異世界隠密冒険記

リュース

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第三部「全能神座争奪戦」編

紅鬼とキャンプ地

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 結局のところ、二人は別々の寝袋で寝た。
 ただし、横を見れば相手の顔が間近にある距離。

 クロトは朝早くに目覚め、シロナの整った顔が目の前にあった為に驚愕。
 慌てずに昨夜のことを思い出して、状況を理解した。

 適当に寝ているように見えて、敵の襲撃の際に対応しやすい位置取りになっている仮拠点。こういう小さな努力が、シロナの幸運を生かすのである。

 クロトは体を起こしつつ、何気なくシロナの頭を撫でる。
 撫でた後で、シロナにこんなことをしたのは初めてだと思い至った。
 癖のようなものだったのだろう。

 そして、それに目敏く気づいたシロナ。


「ほうほう、クロトはいつの間にか女っ誑しになったことで。どれ、どんな女の子をどんなふうに落としたのか、お姉さんに教えてみなさい。」

「っ、そんなつもりはないよ。彼女たちとは自然とそうなっただけでね。特に口説き文句を言った覚えはないから。」

「ホントかなぁ~?」


 起き抜けだというのに、ニヤニヤしながら揶揄うシロナ。
 本来は眠りもあまり必要無いおかげか、寝覚めはかなりいいようだ。

 クロトは自分が不利だと感じて、話題を変えにかかった。


「そういうシロナこそ、随分色気づいたよね? 昔は服装なんて気にしていなかったのに、今では少しお洒落になってるし。」

「なんだとー! 私だって一端のレディ?になったんだから当然のことだよっ!」

「レディ・・・・・・フッ。」

「鼻で笑われた!?やっぱりクロトはあんまり変わってなかった!!」


 何故かショックを受けたような振りをするシロナ。


「ま、色気づいた割には、昔と変わらずに無防備だったけどね。」

「ふ~ん? クロトもそういうのが気になるお年頃かぁ~。」

「僕はただ、一般論を述べているだけであって―――」

「あははっ、言い訳しちゃって~! ほれほれっ!」


 クロトはシロナにやりこめられて何も言えなくなった。
 頬をムニムニつつかれながらも、それを甘んじて受け入れる。

 好きでもない女性の肌など見てもまるで気になりはしない。
 そういう意味では的外れな発言。

 だが、シロナのことを好きかと聞かれれば・・・好きだと答えるしかない。
 そこに恋愛感情が無くとも、好きだという感情は間違いなく抱いている。

 だからこそ、欠片も気にならないということはないのである。
 そういう意味では的を射ている発現。

 そういう訳で、否定も肯定もできなくなったのである。

 なお、シロナはそれを分かっていてやっている辺り、とてもたちが悪い。
 以心伝心も善し悪しであるいい例だ。


「―――年を経ている割に子供のままの部分が大多数だね・・・。」

「それは言ったら駄目な奴だよっ! 私だってちゃんと自覚してるしっ!! 大体これは、元はといえばクロトのせいで――――」


 結局のところ、今朝の舌戦は引き分けに終わった。
 そして、そんな他愛もない会話の間にも出発の準備を進めている二人であった。











「ととっ、『白天神の飛閃』っ!」

「――――『神天一閃・龍絶』!」

「グオオオオオオッ!!」


 シロナの飛ぶ斬撃で足を切断されて倒れ込む<紅鬼ブラッドオーガ>。
 倒れ込んだ先に回り込んでいた隠密状態のクロトが首を刎ね、戦闘終了。

 昨日遭遇した<赤鬼>の上位個体であったが、まだまだ余裕がある二人。
 これでも幻想種鬼区分レベル106で、ランク〖B+〗だったのだが。


「なんか、鬼ばっかりだね?」

「ああー、それはアレだね。私たちが進む先にある<深紅>地区にも色々あるんだけど、この先には鬼の縄張りがあるから、そのせいだよ。」


 クロトは解体しつつ、なるほど、と頷いた。

 シロナの言う通り、クロトたちが進む先には鬼の縄張りがある。
 一口に<深紅>地区と言っても、その広さは優に一国の領土以上。
 当然、色々とあるのだ。色々と。
 
 それだけ広大な場所なのに人は殆ど居ないのだから、出会いもしない。
 先を急ぐ二人からすればとても有難いことなのだが。

 二人は現在、<赤>地区と<深紅>地区の間にある小さな集落を目指している。
 闇雲に恋人たちを探しても見つかる訳がないので、情報のあるかもしれない場所を目指すのは当然のことだ。

 何故そんなところに集落が、と思うかもしれないが、実際は集落ではない。
 そこより先の探索をする前に少しでもゆっくり休むため、いつの間にか出来ていた開けた場所。言ってしまえば、共同のキャンプ地のようなものだ。

 超越者たちは我が強い者が多いので、探索などにおいて競争が激しい。

 こちら側に居るのは大抵、内側で成功して名を上げた者。
 当然の如く争いもあり、その質と量どちらにおいても、内側の世界の比ではない。

 そんな中でも、暗黙の了解ではあるが、そこは中立区とされている。

 先へ進みたいのに足の引っ張り合いなど、できれば御免願いたい。
 それが九割方の共通認識である。
 勿論例外も居るのだが、集落のような場所ができるのも自然なことであった。

 なお、こういった集落はそこそこの数が存在している。


 二人の視線の先に僅かに見えてきたのは、そういう場所だ。

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