異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

感謝祭一日目ー3

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 会場が静まり、アンコール演奏が始まった。


 初めはドラムとピアノが入り、その後でギターとボーカル。

 クロトはスイレンに目配せをしながら、タイミングを合わせて演奏を開始。

 曲調は穏やかで、観客たちは皆一言も声を発さずに静かに聴いている。


 途中でヴィオラのフルートもメロディで参加。

 パーカッションに割り振られたアクア、セーラ、カレンも上手くやれている。


 クロトはギターと歌を担当しながらも、常にスイレンを気にかけている。

 失敗しないように、視線や身振りで彼女をリードする。


 曲は問題なく進み、やがてサビの部分へ突入する直前へ。

 クロトとスイレンは視線を真っ向から交錯させ、呼吸を合わせてサビに突入。


 クロトの声にスイレンが合わせるように、それでいて一緒に歩くように歌う。

 初めて合わせたとは思えない程完璧に合わさり、百点満点だ。

 ドラムやピアノ、フルートもいい具合に二人を引き立てている。


 クロトもスイレンも互いに微笑みかけ、もう緊張はどこにもない。

 彼女を知る者が見たら、大層驚く光景であろう。

 なにせ、滅多に笑わない二人の微笑みなのだから。

 特にスイレンの微笑みなど、激レアと言ってもいいレベルだ。


 曲は続き、ソロパートが続く箇所へ突入。


 まずはヴィオラのフルート。

 クロトは身振りでパーカッションに演奏をやめるように指示した。

 ヴィオラは、とても碌に練習していないとは思えない程、綺麗に演奏仕上げた。


 続いてエメラのピアノ。

 ヴィオラのフルートから綺麗にバトンを受け取る。

 こちらはしっかりと練習しており、完璧だ。


 マリアのドラムにソロパートは無いが、そこは仕方ない。

 ぶっつけ本番では荷が重いだろう。


 ソロパートが一度途切れた後、クロトのソロパートに突入。

 こちらは歌もギターも初見なのだが、完璧だ。

 これはもう流石としか言えない。


 最後にクロトからスイレンへバトンを渡す。

 今回も視線を交錯させて見つめ合い、タイミングを合わせた。

 スイレンは真剣で優し気な瞳にドキリとさせながらも、バトンを受け取る。


 そして、彼女も完璧に演奏しきり、スイレンのソロパートも終了。

 曲は大詰めへ突入した。


 パーカッションも演奏を再開し、全員で演奏。

 最後はゆっくりと音が消えていく形で終了した。


 曲が終わってから数秒間、あたりは静まったままだった。


 周囲に凄まじい歓声が鳴り響くまでの、ひと時の静寂であった。










 アンコールも無事に大成功をおさめ、コンサートは終了。

 舞台裏にやってきたメンバーたちは、ナツメの迎えを受けて盛大に息を吐いた。

 それは安堵のため息で、相当気を張り詰めさせていたようだ。

 もっとも、やはりクロトは平常運転であったが。


「一時はどうなることかと思ったでござるが、無事に終わってよかったでござる!」

「そうだな・・・。私としては情けない限りではあったが・・・。」

「それを言うなら私もね・・・。年上云々を抜きにしても情けないわっ・・・!」


 カレンとセーラは自分の役目を全うできなかったことに反省の色が強い。


「お二人とも、私も人のことは言えませんが、あまり落ち込んでも・・・。」

「ん・・・。あれは、仕方ない、から・・・気にしない方が、いい、よ・・・?」


 アクアとエメラが二人を励まし、マリアとヴィオラもそれに同調して頷く。

 今回は不測の事態であると言えるので、誰のせいでもあるまい。

 強いていうなら、予測できなかったクロトが悪いということになるが。


 実は、仮に今回のようになっても何とか対応できるように仕組んではいた。

 そうでなければ、少し担当を弄ったくらいで上手くいく訳がない。

 それでも駄目だった場合は、クロトが一人で何とかする予定だった。

 とことん抜かりの無い男である。


「それはそうと、エメラとヴィオラ、スイレンの三人は凄かったですわね。」

「そうだね。急なアンコールだったのに、ミス一つ無かったし。」

「・・・賞賛は受け取っておく。」

「ん・・・。」


 ヴィオラは満更でもなさそうで、エメラは軽く微笑んで受け止めた。

 では、スイレンはというと・・・。


「・・・・・・。」


 数分前までの自分が急に恥ずかしくなって、無言で悶えている最中であった。

 特に、クロトに向けて微笑んでしまった瞬間の記憶は、今すぐに消したいようだ。

 表情こそ取り繕っているが、微妙に頬が赤いのが窺える。


(私は、間違いなくどうかしていました。熱気にあてられましたか・・・ッッ!)


 今度はクロトと何度も視線を交錯させたことを思い出して、体が震えた。

 あれだけ忌避していた行いだというのに、とても心地良く感じていた自分。

 現在進行形で心地良い情景として記憶している自分。

 まさか、後戻りできない深みにはまってしまったのでは、という疑念が溢れた。


 アクアとエメラはそんなスイレンを、興味深そうに見つめているのだった。

 果たして、その視線の意味とは・・・?

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