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第二部「創世神降臨」編
終わりにして始まりの時
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最後のイベントであるコンサートも終わり、感謝祭は無事に閉幕した。
なお、演奏にはクラリエルも参加していたのだが、誰も気づいていない。
神器のおかげであるのだが、演奏を見ていた者は後日気が付くであろう。
そう・・・「会長の隣で演奏していたの、創世神様じゃないか・・・?」と。
それはさておき。
「クロト、とても楽しませて頂きました。本当に、ありがとうございます。」
「どういたしまして。ま、ときには休息も必要ということも覚えておいてね?」
「はい。未だ天秤は揺れ続けていますが、誰も幸せになれない道は選びませんよ。」
「そっか・・・。それは結構。」
既に別れは済ませて、神界に戻ってきている三人。
ここに居るのはクラリエル、クロト、アクアだけ。
他の者はゲートがあっても自力では神界に来れないので、世界樹で待機である。
完全に自力で神界へこられるのは最高神だけなので、仕方のないことだろう。
「さて・・・そろそろ、この体を返さなくてはいけませんね。」
「そんなに痴女に戻りたいの?」
「もともと痴女ではありません!いつまでそれを引っ張るのでございますかっ!?」
心外だという意思を伝え、瞬く間に否定した。
クラリエルからすればたまったものではないのだろう。
<・・・もう少し使って頂いても構わないのですよ、クラリス?>
「ラファエルさんの言う通り、遠慮することはありませんよ?」
「いえ、馴染みすぎるのもよくありませんから、今回はここまでです。」
アクアとラファエルが引き留めるものの、クラリエルの意志は変わらない。
人々と触れあい、ともに過ごすことは、彼女にとって最高に幸せな時間だった。
それはまるで麻薬のような依存性があり、だからこそ溺れ切ってはいけない。
(私は、守護者であり導くべき創世神。堕落する訳にはいきません・・・。)
クラリエルはこのままでいたいという誘惑を跳ね除け、その選択をした。
それが自分のためであり、世界の為であるのだから、と。
「これで最後という訳でもないし、そこまで名残惜しくなる必要はないけどね。」
「そうですね。何度も行使できる儀式ではありませんけど、次はありますから。」
どこか湿っぽい空気になってしまったので、クロトがそう口を挟んだ。
アクアもそれに乗っかり、綺麗な微笑みを浮かべる。
今回使用した『救済神の扉』は大掛かりな仕掛けが必要だ。
いくつもの要素を組み合わせ、ようやく発動することができる。
今の仕掛けのままでは何度も行える儀式ではないが、確実に次はあるのだ。
だから、今生の別れというわけでもなければ、永遠の別れでもない。
悲しむ必要など、どこにもないのである。
とはいえ、少し雑談をするぐらいはいいかと判断し、クラリエルは話し始めた。
「ところで、棚上げになっていた全能神の権能についてでございますが・・・。」
「ん、それは本当に心当たりがないんだよね。今の僕ではそんなことできないし。」
「やはりそうでございますか・・・。では、一体どうして・・・?」
今の僕、というところを軽く聞き流して、思考の波に落ちるクラリエル。
神界への扉を開いたクロトに関しては今更感が強いのだろう。
(確かに権能は流出して、尚且つその痕跡が存在しない。一体何故・・・?)
どれだけ考えても答えが出ない。
クロトが隠蔽し嘘を吐いているという恐れを捨てると、本当に方法が無いのだ。
なにせ、現状ではこういうことになるのだ。
流出しているのに流出していない、と。
明らかに矛盾している。
流出したという事実は間違いなく存在するのに、その記録が無い。
記録が欺かれるという事態もクロトというイレギュラーがなければあり得ない。
否、そもそも隠密神の権能でそんなことが可能なのかも不明である。
言うならば、消去法で殺人事件の犯人を幽霊に仕立て上げるようなものだ。
どうあがいても、起こりえない事象の解明など出来るはずがない。
しかし、クラリエルと同じく思考に耽っていたクロトは思いついてしまった。
もしかしたら今の状況を生み出せるかもしれない可能性について。
そのあまりにも突拍子もない理屈について。
それはすなわち、こういうことだ。
「クラリエル。もしかして・・・今の段階では流出していないんじゃないか?」
「・・・・・・え?」
クラリエルはクロトが何を言っているのか理解できなかった。
なにせ、『流出していない』などといわれても、現に魔法陣が下界にあるのだ。
それは『流出している』という事実を否応なく証明しているはずだ。
(いえ、違います。重要なのは、『今の段階では』という部分。つまり・・・っ!)
