異世界隠密冒険記

リュース

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第三部「全能神座争奪戦」編

親友との再会と回顧

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 ここはアウターワールド、その中にあるノーマルエリアの一角。


(・・・ん?僕は今、何をして・・・。確か、神界で・・・っ!)


 意識を覚醒させたクロトは、自分たちの身に何が起きたのかを思い出した。
 だが、起き上がろうとすると、何かに押さえつけられて身動きが取れない。
 状況の把握を急ぐと、後頭部に柔らかい感覚があることに気づいた。


(これ・・・アクアの膝枕を思い出すね。アクア、無事だといいけど・・・。)


 クロトはアクアの身を案じつつ、完全に意識が覚醒し、その目を開いた。


「―――あ、起きた!かれこれ三時間くらいかな?具合はどう、クロト?」

「・・・・・・シロナ?」


 クロトはしばらくポカンとしたあと、自分の顔を覗き込んでいる女性が誰なのかを把握した。紛うことなく、シロナその人だった。
 シロナはニヤリと笑って、珍しいクロト表情を堪能しつつ、問いに答える。


「その通り!クロトが大好きなシロナちゃんだよっ!」

「・・・それはどっちの意味で?いや、それ以前にこの体勢は・・・っ」

「おっ? もしかしてクロト、照れてるの? 顔が赤いよ~?」

「・・・この感じ、間違いなくシロナだ。ということは・・・」


 クロトはシロナの揶揄いをつとめて気にしないようにしつつ、考察を開始。


(シロナが居るということは、ここはアウターワールド。そして・・・)


「シロナ、話をお願い。」

「んーとね・・・空から降ってきたよっ!あ、降ってきたのはクロトだけだよ」

「ん、ありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして、だよ!」


 ごく短く簡潔なやりとりだが、二人の間ではこれで通じるようだ。

 話をお願い、という言葉には、ここまでの話、という意味が含まれている。
 そして、自分以外に誰かいないかの確認も含めていた。

 それと、「ありがとう」には助けてくれたことへのお礼も含まれている。

 普段はここまで簡潔ではないのだが、今は状況の把握が最優先。
 それ故の言葉の少なさだ。


(やはり、バラバラに飛ばされた、か。一体何者だったのやら・・・。)


 クロトは気を失う直前までのことを思い出し始めた。



 〇〇〇



 クロトはクラリエルにシステムの確認を急がせたが、それは手遅れだった。
 既に黒ローブは、システムの介入をほぼ終わらせていたのだ。

 そして、その目的は・・・。


「クロトっ!全能神の権能が消失していますっ!!」

「っ、やられたね・・・。」


 完全にしてやられてしまい、クロトは珍しく歯噛みした。
 神界のシステムを完全に理解していないが為に、後手に回ってしまったからだ。

 普通は責められないようなことだが、クロトにとっては失態だった。

 黒ローブの手元に現れた、虹色の光。
 全能神の権能だ。

 それをどうするのか、とクロトは思ったが、その答えは直ぐに出た。

 なんと、虹色の光が二十四に分かれて飛び散ってしまったのだ。


「――――――――」

「っ、やはり、時空神の権能を犠牲にしても、それで限界なのね・・・。」

「――――」

「はぁ・・・。アドバンテージの無いタフな争奪戦になりそうね・・・。」


 銀ローブのアリスと黒ローブの会話。
 そこからクロトは、彼女らの目的について凡その予想をつけることができた。

 本当はそのまま権能を手にしたかったのだろうが、それは叶わなかった。
 できたのは、その権能をばら撒き、再び回収するという二度手間の下策。
 神界のシステムはそこまで甘くないということだろう。

 もっとも、彼女らは予め予想していたことのようだが。

 クロトはそう結論を出し、この場をどうするかに指向をシフトした。

 そもそも、目の前の存在が敵かどうか、未だに定かではないのだ。
 自分たちへのスタンスが分からなければ、対応にも迷いが生まれかねない。
 そこの確認は急務であろう。


「それで、あなた方は何者なのですか?私たちの敵なのですか?」


 混乱から立ち直ったアクアが代表で尋ねた。


「そうね・・・敵、だと思うわ。クロト君であれば私たち、いえ、誰かが全能神顕現を集めて、全能神の座につくことを望まないでしょうから」

「そうだね。そういうことなら、僕の敵になる」


 誰かが全能神の座につく。
 それは、クロトにとって到底認められることではない。

 極論、屑が全能神になれば、自分たちがどんな目に遭うか分からないのだ。

 そしてそもそも、創世神であるクラリスが無事では済まない。
 不正規の手段で全能神になることが罷り通ってしまえば、膨大なエラーが発生する。システムの中核を担うクラリスが無事で済むはずがない。
 よくて、自我の消滅だろう。

 クロトとアクアは意を決し、武器を構え・・・・・・ようとしてできなかった。
 またしても自体が動いたからだ。


「っ、また神界に侵入・・・いえ、でも、これは・・・?」

「クラリエル?」


 ラファエルに憑依したままのクラリスが、何かに驚き、目を見開いた。

 その直後、神界に侵入してきたのは・・・巨大な灰色の狼だった。

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