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ある宿場町の事例

ある宿場町のケース 3

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それから後は無我夢中だったのでよく覚えていない。

とにかく3体を相手にしなければならなかったのだ、仕方がないだろう?

気力が残っている内に、なんとかしないと分が悪くなるだけだ。

銃は一旦背中に担いで、オレは一番近い位置にいるヤツにアタリを付けると自ら近付いて行った。

そいつは銃のようなモノを持ってるヤツだった。

そいつはそいつで無警戒に近づいて来るオレに何を思ったか知らないが、銃のようなモノを構えるでもなく、鉄兜に開いた二つの穴の奥を赤々と輝かせてオレの接近を凝視しているようだった。

“人間ヨ、我等ハ”

何か話しかけられたような気がしたが、ここにはオレとお前らしかいないじゃないか。

せめてあの世では仲良くしようぜ!



そんな思考を読んでいたのか知れないが、オレは宇宙人の人形のフトコロに飛び込むことに成功した。


無心で腰に帯びたナイフを素早く引き抜くと宇宙人の人形のアゴを狙って力いっぱい振り上げた!


だが、やはり人形の方が素早かった。

オレが振り上げたナイフは、宇宙人の人形の左の裏拳に弾き飛ばされてしまう。

次の瞬間、オレの左耳のすぐそばでパーン!といい音がすると、目の前の宇宙人の人形の頭の辺りから“ボッ!ココココン”と貫通音に続いて狭い空間での跳弾の音が聞こえた。

ゆっくりと上を仰ぐ。

想像以上に解かりやすく宇宙人の人形のパワーラインがオフラインになっていると見て取れた。

鉄兜に開いた二つの穴からタラタラと赤く着色された液体が流れ落ちて止まらない。


何が起きたのか?

オレの使ったナイフにはテグスが結び付けてあった。

そんな事、知ったこっちゃない宇宙人の人形はオレの手からナイフを払い落とすだろう。

恐らく遠慮なしの力技で叩き落とすだろうから、相当な勢いで吹っ飛んで行くだろう。

するとナイフに結んであったテグスが伸び切り、肩に掛けているショットガンのトリガーに結んでおいたテグスが引き絞られて弾丸が発射される。

照準は適当、出たとこ勝負だったが、ラッキーだった。



1体撃破!



こんなに上手くいくなんて思いもしなかった。

さて、銃のようなモノを持ったヤツを始末できたのは本当にラッキーだった。

銃のようなモノは危険なので回収しておこう。

と思ったが重すぎる。軽く30kgはあるのではないか?

置いて行くしかないか?


さてと、浮かれている場合じゃないぞ。

気にしてなどいられなかったが、一体どれほどの時間が経ったのか?

それにもうだいぶ前から物音が聞こえない。

他の皆はどうなった? 



不安で頭がいっぱいになる。

ここでこうしてジッと様子を窺ってオレは何を待ってるんだ!?

ビビったのか!?

ああそうさ!

オレはビビってんだ!

悪いか!?

ビビって何が悪い?

くそっ!!

辺りはすっかり夜の闇に呑まれてしまい、いつもの静寂とは明らかに違う静けさを感じさせる。

これは、人の営みが感じられない、そう云った静けさだ。

とにかく少しずつでも移動しよう。



ジャリッ ジャリッ と、宇宙人の人形の足音が聞こえてくる。

こっちに近づいている。

見つかったか?


オレはその場を後にした。

そうしてオレはただ逃げ回っているだけじゃない。

この逃走ルートは銃・弾薬の保管庫へ向かうルートだ。



やがて夜が明けて闇が晴れると、昨夜の静寂の意味を理解した。

町中のみんなが、町から姿を消していたのだ。

残っているのはオレだけか?

自警団の皆もこの町から脱出したのか?

いや、脱出していてくれ!

念のため広場の様子を確認する事にした。

最短距離で広場を目指す。



何とか広場の様子が把握できる場所まで辿り着いた。

昨夕の戦闘の開始直後、奴らに石を投げて反撃に遭い倒れた者がそのままでいるのが見えた。 

皆即死だったってのか?

