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CHAPTER 50 END

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CHAPTER 50




ファーストコンタクト 第2ラウンド
 日本国 千葉県銚子市 銚子漁港沖 洋上のホタテ貝型巨大宇宙船


「あんた、いいガタイしてるねぇ。ウチでバイトしないかい?」
放置されたネクステンデッド2体を担いで運んで来た邦哉に、クルーザーの船長が声を掛けた。

星岬が仮設本部を置いた場所からは、直線距離にしておよそ500メートルはあると思われる。

その距離を運んで来たのだ。

途中から水に浸かって足元も悪くなる。

「遠慮しておこう。」

一言だけ返すと「ターニャ、サーディア、受け取ってくれるかい」と、指示を出した。

その指示に速やかに従う二人。
渡されたモノを、各々が入って来た輸送ケースに納める。

肩の荷が下りた所で、両肩をぐるぐると回して調子を確かめる邦哉。
そのままクルーザーに乗り込むと、サーディアたちが入っていた輸送ケースに向かう。

ケースの中に詰められたネクステンデッドと呼ばれる宇宙人の人工人間装置は、身長が2m程度あり、手足がすらりと長いモデル体型であった。サーディア達の輸送ケースでは窮屈そうに膝を曲げて納めてあった。

それでも、美しい・・・と、男女を問わず思わず注目してしまう事だろう。

「所長、サンプルの搬出準備、完了した。」 ターニャに話しかける邦哉。星岬に繋いでもらっているのだ。

「了解した。開発主任はサーディアとそのまま先に戻ってサンプルの解析に入ってくれ。・・・あ、ターニャは置いて行ってくれ。それと」

「サトウキビも、だな?」 邦哉の声に外耳を大きくしているターニャに苦笑しながらクーラーボックスの中を確認して、サトウキビをまとめると、ターニャに持たせた。

クーラーボックスのバンドをタスキ掛けにしたターニャに見送られて、サーディアと邦哉は技研への帰途に就いた。

 



 
 
ホタテ貝型巨大宇宙船が地球に来てから12時間ほど経過した。
時刻は午前10時を回っている。
 
サーディアとターニャが潜んでいたフジツボのようなモノは、非常口のようなモノで、巨大宇宙船の内部と繋がっていた。

その(非常口の)ドアを二人が吹っ飛ばしてしまったので、案の定潔いというか籠城する気などさらさらなく、チーフオフィサーが単独で飛び出して来たのが一時間と少し前。

大暴れをするかと思われたが、一変しておとなしかった。
今はここを離れて、臨時に召集される議会の証人喚問に出席するべく向かっている最中であろう。
チーフオフィサーを迎えに来たのが自衛隊だったのが印象的だった。

他の連中は動く気配を全く見せない。「外に出てみないか」と誘ってみたが、チーフオフィサーの帰還を待つというので、こちらから船内にお邪魔してもよいか?と聞いてみた所「勝者はチキュウジンなのだから勝手にすればいい」との返事だったので乗り込んだところ、船内は天井が丸ごとスクリーンになっており、千葉の海が空がまるで透けて見えているかのように映し出されていた。





 
「ターニャ、そこに在るさっき自分で運んで来た白いクーラーボックスにサトウキビが入ってる。
 休憩にするといい。全部は食べるな、今日は暗くなるまでここで仕事だからな。」
星岬がターニャを気遣っている。
 
