っていた刀とは違う」
刀身にスコールが手を触れると、青い光と共に、不気味な文字が浮かび上がる。
「ご先祖様がクソ魔王様から受け取った、妖刀ミスティルテイン……魔力が強い奴ほど効くクソ魔王の呪いが込められているから、存在そのものが魔力みたいなあんたには、効果覿面だろ?」
「馬鹿なことを……! その刀は、使い手をも呪う妖刀……いくら魔力が殆ど無い貴方でも、ただでは済みませんよ……!」
「百も承知さ。だが、今からやる事を考えると、最大の障害である、あんたを動けなくする方が優先なんでねぇ」
(今からやる事……?)
スコールがヴラムを斬るという、ゲームに無い展開のせいで停止していた思考が、ようやく動き出す。
動き出した思考でまず思った事は、違和感だった。
(強敵のヴラムを潰すのは分かる……でも、潰したところで何になるの?)
スコールは以前の魔王が憎い。
だが、以前の魔王の復活が絶望的になったので、他の行動……つまり、オトシマエをつけている。
最初に思いつくのは、『腹いせ』だ。
憎い魔王を崇拝するテスタメントを粛清する、実際、さっきからのスコールの態度を考えても、テスタメントに何かしようとするのは間違いないだろう。
だが、最大の障害であるヴラムを斬ってから、スコールは何もしてこない。
ヴラムが動けない今、今すぐここにいる人達に襲い掛かって復讐するなんて簡単なはずなのに。
だとしたら、別の目的があるはず……つまりは、オトシマエだ。
オトシマエということは、おそらくスコールにとって理になる行動をしている。
利になる行動で最初に思いつくのは、テスタメントの掌握だが、おそらくこれも違う。
テスタメントを乗っ取るというなら、真っ先に狙うのは次期魔王の私のはず。
それに、ここまで挑発続けているということは、スコール自身もテスタメントの人心掌握をする気がないだろう。
(それに、テスタメントを掌握しても、スコールにとってあんまり意味がないはず……)
テスタメントは魔王崇拝要素が強く、一枚岩でもない。
さっきの公爵さんのように力を持った人もいるようだが、魔王崇拝は一級犯罪であり、証拠が見つかったら、問答無用で騎士団の中でも精鋭部隊が送り込まれてくるので、表立って動けないだろう。
それでも無理やり動かして、誰か捕まったりしたら、一枚岩ではないゆえの忠誠心の低さから自供する可能性が高く、なんなら多額の懸賞金目当てで密告者も出るだろう。
そこから証拠をひとつでも抑えられたら、国の最大戦力が襲い掛かってくる……そんな危なっかしい集団を、下になんて置きたくないだろう。
スコールのようにいわゆる裏家業で稼ぐ人からすれば、テスタメントは、取り込むより利用した方がいいはず。
つまり、ゲームのスコールのように、テスタメントの存在という情報……つまりは、『騎士団に通報されたくなければ黙っていろ』と脅しつつ、テスタメントを泳がせて、適度に利益を得た方がいいだろう。
だが、それでもスコールは、テスタメントに対してオトシマエと言っている。
魔王を復活させて斬ろうとしていたスコール……だがそれはできなくなった……そして、今からやるのはテスタメントへのオトシマエ……
「おっと、他の連中は動くなよ? あんたらが何もしないで暫く大人しくしてくれているなら、俺も、俺の家族たちも何もしねえよ」
スコールたちの最大の武器は、テスタメントの存在という情報であり、それを使わないということはありえない……そして、一番邪魔なのは、私じゃなくてヴラムといって攻撃した……
(……っ!?)
