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CHAPTER 47

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CHAPTER 47



星岬技術研究所 本部棟 22階 社長執務室(兼 星岬開 自室)



星岬は、配線ケーブルが無数につながる自作のゴツイ肘掛け椅子に座っている。

次々に切り替わるモニター画面を全て見て把握しながら、途中から身を乗り出すように上体を起こして何かじっとして居られないとモジモジし始めた。

その時、人生においてそう何度もないであろう瞬間に遭遇する事となった。

そう、火星付近にワープアウトしたホタテ貝に似た物体に関する情報を掴んだのだ。

「宇宙人キターーーーーー!」

これは要注目だ!

星岬は独り天井を仰いで両拳を頭上に高々と振り上げた。








星岬技術研究所 南研究棟2F 開発主任室(兼 紀伊邦哉 自室) 


激しい息遣いがしている。

ここ開発主任室は来訪者が少ない。

通路に見られる研究所所員の通行は途切れがちで、行き交うヒトは多くない。

それでもドアに「只今取り込み中」と、暗に入って来るな、邪魔するな、という意思表示の札が掛けられている。

行き交う者はその札の意味を知ってか知らずか、大して気にする様子もなく否、人によっては頬を赤らめてうつむき加減で通り過ぎていく。

事務机でついさっきまでPCに向かって作業をしていた邦哉だったが、今はその膝の上にサーディアが座っている。

いや、少し違うか。

事務椅子に座っている邦哉をサーディアが跨いでいる。

「はっ・・・はっ・・・」

「オレはっ」

この二人はこんな時に何をしているのか?

ナニをしているのだから仕方ない。

「はっ・・・あんっ」

では何故この様なコトになったのか、そのプロセスをもう一度見てみよう。



「サーディア、落ち着くんだ。」

事はおよそ6時間前、全長200キロメートルにも達する巨大建造物が火星の近くにワープアウトして来たことに端を発した。

何の前触れもなく現れたそれは、特に何かする訳でもなく沈黙を保っているように見えた。

だが、巨大隕石や小惑星と誤認しないくらいの科学力は持ち合わせていた人類は、早々にそれが自然に出来上がったものではないと結論付けると色めき立った。

つまりこの沈黙の巨大建造物が、地球以外の何処かで地球人以外の誰かに作られたものであると結論が出ると更に舞い上がったという話だ。

そして、世界中の無線愛好家たちが謎の通信を拾い、これが巨大建造物からの通信であると気付いて、どうやら接触を求めているのだろうと見解がまとまると、政治家の出番となる。

世界中が未知の生命体とのファーストコンタクトになるだろうという予感めいたものに湧き上がっている頃、各国の政治の場ではこの件のリーダーシップの取り合いが行なわれていた。

なにせ人類初の地球外生命体との正式な接触である。

地球人の宇宙人デビューだ。

そのリーダーシップの取り合いも苛烈を極め、平行線が続くと、にわかに方向が分らなくなって迷走し始めた。悪目立ちする政治家はことごとく退場を余儀なくされ、残った政治家は実行力を試される事となった。

だが、ここで実行力を疑われては体裁が悪いと各国の政治家は、もっと状況が分かり易く改善されるまで解答を保留して、その収まりどころを科学者に回して落ち着くように情報操作した。

宇宙人とファーストコンタクトがとれる!

地球上のあらゆる分野の科学者たちが、この美味しそうな餌に食いついた!

ように見えたが、実際には科学者たちの殆どはこれが責任転嫁であることを見抜き、政治を叩いてホコリをたてた。

再び矢面に立たされた政治家達は、みっともないくらいに全力で当てにできるモノを探して全世界に呼びかけた。

そして一筋の光明が見えてきた。

それは通信が出来れば何処へでも行くし、人間のように考えて決断できるロボットの存在。

あろうことか全世界の政治家が、最初の接触を人類ではなく、生物でもないモノに任せても良いという結論を承認したのだ。

協力要請として政府から話しを持ち込まれた星岬は、先の責任転嫁の時には動きすらしなかったのだが、そんなにやる奴がいないのならと、動いたのだった。

誰かがやらねばならない事だから星岬は受けた訳だが、結果的にサーディアが泥を被る形で決まりとなった。

という具合だ。

要は貧乏くじを引かされたわけだ。

これではサーディアが乱心するのも無理はない。



サーディアは理解に苦しんでいた。

「なんであたしが特使なの!? ワケわかんない」 

邦哉が説明する。

「それはキミの能力が今回のような案件の任務に向いているからだよ」 

サーディアが熱暴走状態になっている。

「人類はバカなの? 真性のバカなの?」 もう滅茶苦茶な事言ってます。

「落ち着くんだ、サーディア」 止める方も大変です。
なにせ人工人間装置の最大出力は通常人の10倍程度は発揮できるという設計ですので。
フルパワーのビンタでも喰らったら人間の頭など木端微塵になることでしょう。