くそっ!!


オレは、死ねなくなったぞ。


今は勝てずとも生き延びてリベンジを果たす。

決意を新たにし、オレは撤退を開始した。

そう思って広場を背にしかけたとき、町に馬車が入って来るのが見えた。

あれは、行商の・・・

定期的にやって来てくれる気のいい行商のオヤジだ。

オヤジのヤツ、何を見ている?・・・誰か、いるのか?


・・・・って、おい!

間が悪かったとしか言いようがない。

多分、行商のオヤジは見知らぬ奴に愛想を振っただけだ。



行商のオヤジが愛想を振った見知らぬ奴っていうのに心当たりが、非常に嫌な心当たりがある。

そいつは思い出すのも不愉快なヒトの形をした人でなしで殺しても死なないようなヤツだ。

そんな奴が行商のオヤジを意味もなく手に掛けようとしている。

オレはその光景から目が離せなかった。

宇宙人の人形の1体が、オレが破壊して放置した“銃のようなモノを装備した”宇宙人の人形から銃のようなモノを拾い上げるのが目に入ったからだ。

まさか“アレ”は宇宙人の人形なら誰でも使えるものだったのか!?

やはりそのまま置いて来るべきではなかった!

オレはそわそわして革製のベストのポケットを探って残弾を確認する。

拾い上げた銃のようなモノを構えると、宇宙人の人形は行商の親父に狙いを付けているように見えた。


「あぶねぇぞ! 逃げろ!!」


オレは行商のオヤジに向けて声を張り上げた。

ドーーーン!

と大きな音がして眩い光が行商の親父を照らしている。



オレは弾かれたように走った!

窓から姿が見えないように、両手を地につけ、四つ這いで走った!

そうだ、オレは思い出していた。

回収を諦めた宇宙人の人形の銃のようなモノはただ置いてきた訳じゃない。

バレルと思しきところに銃弾を詰めて放棄したのだ。

そうとは知らず宇宙人の人形め、まさかこれ程上手くいくとは!



自分たちの兵器で事故ったのだ。

破壊力は折り紙付きだ。


広場へ降り立つと、転がっている筈の死体がない!!!

いや、死体こそないが、部分なら残っている。

パッと見て腕には見えないほど傷んですすけているが、大きさからして腕だろう。
腕だけが転がっている!


恐らく銃のようなモノの暴発に腕を痛めて且つ本体に影響を及ぼしそうになったのでパージ(切り離し)したんだ。

1体撃破、更に1体半壊!?

これで奴らの残りは無傷が1体、半壊1体、合計すれば2体は2体だ・・・が、希望はまだある!

この日、片腕を失った奴と無傷の2体は何を思ったのか動きを見せなかった。

オレはというと、いつまた動きを見せるか分からない奴らの事が気になって仕方がなかった。

結果として、オレは奴らが動こうが動くまいが精神力を消耗する事が分かった。

こんな経験滅多にできないぞ!?


ふと頭に浮かんだ言葉がこれだ。

オレは頭がおめでたいのか?

バカかオレは。

誰でもいいから生きてるって合図をくれ!

くそぅ、気が変になりそうだ。



そう思った瞬間だった。


背後から振り下ろされた丸太のような何かが、両肩の骨を砕くのを感じた。

激痛に支配された脳は、不安や恐怖よりも、冷静に自分の両肩にめり込んだ大きく無骨な手首を視界の隅に確認しつつ、如何にしてこの窮地を脱するかを思案していた。


こんなところで終わりたくない!!心底そう思った。

その時だった。

(・・・・・・キミは、強い!)

 不意に声が聞こえた気がして、奴がそこにいるのを思い出した。

(・・・・・キミは、強い。これからは、我のために強くあれ・・・・・)

心に直接語りかけて来たその声は、揺るぎない意志すら感じさせるもので、人生の最期を覚悟させるのに充分な威厳を有していた。

不思議と不快感はなく、むしろ心地よく心に響いた。


「いいぜ・・・くれてやる!」


締め括りの一言だ、少しくらい芝居がかっていてもいいだろう? 

