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第二章 世界旅行

エピソード59 願いの街と奇跡の噴水(後編)

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  私の問いかけに、プリーアさんの動きが止まったような気がしました。

    聞いてはいけないことを聞いてしまったのでしょうか。

「私の家族、三年前に旅行に行ってから行方知れずなの」

ぽつり、とプリーアさんは呟きました。どこか儚げに、それでいて悲しそうな様子でした。

   私が口を開く前に、プリーアさんが先に声を上げました。

「でもね、あの噴水に硬貨を投げ始めてからたまに家族が帰ってくるようになったのよ!」

   無理に取り繕ってるわけでもなく、本気で言っているように思えました。

「姿は見えないけど、母親の料理が作り置きされていたりするのよ」

「それ、本当に帰ってきてるんですか?」

「本当よ。母の味は母にしか出来ないもの」

   プリーアさんはキッパリと言い放ちました。まあ本人が言うのならそうなのでしょう。

    プリーアさんは冷める前に食べてみて、と言うので私は「頂きます」と、チキンに手を付け始めました。

「んん!   美味しい、流石母さんの料理ね!」

「はい?  さっきご自身で作られてましたよね?」

    何かおかしい、そう思い私はプリーアさんに問いかける、プリーアさんは首を傾げながら言いました。

「何を言ってるの?  これは母さんの味よ。母さん、帰ってきているのなら一言言ってくれたら言いのに」

    冗談のつもりでしょうか、確かに私はプリーアさんが私の要望を飲んでチキンを作っている所を見ていました。

    ただそれにしては、プリーアさんの目が冗談めかしているようには見えません。

「あの、だってさっき私に食べたいもの聞いて⋯⋯」

「だから、これは母さんの料理よ」

    語彙に圧が加わりました、まるで事実をねじ曲げるかのように、信じたくないように。

「あの噴水に硬貨を投げてから、また母さんの料理が食べられるなんて⋯⋯いい事ばかりだわ」

  そこで私は気付きました。プリーアさんは正気を保っていない。硬貨を投げ込むことで、家族が帰ってきたという真実を作りこんでいたのでしょう。

   けれどその夢幻を解く勇気は、私にはありませんでした。知らない方が良いという時もありますし、私は食事を終えてから礼を言って直ぐに家を出ました。

   そこから数日、プリーアさんの事は気になりますが、私はこの街を出ることにしました。

   今後旅先でプリーアさんのような白髪で翠色の瞳をした方を見つけたら、話しかけてみようと思います。

   そして街から出る前、私はとある男性と話しました。

「プリーア?  ああ、あの子か。可哀想に、両親が死んだ事実を受け入れられないで毎日噴水へ効果を投げているんだ」

「死んでいるって⋯⋯」

「旅行中に乗っていた船が沈没したそうだ」

    薄々察していました、訳あって戻れないという場合もあると思いましたが、大方不慮の事故でもうこの世にはいないと思っていました。

   そして私はこの事実をプリーアさんに伝えずに街を出ました。彼女にはお世話になりましたから、知らない事が救いというのならば手を出さない方がいいですしね。

   下手に伝えてうっかり心が壊れてしまったら、彼女までご両親の元へ行ってしまいかねませんから。
   




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