私の頭の中に、最悪のシナリオが浮かび上がってくる。
「そ、それは本当だろうな!」
「ああ、本当さ。30分ぐらいかねぇ? それだけ大人しくしていれば、ここから出られる。もちろん、そこに居るヴラムのオヤジもだ」
(まさか……)
魔王が現れないスコールにとって、今できる最大の復讐であり、最もオトシマエが大きいもの……
「……大物が多いほうが、アガリがデカいからなぁ」
その言葉に、疑惑が核心に変わる。
「皆さん、ここに居ては駄目です! 魔王崇拝者を捕縛しに、騎士団がここに来ます!」
気が付けば私は叫んでいた。
「え……?」
「何を言っているの?」
私の言葉に、ざわざわと騒ぎ出す魔族たち。
だが……
「黙れ偽物!」
「下手に動いて、そこのスコールに斬られたらどうするのだ!」
『偽物』である私の言葉は届かない。
「……だ、そうだぜ。お嬢ちゃん」
その言葉を聞いて、ニヤニヤするスコール。
やはり間違いない。
スコールの狙いは……!
――ズガァァン!
その瞬間に、会場に響く破裂音。
「……愚か者たちの叫びは、本当に耳障りね」
その音の中心には、魔導銃を撃ったアオイさんが居た。
「だ、誰が愚か者だ!」
「答えを貰っているのに、そこにいる狼の策略も見抜けない奴を愚か者と言って何が悪いの?」
「策略だと……?」
「今この場所は、そこの狼にとって良い稼ぎ場所ってことよ」
「稼ぎ場所? どういうことだ?」
「……そういうことですか」
その言葉にヴラムも気付いたのか、言葉を続ける。
「ここにある彫像や魔道具は、ひとつでも魔王崇拝の証明となるもの。そこに魔族たちは集まり、中にはこの国の宰相である私や、ワズル公爵、そして時期公爵のレムリア嬢もいる……この場所を騎士団に通報した者は、一生遊べる懸賞金を受け取れるでしょうね」
「……なっ!?」
顔面蒼白になる魔族たち。
「……先ほどの遠吠えは、おそらく騎士団へ通報をしろという合図。事前にここにある彫像や魔道具を手に入れておき、通報する時にそれを見せれば、最優先で騎士団が派遣されてくるでしょう」
――パチパチパチ。
拍手をし、ニヤニヤと笑いながら立ち上がるスコール。
「……まさか、こんなに早く見抜かれるとは。やっぱ、俺にはこういう策略系は向いてないのかねぇ」
「き、貴様! 我々を売ったというのか!」
「同じ魔族に向かってなんてことを!」
「同じ魔族ねぇ……色々と言いたいところはあるが、逃げたきゃ好きにしな」
「あ、当たり前だ! こんなところで捕まって……ひぃ!?」
いつの間にか、周りを取り囲んでいるヴラムの仲間達。
しかも、パーティー会場の時より数が増えている。
「……ただ、うちの家族は人懐っこくてねぇ。お前らが居なくなるのは寂しいとよ」
「くっ……!」
「さーて、全部見抜かれちまったし、ちゃんと働くとしますかねぇ。お前ら、宰相様を奥の部屋に連れていっとけ」
ヴラムに近づく、スコールの仲間たち。
だが、そこにアオイさんが立ち塞がる。
「おいおい、お嬢ちゃん。あんたが只者じゃないのは分かってるが、さすがにそれぐらいに……」
その言葉が言い終わる前に、アオイさんの周りに大量の光が現れる。
「……邪魔」
その声と共に、光は矢となって正確に敵を射抜く。
しかも対象は、ヴラムを連れていこうとした者だけではない。
「……なっ!?」
「こっちにまで……がはっ!?」
この会場に居た他の者たちを、正確に射抜いていく。
「……冗談だろ?」
さすがの状況に、スコールも驚く。
だが、そんなスコールを無視して、アオイさんはヴラムに肩を貸しながら立ち上がらせる。
「……向かってくる騎士団と接触するわよ」
「え?」
「現状の打破は、派遣中の騎士団を、宰相の貴方がなんとか追い返して、とにかく現場を抑えられない事。それ以外に方法は無いわ」
「……それを、俺が許すとでも?」
そう言いながら近づき、神速の抜刀を放つスコール。