クラリエルもクロトの言いたいことを理解してしまった。
到底信じられないような突拍子もない推測を。
だが、そう考えるなら、殆ど筋が通ってしまうのだ。
「つまり・・・今より未来に、全能神権限が流出する、ということですか・・・?」
創世神であっても未来の全ては分からない。
故に、どれだけありえなさそうな事象でも、それを否定しきることができない。
今より未来に権限が流出し、時を越えて今より昔に権能が流れた。
だから今の段階では流出の痕跡が無い。
やはり筋は通っている。
しかしそれは、一つの目を逸らしたくなる事実を指し示していた。
「私が健在である間は、そのような流出は起こさせないはずです。
ならば・・・。この私に何か悪い事・・・いえ、ハッキリ言います。
・・・管理者不在になる未来が、この先にあるということになります。」
その鬼気迫る様子と、言葉の意味に、アクアは息をのんだ。
クラリエルはこう言っているのだ。
管理者不在・・・つまり、己が消滅するか、それに準ずる何かが起こる、と。
三人は押し黙って、一言も発しない。
だが、その沈黙は意外な者に破られることとなった。
それは、神界に存在しなかったはずの、四人目の人物。
「この段階でそれに気づくとは・・・流石ね。」
なお、演奏にはクラリエルも参加していたのだが、誰も気づいていない。
神器のおかげであるのだが、演奏を見ていた者は後日気が付くであろう。
そう・・・「会長の隣で演奏していたの、創世神様じゃないか・・・?」と。
それはさておき。
「クロト、とても楽しませて頂きました。本当に、ありがとうございます。」
「どういたしまして。ま、ときには休息も必要ということも覚えておいてね?」
「はい。未だ天秤は揺れ続けていますが、誰も幸せになれない道は選びませんよ。」
「そっか・・・。それは結構。」
既に別れは済ませて、神界に戻ってきている三人。
ここに居るのはクラリエル、クロト、アクアだけ。
他の者はゲートがあっても自力では神界に来れないので、世界樹で待機である。
完全に自力で神界へこられるのは最高神だけなので、仕方のないことだろう。
「さて・・・そろそろ、この体を返さなくてはいけませんね。」
「そんなに痴女に戻りたいの?」
「もともと痴女ではありません!いつまでそれを引っ張るのでございますかっ!?」
心外だという意思を伝え、瞬く間に否定した。
クラリエルからすればたまったものではないのだろう。
<・・・もう少し使って頂いても構わないのですよ、クラリス?>
「ラファエルさんの言う通り、遠慮することはありませんよ?」
「いえ、馴染みすぎるのもよくありませんから、今回はここまでです。」
アクアとラファエルが引き留めるものの、クラリエルの意志は変わらない。
人々と触れあい、ともに過ごすことは、彼女にとって最高に幸せな時間だった。
それはまるで麻薬のような依存性があり、だからこそ溺れ切ってはいけない。
(私は、守護者であり導くべき創世神。堕落する訳にはいきません・・・。)
クラリエルはこのままでいたいという誘惑を跳ね除け、その選択をした。
それが自分のためであり、世界の為であるのだから、と。
「これで最後という訳でもないし、そこまで名残惜しくなる必要はないけどね。」
「そうですね。何度も行使できる儀式ではありませんけど、次はありますから。」
どこか湿っぽい空気になってしまったので、クロトがそう口を挟んだ。
アクアもそれに乗っかり、綺麗な微笑みを浮かべる。
今回使用した『救済神の扉』は大掛かりな仕掛けが必要だ。
いくつもの要素を組み合わせ、ようやく発動することができる。
今の仕掛けのままでは何度も行える儀式ではないが、確実に次はあるのだ。
だから、今生の別れというわけでもなければ、永遠の別れでもない。
悲しむ必要など、どこにもないのである。
とはいえ、少し雑談をするぐらいはいいかと判断し、クラリエルは話し始めた。
「ところで、棚上げになっていた全能神の権能についてでございますが・・・。」
「ん、それは本当に心当たりがないんだよね。今の僕ではそんなことできないし。」
「やはりそうでございますか・・・。では、一体どうして・・・?」
今の僕、というところを軽く聞き流して、思考の波に落ちるクラリエル。
神界への扉を開いたクロトに関しては今更感が強いのだろう。
(確かに権能は流出して、尚且つその痕跡が存在しない。一体何故・・・?)
どれだけ考えても答えが出ない。
クロトが隠蔽し嘘を吐いているという恐れを捨てると、本当に方法が無いのだ。
なにせ、現状ではこういうことになるのだ。
流出しているのに流出していない、と。
明らかに矛盾している。
流出したという事実は間違いなく存在するのに、その記録が無い。
記録が欺かれるという事態もクロトというイレギュラーがなければあり得ない。
否、そもそも隠密神の権能でそんなことが可能なのかも不明である。
言うならば、消去法で殺人事件の犯人を幽霊に仕立て上げるようなものだ。
どうあがいても、起こりえない事象の解明など出来るはずがない。
しかし、クラリエルと同じく思考に耽っていたクロトは思いついてしまった。
もしかしたら今の状況を生み出せるかもしれない可能性について。
そのあまりにも突拍子もない理屈について。
それはすなわち、こういうことだ。
「クラリエル。もしかして・・・今の段階では流出していないんじゃないか?」
「・・・・・・え?」
クラリエルはクロトが何を言っているのか理解できなかった。
なにせ、『流出していない』などといわれても、現に魔法陣が下界にあるのだ。
それは『流出している』という事実を否応なく証明しているはずだ。
(いえ、違います。重要なのは、『今の段階では』という部分。つまり・・・っ!)
クラリエルもクロトの言いたいことを理解してしまった。
到底信じられないような突拍子もない推測を。
だが、そう考えるなら、殆ど筋が通ってしまうのだ。
「つまり・・・今より未来に、全能神権限が流出する、ということですか・・・?」
創世神であっても未来の全ては分からない。
故に、どれだけありえなさそうな事象でも、それを否定しきることができない。
今より未来に権限が流出し、時を越えて今より昔に権能が流れた。
だから今の段階では流出の痕跡が無い。
やはり筋は通っている。
しかしそれは、一つの目を逸らしたくなる事実を指し示していた。
「私が健在である間は、そのような流出は起こさせないはずです。
ならば・・・。この私に何か悪い事・・・いえ、ハッキリ言います。
・・・管理者不在になる未来が、この先にあるということになります。」
その鬼気迫る様子と、言葉の意味に、アクアは息をのんだ。
クラリエルはこう言っているのだ。
管理者不在・・・つまり、己が消滅するか、それに準ずる何かが起こる、と。
三人は押し黙って、一言も発しない。
だが、その沈黙は意外な者に破られることとなった。
それは、神界に存在しなかったはずの、四人目の人物。
「この段階でそれに気づくとは・・・流石ね。」
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