「これが落ち着いていられると思う? 本気で思う?」 髪を振り乱して騒ぎ続けるサーディアです。 

 なんだか酔っぱらいの相手をしているようなそんな気持ちでいる邦哉は無言です。

「ああ、もう! こんな事・・・なっ・・・もう!」 憤り過ぎて、もはや日本語が成立しない程乱れています。

何とかしなくては!という気持ちが邦哉を動かします。

「count to ten SAHDEAR 落ち着けって」 邦哉は精一杯の本気で話しかけている

「もぉぉぉ・・・なんでっ、こんなっ」 今、サーディアを動かしているのは怒り、純粋な怒りではないのか?

「あたしに人類の代表を?、運命を任せるって言ってるのよ、あーた達は!
もし本当にアレに知的生命体がいたとしたら、きっとあたしが地球人だと誤認するわよ。
知らないからね、こんなかたちの渉外なんて!
これが人類のやり方か!? ふざけすぎだろ!? 
あたしにダイスを振らせるな。
どんな目が出ても、ホント、知らないんだから!」

激しい息遣いにサーディアの興奮具合が解るというもの。

「せめて人類は自らの代表を人間から選出するべきだわ」 

これは茶番劇であり小細工だとサーディアは思った。


「よりにもよってここであたしを“使う”だなんて・・・。」

どうして人間は全部じゃないけど、選ばれて上に立つといつもいつも勝手になるのよ!

ん? “選ばれて”“勝手になる”?

なんだか唐突に理解できてしまったような気がして、サーディアは深く息を吐くと踵を返して邦哉に正面で対峙する。

あたしも選ばれて勝手になってた!!

邦哉は関係ないのに、当たり散らして・・・、さぞ不愉快な思いをしたろうに・・・。

「でもやっぱ、イラつくぅぅぅ」 

サーディアはごく自然な動作で、邦哉の唇に自分の唇を重ねた。
三つ数えるくらいの間重ねると、ゆっくりと離れていった。

「・・・サーディア・・・?」 不意を突かれた事ではなく、何を考えての行動だったのか解らずに困惑する邦哉。

「あたしの方から言わないとわからない?」 

「何? なんでそうなる」 雰囲気で察した邦哉が説明を求める。

「あたしに人間の証を頂戴」

「オレは普通じゃないんだぜ」

「あーたが遺伝子レベルで変異しているのは知っている。
それ故に普通でないのも承知している。」

サーディアはそれが何か問題でもある?といいたげだ。

「だったら」 邦哉は問題ありだろう、といいたげだ。

「こんな時に何でって思う気持ちもわかる。
あたしを大事にしてくれている事も理解している。
でもあたしが今欲しいのはあーたとの深い繋がりなの。
だから、今がいい、いいえ、今じゃなきゃ嫌なの」

若干頬を赤らめて上気した顔をしているサーディアが、腰を曲げ最敬礼の角度を保って上目遣いで邦哉に接近する。
そして、事務椅子に座っている邦哉の膝を指先でさわさわと撫でまわす。

「サーディア、キミは暴走している」 少々硬い表情でサーディアを見つめる邦哉だった。
だが、その眼差しはとても穏やかでサーディアは胸の奥が“きゅん”となるのを初めて感じた。

なによ今の? サーディアは“きゅん”の意味するところが解らなかった。
「あたしは極めて冷静よ」
そう言うとサーディアは邦哉の膝に延ばしていた手をゆっくり動かした。

太腿のやや内側を軽くなぞるように動かした手は、少し元気になってきている邦哉の男性自身に行き当たる。
「こっちの“あーた”は嫌じゃなさそうだけど?」 スラックスの上から撫でまわされて、すっかり元気に反り返っている邦哉自身がスラックスを突き破りそうだ。

