上 下
1 / 11

プロローグ それさえも私はどうでもよくて

しおりを挟む
    初めに言っておくと。

 私は顔にアイドルになれるとまでは思わないが、そこそこ自信がある。

 声だって声優までとは行かないが、悪くないと思っている。

 発育だって、胸は少し小さいけれど他の子と比べてそこまで遅れていない。

 そのせいか、中学に上がった頃から男子達の下衆な会話の中に私の名前が度々出てくるようになった。たまに告白もされた。

 女子からはどうも私が気に食わないらしく、私に聞こえるように何度も嫌味を言われた。自覚はないが調子に乗っているんだとか。

 世間からしたら虐めの部類に入るのだろうけど、私からしたら割とどうでもよかった。

 親から与えられたスマホ一台あれば暇はいくらでも潰せたし、友達を無理に作る必要性はあまり感じられなかった。

 ただ、親は私をいつも心配していた、「学校は楽しい?」「そんなに辛いなら転校してもいいのよ?」と毎日のように語りかけてくる。

 「学校はどうだった?」

 そう聞かれるので毎日素直にありのままを答えていたらこうなった。

 これも世間からしたら優しい親に分類されるんだろうし嫌いではないけれど、私には少し面倒くさく感じた。

 以上が私の人生と自己紹介だ。

 周りからは可哀想な子と扱われる事が多いが、当の私は無関心。

 ましてや虐めで自殺なんて考えたことも無かった。

 だから、本当に死ぬなんて思わなかった。


 中学からの帰り道、酷く雨が降っている。

 「寒い⋯⋯」

 季節は夏。

 夏期用の制服を着ているため半袖。

 傘は持っているが雨は私の素肌に触れ、体温を奪っていく。

 こういう時、赤信号が永遠の様に長く感じる。

 私の周りにはお婆さんが同じく信号待ちをしている。

 「あ、もうすぐ青になる」


 誰に言うわけでもなくポツリと呟いた一言は雨で全てが掻き消された。

 私は青信号になったのを見て、滑らないように慎重に歩いた。

 後ろにいるお婆さんもその様で、そのペースだと青信号の間に渡りきれないんじゃないかと心配になる。

 その時だった。

 確かに私は青信号で横断歩道を渡ったのに、トラックが止まることなく突っ込んできた。

 どうやら雨で滑ったみたいだ。

 「え、ちょ⋯⋯嘘でしょ?」

 トラックはまるで自分だけを狙うかの様に、衝突した。

 私の華奢な身体なんてひとひねりなんだろう、見事に吹き飛んだ。

 飛んで行った身体は走馬灯を感じる暇もなく、水溜まりの中にばしゃりと着地した。

 薄れゆく意識の中で、私はあのお婆さんの身を案じた。

 巻き添えを喰らっていないかと。

 「あ、ああ⋯⋯警察ぅぅ!!」

 お婆さんは無事な様で、元気に慌てふためいている。

 お婆さん、そこは救急車呼んで欲しいな。

 だんだんと私の意識は遠のいてゆく。

 人は気の力が大切だという。強い意志の力は難病にも打ち勝つなんて話が幾つもある。

 ただ私の場合、死にたくはないが特別生きていたくもないという結論しか出てこなかった。

 周りからはシャッター音だけが鳴り響いている。どうやら誰も助けに来る様子は無いようだ。

 「なんかもう⋯⋯いいや⋯⋯」

 人って結局こんなものか、と年端もいかない癖に勝手に人生悟りきったつもりになった。

 死ぬ前に人生を振り返ってみようと思ったけれどこれ以上振り返ることがなかった。

 私の今までの人生って、小説にすると何頁まで埋まるんだろうな。

 だんだん脳が回らなくなってきた。薄れゆく視界には微かに、血で染まったアスファルトが見えた

 そろそろお迎えかな。誰が迎えに来るかは知らないけど。

 私は静かに目を閉じて、自分の死を受けいれた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

処理中です...