肩を貸して動けなくなり、しかも油断している瞬間という完璧なタイミングだ。
「……なっ!?」
だからこそ、読みやすい。
「……」
バチィィ! という音と共に刀だけでなく、アポカリプスによるシールド展開でスコールを弾き飛ばす。
体制を崩すことなく着地するが、予想外のシールドを警戒してか追撃はしてこない。
「感謝はするけど、ここからは関わらなくていいわ。貴方は屋敷に戻りなさい。高速移動とそのシールドがあれば、切り抜けられるはずよ」
「……私はここでスコールを抑えます。いくらアオイさんでも、ヴラムを抱えながら正面のスコールの家族たち、後ろのスコールを相手にするのは無理ですから」
……自分でも驚くようなセリフが、口から出てくる。
決闘ではない、本当の意味での殺し合いになるというのに、私はここに残ろうと言っている。
「お馬鹿! あいつが危険なのは分かってるでしょ! ただの女子高生は引っ込んでなさい!」
本当にその通りだ。
いくらアポカリプスがあるといっても、私にできることなんてたかが知れている。
でも……
「理由は、はっきり答えられないんですけど……」
魔王の力で『みんなが自分らしく生きられる世の中にしたい』って言ったから?
偽者となったとはいえ、一応はテスタメントのトップみたいなものだったから、責任を果たすため?
理由っぽいものはいくつか浮かんでくるが、どれもしっくりこない。
ただ、強いて言うなら……
「……今逃げたら、一生後悔する気がするんですよね」
「……っ!?」
その言葉に驚くアオイさん。
今日は散々な日だけど、アオイさんの色んな顔が見られるのは新鮮なので、そこだけは得した気分だ。
「……変なところで、同じなんだから」
下を向き、表情は見えないアオイさん。
少しでも笑ってくれていると嬉しいが、たぶんそうじゃないんだろうなぁ。
「忠告はしたわ。あとは勝手になさい」
そのままヴラムに肩を貸しつつ、出口へと向かう。
「……死んだら、一生恨んでやるから」
「あはは……それって、死ぬより怖いので頑張ります」
「行くわよヴラム」
「……お願いします」
「ま、待て!」
「我々はどうすればいいのだ!」
そこに魔族の人たちが一斉にアオイさんに声をかける。
「貴方たちの面倒を見る余裕はないわ。襲われても助けなくていいというなら付いてきなさい。それが嫌なら、ここに居るのね」
「なっ……」
「お、おい!」
そんな魔族の人たちを放っておきながら、上へと向かうアオイさんたち。
さすがに言葉きつ過ぎなので、フォローでも入れたいところだが、申し訳ないけど私にもそんな余裕はない。
「……まさか、お嬢ちゃんたちがここまでバケモノとは、完全に誤算だぜ……俺、策略とか向いてねえのかなぁ」
「向いてないとは思いますよ。そういうのは、もっと性格が悪い人がやるべきだと思います」
「……それは、執事のお嬢ちゃんと、吸血鬼のオヤジ、どっちのことだぃ?」
「両方かなぁ……」
「ふふっ、ははっ! あははははっ!」
本気で爆笑するスコール。
本来ならここで私も気を抜けるところだが、笑っているのに全く隙が無いスコールを目の間にすると、そんな気は失せる。
「本当、もう少し早く出会いたかったぜ。魔王にも全然興味ないみたいだし、気も合いそうだしなぁ。本当に、世の中思い通りにはいかねえもんだ」
居合の構えを取るスコール。
獲物を狙う狼の目に睨まれ、体に震えが走る。
「……そうですね。世の中思うようにいかないっていうのは、同感ですよ」
自分の戦う意思とは関係なく、勝手に震えだしている体を見て、本当にそう思う。
「……しっ!」
そんな、思うようにいかない現状を、頬を軽く両手で叩くことで気合という自分の意思で、無理やり止める。
体は動く……いや、無理にでも動かす。
そうしたら、あとはもう前に進むだけだ!
「……二段、姫野葵。行きます!」
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