薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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あの事件から数ヶ月がすぎた。
真っ白だった景色は緑や桃色に。
首の痣は薄くなり、1人でも問題なく歩けるようになっていた。
3月には、優斗くんの誘いで遊園地に初めて行った。
新幹線も観覧車もすぎていく景色も、なにもかもが初めてのおれは数日くらい余韻で寝れなかった。
日記帳に書いたものがまたひとつ叶った。おれのやりたいこと100。
「ん……ぁ、しの……こするの、だめ」
「はぁ……お前、濡れんの早すぎ」
「だっ、て、しのの手……きもち、っあぁ」
ベッドのなかで陰茎を執拗に責められるから、どんどん頭がとろけていく。
「しのぉ……もと、もっと……して」
「……っ、あーやべ……今日撮影だっつの」
「ん、んんっ」
「ここがいいの。それともこっち?」
「あんっ、や……おしり、やだ、はぁーっ……」
「イけ、肇……ここで出していい」
「あ、んぅ、やだ……はや、ぁっ、でる……ッ!」
陰茎を強くにぎられた瞬間、おれは激しく射精していた。志野の手やベッドを濡らして罪悪感におそわれる。
「はぁ……は、お前まじでエロすぎ」
「んっ、ごめ……なさ……」
「すぐ謝るなよ……準備してろ」
「……あい」
シーツをはがしてベッドを立ち上がるかと思えば、おれの首を甘噛みしてきた志野にビクッと体が跳ね上がる。
「帰ったら死ぬほど抱いてやる」
「ッ!」
志野のバカ……っ
そんなの、期待しちゃうじゃんか……
おれは本当はセックスが好きじゃなかった。
さびしさを埋めるための道具としては最適だけど、誰とやっても孤独でつまらなくて。
それなのに、志野とのセックスは何度しても初めてしたような気になる。

怖いくらいのめり込んでしまう。
もっといじめてほしいと思うし、もっとグチャグチャにしてほしいとも思う。
あんなに嫌いだったのに今度は志野限定で、すっかり性依存になってしまった。
「……本当にいいのか?」
「え?」
「これから向かうところはお前の……」
「いいんだよ、志野。もう縁切ってるから。それにそんな奇跡的に会わないでしょ」
今日は志野の撮影に初めて同行する。
撮影中は自由に遊んでいていいらしい。
ドキドキするなぁ……撮影。
志野はメディアに出るのを極力避けていて、雑誌の掲載も有名でない出版社のものしか受けていない。人目にさらされたくないというより、おれのためだと思う。
有名になりすぎると自由が制限される可能性があるから。志野はそれを避けている。
それもそのはずで、もし志野が有名な出版社の雑誌表紙を飾ることになれば世の女性たちが放っておくはずがない。
「はぁ……志野ってイケメンだしきれいだもん、仕方ないね」
「あ?  なんの話だ?」
「窮屈じゃない?  おれのために活動制限するの」
「ねーよ。有名人になりたくてやってない」
「志野って欠点ないよね、そんな人間いるの」
「はぁ?  欠点ない人間がいるわけないだろ。お前がそう思い込んでるだけだ」
志野の欠点……欠点……
あれ、欠点ってなんだっけ。
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