「負けたよ、サーディア。 だからもう、そんな誘い方はしないでくれ。」 
邦哉はPCが置いてある事務机に片肘をたて頬杖をついている。

「だったらどんな誘い方なら良いっていうのよ?」 そんな態度が気に障ったのか、不機嫌な調子でサーディアが言った。

「キミは十二分に魅力的なんだよ。だから、その・・・なんだ・・・」 何故かしどろもどろになる邦哉。

「だから? やっぱりしないの?」 かなり寂しそうなサーディア。

「いや、なんかフラグが立つのを感じるんだ」 かなり寂しい事を勘繰る邦哉。

「なによ、これが最後だとでもいうの? 四の五の言うな! 男だろ」 イラッときたサーディア。

思い返せばこのヒトの事を考えだすといつもイライラしてしようがなかった。

目の前のベルトを外しジッパーを下げるとパンツの上から歯を立てて甘嚙みする。

その間に自分のパンツスーツを脱ぎ去ると、甘嚙み解除。

いきり立った邦哉のジュニアをパンツをずり降ろして露わにすると、反り立つのに合わせてその上から腰を落とした。

座位である。

思っていたよりもいやらしい音を立ててサーディアは邦哉を迎えた。

熱病に浮かされたようにフワフワした感覚がふたりを襲った。

サーディアは目を閉じなかった。
全て見ていたかった。

邦哉も目を閉じなかった。

ふたりとも目を逸らさずにジィーッと見つめ合ったまま、ゆっくりと、じっくりと相手の形を確認するかのように動いている。

上になっているサーディアが先に攻め始めた。

腰をグラインドしながら上下にも小刻みに動いた。
誰かの動きを再生するのではなく、自分の動きたいように動くことを心掛けた。

どうかしら? しばらくの間、リズミカルに腰を振っていたサーディアは邦哉に視線を送って具合を確認してみた。

眉間にしわを寄せていた邦哉が眼を閉じた。
どうやら動きを堪能しているようだ。

自分の動きに感じてくれている! 
サーディアは確信をもって今この瞬間を、至福の時を受け入れた。

それに応えるように邦哉は、前を閉じていない白いジャケットの中、目の前でぷるんぷるんと揺れているお乳を引き寄せるように両腕をサーディアの背中に回してホールド。
一度抜くかのように動いて見せて不意を突くようにサーディアを突き上げた。

「!ーーーーーーーーー!」

たまらずサーディアは邦哉の首を抱きしめた。

物凄い快感がサーディアを襲った。

貫かれる快感。

この快感をわすれない。

瞬間、カミナリが落ちたかのような光とピシャーンという音が室内に響いた。

パリパリと放電された電気が音を立てている。

どうしたことか?邦哉の服がビリビリに裂けている。

これはサーディアが防御(護身)用に自ら開発したバリアみたいなものの誤発動であろう。

少し煤けて黒くなった邦哉がピクリと動くと一文字に結ばれた口が歯をむき出して邪悪な笑みを浮かべた。

自分の首にしがみつく格好で小刻みに震えるサーディアの耳元で邦哉が囁く。

「オレの想いはこんなもんじゃ・・・」

つづく言葉は突き上げてくる快感によってかき消された。  

サーディアが敏感に反応している。

更に突き上げると、抱きついて来る力が緩んできた。 

サーディアは人工人間装置の制御を忘れる程、何度も繰り返し突き抜けた。

蜜壺は開放されてトロトロと蜜を溢れさせている。 

突き上げられる度にサーディアはピカッピカッと光っては邦哉がジュウジュウと香ばしい匂いを強めていった。

邦哉の匂いが焦げ臭くなってきたところで、邦哉は背中に回していた腕をサーディアの桃尻に置き直すと、尻を揉みしだきながらぐりぐりと奥を攻め立てた。

ずっと「あんあん」言っていたサーディアの調子が変わった。

吐息混じりの低く伸びやかな感じで咽喉を鳴らせている。

「あ~~~いーーー」

邦哉は尻から太腿へと手を滑らせると事務椅子から立ち上がった。

もちろんサーディアを貫いたままで。

「あっ ぃやん」

駅弁である。

自由になった腰を思い切り振り乱してサーディアを攻める。

「きゅうぅぅぅぅぅ」

振り落とされないようにしっかりと邦哉の首にしがみ付いているサーディアが謎の声を発している。

首にしがみ付く力が、気力が、まだあるのかと、二人はお互い同時に考えた。

そんなサーディアを支える邦哉は、限界に来ていた。

皮膚は黒ずみ、割れて赤く肉が見えるのに血が出ていない。湯気を上げながら肉汁が滴り落ちている。

全身である。

普段は開いてるのか閉じてるのか分からない細い眼も、今は仁王の如き眼光を放っているが、瞳は白く濁っていて、とても見えているとは思えない。

だが動く!

とにかく腰を振る!