それに多分、聞いてるやつも、誰もいない。

後ろにいる奴以外は・・・・・

って?、「我のため」?

何かが心に引っ掛かる。

「我」・・・?

何が心に引っ掛かるのか?

コイツ等、自我があるのか?

そうだ、考えろ! 

考えをやめない限り、オレは奴に屈したことにならない!

オレはオレのままでありたい。 

だが直後、オレは自分の身に起きているおぞましく、受け入れがたい現実に、ただただ恐怖することになった。

視線の先の窓に残った、割れた決して大きくないガラス片に薄っすら映る現状。

オレの両肩を丸太のような太い腕ががっしり掴んで固定している。

宇宙人の人形の頭が、ヤツの肩から生えている何本もの細い腕によって解体されていく。

宇宙人の人形の頭は、あっという間に手鍋のような状態になると、気持ちオレの頭の後ろに近付いてきた。

すると、ヤツの肩から生えてる細い腕がシュッシュとか、シュインとかキシュンなどの様々な音を立てながら、オレの頭の周りで動き出した。

オレは、見ていた。

見ている事しかできなかった。

オレは今、生きたまま脳ミソを抜き取られたのだ!

恐怖のあまり声すら出せずにいる自分を見ているのは、さっきまで敵だった奴自身だ。

展開していたパーツの中心に、俺だったモノの頭部から抜き取られた脳ミソが収容されると、音もなく閉じていく。

そして薄気味の悪い鋼鉄製の髑髏を形作った。

更にそれを、子供の落書きの方がマシに思えるほど、のっぺりしたマスクが覆い隠す。

少し遅れて、はだけていた上半身から展開していた何本かの細いロボットアームは戦闘服の乱れも綺麗に整えて収納された。

 オレは・・・、どうなっちまったんだ? 立ち上がって踏み出した足が何かを蹴飛ばした。


人間の死体だ。


頭部が丸く切り取られ、頭の中身が、・・・脳ミソが無くなっている。

なんだこれは?死者を冒涜することになるが、足で小突いて器用に体勢を変えてやる。

見覚えのある顔・・・・オレじゃないか。

え?オレの死体?何の冗談だ。

オレはこうしてここに・・・・・ いつも見ていた景色より、目線が高いことに気が付いた。

手を見る。

次に足を見る。

何故オレが奴らの戦闘服を着ている・・・。

視界が真っ赤だ。

色が・・・ 

(うっ)

視界の中を何か文字列がすごい勢いで流れていく。

見たことない文字だ。

文字列が止まり、最後の一行が点滅すると、視界に色が戻った。

(ああ、良かった。)

ほっとした直後、自分が敵の格好をしているのに気が付いた。

さっき見ていたガラス片に近づく。

色々、思いつく限りのポーズをとって確認する。

(やっぱり、これがオレだ。)

また、視界を文字列が流れていく。

相変わらず見たことなかった文字だったが、今は何故か意味が分かる。


(なになに・・・) 

レーダーに反応?

索敵、警戒レベル、最大?! 

即時選択、迎撃?戦闘回避?

警告?!対象確認中、遭遇!頭部ユニット、被弾。

損傷・・・トランスルーセント943618タイプS・・・出力低下。 

機能維持、バックアップ、・・・データリンク…通信途絶。

機能損失、復元開始、再起動・・・・・エラー・・・システム応答なし。

不明なデバイス・・・・・・出力低下・・・・・・・・コマンド、エラー・・・・・エラー・・・・・・・エラー・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・  ・・・・・・・・

宇宙人の機械人形の頭部に装備された、小さな穴のようなデザインの眼に相当する多目的センサーの瞬きが、ゆっくりと消えてゆく。


片腕のない宇宙人の人形が立っている。

一本しかないその腕にはショットガンが握られている。

器用に腕を振るとショットガンが指先を軸に回転運動をする。

ガシャっと音を立てて排莢と再装填を済ませると床に転がる同胞に近付いて片膝をつく。

“943618よ。 この人間は我の獲物だ”

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