「分かった」 ウホウホとさとうきびをかじるターニャの後ろ姿がオニギリみたいで可愛い。
 
「休憩にしよう!」 星岬が皆に聞こえるように声を張る。
 
星岬が乗ってきたクルーザーの他にもこの宇宙船の周りには大きさも様々な船がおよそ50隻は係留している。この後もまだまだ増えそうだ。
 
なにせ2000kmの全長とそれに近い全幅がある建造物だ。
 
反対側に何が取り付いたとしても、今は解ろう筈もない。
 
 
係留している船の全てが星岬技研の関係では無いが、それにしてもよくもこれ程集まってくるものだと関心していると、一部の船舶が騒ぎ出した。
 
宇宙船の縁から何か出てきていると言っているようだ。
 
ターニャにはピンときた。
 
姐さんを取り込むときに見えたあのビラビラが張り出してきているのだ。
 
だけど、コントロールは姐さん・旦那・オレが押さえている。何が起きているのか分からない時は、取り敢えず騒ぎ出した場所を尋ねるのが一番だ。
 
「オレ、ちょっと見て来る」
 
「頼む」 そう言って仕事を任せてしまう星岬は、さっきから何かしきりに鉄パイプを継ぎ足しして、まるで地盤調査をしているみたいだ。

「これで2mは入ったか?」 星岬は研究所員に聞いた。

「はい、2mは入っています。」 研究所員は答えた。

「予想外に厚いな」 次の作業を何にするかw考えていた星岬は少し考えてから独り語ちた。

「それに予想に反して軟らかいようだ。金属ではないか、焼き物?」

「一旦抜きますか?」

「いや、続行だ」

その時、きーーーーーっと音を立てて機械が停止する。

「地面で言うなら岩盤に当たったと思われますが、構造体か何かに到達したのではないかと」

回転の止まった鉄パイプ(ドリル)の状態を確認した研究所員がこの後の作業について確認する。

「これ以上は機械を痛めるだけだと思われますが、続けますか?」
 
「いや、もういい。船体表面のサンプルは充分だろう。次だ、次」
 

すると、さっき騒ぎのあった場所を見に行ったターニャが声に出さず通信で知らせてきた。
 
『親父、この宇宙船、動いてる』 
 
『なにい?』 私に気付かせず動くなど有ってはならない。
 
『自動防衛機能か何かが働いているのだろう。監視を続けさせよう』
 
親父(星岬)はスタッフを一人寄越すよう宇宙船調査統括本部に連絡を入れると、スタッフが来るまでの間オレとの会話を求めてきた。
 
オレは親父を人前では役職で呼んでいる。そうするように親父に命じられたからだ。
 
親父はオレより強い。だから命令はきく。前はそれだけだった。でも今は、なんかスゲーと思ってて、このヒトの役に立ちたい、そんなことを思ってる。
 

 
この宇宙船は大き過ぎる。
この宇宙船の陰になっている所で、今この瞬間に幾つもの生命・種族が急激な環境変化に対応できず死に絶えている事だろう。
我々に出来る事は、この宇宙船をまずは移動させる事だ。

そうしなければ、漁場に壊滅的なダメージを与えてしまうだろう。
そんな話を親父としたのだった。




 

 
星岬技術研究所  南研究棟1F  第1作業室   
 
 
 
技研の南研究棟1Fに、作業室がある。
 
ターニャも最初はココに運ばれた。
 
2体のネクステンデッドはそこに運ばれていた。
 
リーチフォークを駐機させると、搬入口を閉めながら、邦哉は考えていた。
 
がらんとして殺風景な室内には、今降ろした荷物の他に、作業台とツールボックスが一つずつあるだけだ。
 
帰所の道中でサーディアから受けた報告で気になる点をまとめながら、即日解決可能な調査目録を捻出する。
 
輸送ケースを一つ手にすると、開錠して中身を取り出す。
 
作業台に静かに横たえる。
 
「サーディア、彼らの翻訳は完璧だったんだな?」 邦哉が訊くと、コクコクと頷くサーディア。
 
「だが君を“貴公”と呼んだ。そう翻訳された。そのカギは恐らくここにある。」 
 
腰巻に手を掛けると脱がそうとするので、サーディアは慌ててそれを阻止する。
 
うぇいうぇいうぇい
 
再び腰巻に手を掛けると脱がそうとする邦哉。
 
うぇいうぇいうぇい と、阻止するサーディア。
 
「何故邪魔をする?」 腕まくりを始めて、いよいよやる気を出してきた邦哉。
 
「あーたこそ、ナニをしようというの?」 顔を真っ赤にして断固阻止の構えのサーディア。
 
「脱がせばわかる。こういう事だ!」
 
「あ!」
 
驚く程の手際で、邦哉は邪魔をするサーディアをかわして腰巻を取り去った。
 
サーディアには初めて見る景色だった。
 
そこには両性具有の性器があった。
 
つまり、彼らには男女の区別がないのだ。
 

サーディアの体験してきた所に寄ると、彼らはサーディアを同質の存在として認知したようだ。
 
また、詳細なところは今後の調査が明らかにしていくことだろうが、彼らは“精神生命体”のようなモノではないかと推測される。
 
実体を持たないという点から、“個”という概念が希薄なのかもしれない。
 
彼らにも美徳があり、それは勇ましさにありそうだ。
 
特に単独での任務の遂行などは、称賛に値するようで、これは“個”として機能できる者への憧れからくる感情ではないだろうか?
 