サーディアがカムカム言い出した。

もう一振りだ!

「ああん、あたし、もう」 サーディアが限界を訴えている。

邦哉も限界だ。

「受け取れぇい!」

「あぅ」

サーディアは邦哉の種が自分の奥に蒔かれたのを確かに感じて幸福感に満たされていた。

いつから閉じていたのか分からないが、幸福感にみたされて安心したのか、サーディアは目を開けて邦哉の惨状に気が付いた。

「ギャーッ、邦哉! 大丈夫!?」

よく耐えた、邦哉。

我々はキミの勇姿を忘れないだろう。

いつまでも、いつまでも。

「イッたけど逝ってないから」 邦哉は生きていた。




この後、邦哉は開発主任室の奥にある秘密の部屋にあるカプセルに入って肉体の再生治療を受けて難を逃れた。

邦哉は元々、人間の姿に細胞変異を促進するウィルスを持っているので、肉体の再生に問題は無いのだった。

治療は一晩で済んだという・・・。

この二人はいいパートナー関係だと思う。

そう思うヒト、感想お気に入り登録よろしくお願いします。(^^;




― 星岬メモ ―

人工人間装置に快感が分かるのか?

という疑問もあるかに思われるので、ちょっと説明を。

普段と違う外的衝撃を受けると、ダメージの大小に係わらずダメージデータとして回路に残る
のだが、このダメージデータが快感に通じているのだ。

ダメージデータが大きいほど快感は強くなる。

このデータはきちんと整理が出来ているデータであることが絶対条件。

例えば凹凸の連続があるとして、そこを同じく凸凹が連続しているものが行き来する。

単純なデータだが、きちんと整理されたデータ同様の内容になっているのだ。 

凸凹の連続はつまり連続する数字の羅列。

数字の羅列を行き来するもう一つの数字の羅列。

繰り返される数字の羅列。

これが気持ちイイの正体だ。

人工人間装置には快感が解る! 













星岬技術研究所 本部棟 7F 総務部



早速、サーディアを特使として派遣する段取りが組まれる事となり、星岬技術研究所はにわかに忙しくなっていた。

そんな状態であるにもかかわらず、当人は端から余裕のある様子で自らの守護対象者とくんずほぐれつやっている。

すぐには終わりそうにないな・・・。



「そう、そうだ! 海外派遣とは違うって言ってるだろ!? わっかんないかなぁ」

総務部は現在、第一級繁忙態勢にて営業中である。

「手続きの件、最優先で回して! 最優先!」

サーディアの移動に使う通信機器の使用許可を取るために動く者、報道関係者からの問い合わせに対応する者、各国の政府外交からのフレンドリーな連絡を受ける者、国内の一般回線からの問い合わせに対応する者などなど。

多種多様な連絡を捌くために、総務部は全力で職務に当たっていた。

そこへ白衣の裾をなびかせて、颯爽と入室してくる者がひとりいた。

入室するなり最優先業務の概要を簡潔に説明する。

「サーディアに火星まで飛んでもらう。
火星の周回軌道上で現在稼働中の火星探査機を使わせて貰う。
飛ぶと言っても本当に飛ぶ訳ではない通信だ。
中継機はなるべく足並み揃えて於いてくれたまえ。」

星岬である。

星岬が執務室(自室)から降りてきている。

先頭に立って電話を捌いている。

受話器など使わなくても電話に出られるにもかかわらず、星岬は嬉々として受話器を相手に話しをする“ポーズ”を好んでいた。

通訳要らずの機械の身体で、バリバリと働く姿はサラリーマンの憧れにもなり得る。

星岬は秘書を置いていないので、全ての対応を最終的には自分でこなしている。

これ以上はない手際で全ての電話を捌ききると、総務部に歓声が沸き上がった。


全ての電話を捌ききると言っても、星岬は通常業務の問い合わせなどは部内のオペレータに対応を任せて割り振っているし、決して不可能なことをやっている訳ではない。

また、総務の仕事に手出し口出ししているように感じる向きもあるかもしれないが、どのみち自分に回ってくる連絡であるならば、その場で対応してしまえば良いと合理的に考えて実践しているだけで、所員の仕事を奪っている訳ではない。

所員にしても、自分の能力不足を疑うものはなく、星岬が仕事をさせてくれないと理由をつけてサボりを決め込むあさましい輩も滅多にいないと聞く。
  

「諸君、これで終わりではないよ。 引き続き気を引き締めて頼む。」

そう言うと白衣を翻して総務部を後にする星岬だった。







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