「そう言えば“貴公”って呼び方は、男同士で使う二人称よね?」 翻訳は難しい、とサーディアは思った。
 
「同輩または目下の間柄で使われる呼び方、だったかな」 邦哉が説明する。

勇ましさを良しとしていた彼らにも男女はある
だが男女の区別なしか
 
「サーディアはどう思ったのさ?」 
 
「別に何とも」
 
 
 
巨大宇宙船はその後、北極上空に移動した。
地球温暖化の影響で溶けだしている海氷の、解凍阻止に役立つのではないかと配置してみたものの、着氷させると海氷の尽くは沈んでしまうので海面水位の上昇を招くことになった。
それでは浮いた状態を維持させれば、とギリギリを探ってみたものの、意外と高さがあるので、地球の形状が変わってしまうためコレもダメだ。
巨大宇宙船が平たいからと言って、最大全長2000kmもある物体がまるで高さがないなどという事は有り得ない。
航空機の航路を阻むほどの高さ(厚み)を有する巨大宇宙船は、太陽光を遮る点だけは間違いなく効果有りだったが、弊害の方が多いようだった。
 
結論として、地球上には置き場所がないので、宇宙に置くことになった。
 
と、云う訳で北極点上空8000kmに、地球の自転に合わせて回転するように調整して係留という形で巨大宇宙船は落ち着いた。

なお、この宇宙船と地上を繋ぐ軌道エレベーターを設置予定である。

 

 
 
チキュウジンは、ホタテ貝型巨大宇宙船で飛来したエネルギー生命体「ネクステンド」(仮称)と共存の道を模索し始めていた。
世の中がそんな風潮になったのは、アークロボット・OSサーディアの存在だった。
そしてもう一つ、人工人間装置だ。
ネクステンドは、このような組み合わせが広大な宇宙に存在する可能性は、稀ではないと言っている。
  
ネクステンデッドは人類の身体によく似ていて、否なるモノ。
その組成はどちらかと言うと植物或いは菌類に似ている。
光りと水があればネクステンデッドは維持できるという事だ。
ネクステンデッドを増やしたい時は、ネクステンデッド同志で交わり受胎、妊娠を経て出産という形で個体数を増やしていた。
ネクステンドが、種族を増やしたい時は、これに便乗して行なうとのこと。
ネクステンド同志で直に行なうと融合が起こり種族を減らすことになるという話だ。

 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 

4人は昼食を採るため本部棟20階の展望レストラン「ダンデライオン」に来ていた。

「姐御はダンナと“良い仲”ってヤツなんじゃないんでやすか?」
 
唐突にターニャがぶっ込んで来た。

「あーた、何を言い出すの?」 ギラリと危うい光を放つサーディアの双眸が、ターニャを捉える。
 
「まぐわってんだろ?」 ストレート過ぎる言葉で星岬がターニャを援護する。・・・援護なのかコレ。
 
「開まで何を言い出すの?」 サーディアの拍動が激しく乱れ出す。
 
「まぁ、そういう事なんじゃないか?」 落ち着いた様子で星岬が確信を得たという合図に指鉄砲で邦哉を狙い撃つ!
 
「まぁ、そういう事なんでやしょうな。」 片目を閉じてもう片方の目でジッと二人を見るターニャ。
 
「邦哉ぁ、何か言ってやってよ」 さすがに恥ずかしくなったのかサーディアが助けを求める。
 
その邦哉は顔を真っ赤にしてしっかり固まっている。
 
「なぁ~によう? も~お!」 
 
巨大宇宙船の件から2年が経過したころ、あたしは何とも言えない初めての体験をするに至る。
それっていうのは、甘くって酸っぱくって、つまり、それは、なんていうか、あれだ・・・
 

デキちった。
 

・・・唐突すぎよね?
落ち着いて、今、ちゃんと説明するから。

どういう事かと言うと、今あたしは、巨大宇宙船の件で手に入れたネクステンデッドを参考にして、新たに作られた人工人間装置の性能確認の任務に就いている。
まずは女性を模した新型人工人間装置が完成した。
なぜ、男性型が遅れたのかというと、作っているのが男ばっかりだから。
この技研の連中ときたら、女性型はそれで張り切っていたけど、男性型はしょーもないこだわり満載で、サイズは無段階がいいかどうかとか、太さと長さは各々調整可能なのかとか・・・。
あぁ、目眩が。

この新型人工人間装置には今回の目玉、受胎機能が再現されている。
誰?この機能ばかり試してるんだろうなんて言うのは? 
ということで邦哉と結び合う事幾夜なるか、といった感じだから、その、なんだ・・・あぁ~、もう!
イライラする!
 
要するに、幸せに暮らしてる  って事。
OK!?
 
 
 








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