異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
上 下
510 / 600
第二部「創世神降臨」編

その獣は誰がために生きる道を選ぶのか

しおりを挟む
 手乗り獅子たちは元々、天の塔に住んでいた。

 否、試練の間に侵入者が現れた時に自動生成されるので、住んでいたのとは違う。

 誕生の瞬間から獅子の試練の一部として組み込まれる、哀れで幼い獅子たちだ。


 何故なら、外に出ることは絶対に叶わないのだから。


 だが獅子の子たちは、そんな理を歪めてしまう者と出会うことになった。

 その者は如何なる方法でか不明だが、自分たちを外に連れ出せると言うのだ。


 このまま試練の終わりとともに消えるか、外に出るか、という二択。

 自動生成された存在だろうが関係ない。

 確かな心を宿した獅子たちは当然の如く、外に出ることを選択した。


 彼ら彼女らは紛れもなく、生きたいと願ったのだ。


 外に連れ出された獅子たちは、与えられた知識には無い未知の環境に興奮した。

 精神は幼い子供に近いので、思うがままにはしゃいで、外の世界を楽しんだ。


 そんな幸せが続いたある日のこと、一匹の獅子の子が己の体に異変を感知した。

 徐々にではあるが、その存在が薄れてきていたのだ。

 このまま何もしなければ、消えてなくなってしまうのは間違いなかった。


 理を捻じ曲げ、強引に外へ連れてきた代償であった。


 存在自体が薄くなっていくということは、忘れ去られることに他ならない。

 現に、一部を除いた殆どの者が、いつの間にか獅子たちのことを忘れていった。

 いつしか孤児院の子どもたちも厩舎を訪れなくなった。


 徐々に覚えている者が減っていき、やがてその人数は片手の指に収まるほどに。

 獅子たちは悲しみながらも、ひと時の幸せに過ぎなかったのだと諦めた。


「ヴィオラは、そんな中でも覚えていた数少ない一人だ。」

「・・・・・・。」

「普段酷使している並列思考とレオへの愛情が、記憶を留めさせたのかもね。」


 ヴィオラはそんなことになっていたなど知りもしなかった。

 皆が獅子の話題を出さないことに違和感はあったようだが。


 クロトはヴィオラの反応を確認したあと、再び話を続けた。



 獅子の子たちの異変に気付き、なおかつ決して諦めなかった者が一人居た。

 獅子たちを外に連れ出した張本人、クロトである。


 クロトは獅子たちの存在を現世に定着させるために試行錯誤を開始。

 だが、一度理が歪められた獅子たちである故に、その解析は困難を極めた。

 なにせ、ごちゃごちゃになった糸球を丁寧に解していくかのような作業なのだ。

 そんな作業を簡単にできるはずもない。


 しかしそれでも、クロトはあと少しというところまで研究を進めた。

 もはや一刻の猶予も無かったが、ギリギリ完成一歩手前までこぎつけた。


 だというのに、どうしても完成させることは出来なかった。

 何故なら、その魔法陣を完璧にするには、被験体となる獅子が必要なのだから。


 安全が保障されていない存在固定魔法陣。

 否、誤魔化すのはやめよう。

 九十九%失敗して被験体の存在が消えてしまうだろう魔法陣、だ。

 
 クロトは合理的に被験体を選出するか、他の手を探すかで苦悩した。

 そんな中で、被験体になると名乗り出たのが、二匹の獅子の子であった。


 その二匹の瞳に宿る、生きたい、という強い想いをみてとったクロト。

 彼は、その強い想いに賭けてみようと決めたのだった。


 二匹の獅子が生きたいと強く願ったのには理由がある。

 それは、まだ自分のことを覚えてくれている者がクロト以外にも存在するからだ。

 その者の為にも、是が非でも生き抜きたかったのだ。

 その獅子たちは、レオとコロと名付けられた二匹だった。


「もう分かったよね?純粋にレオを覚えていたのはヴィオラ、君だけだ。」

「・・・っ。レオ・・・!」

「がぅ・・・!」


 ヴィオラはレオを抱き締めた。

 今までずっと恥ずかしくて出来なかったことだが、感情が振り切れたようだ。

 レオも、抱き締められてとても嬉しそうにしている。


 現状からも分かるように、レオとコロの二匹は奇跡的に生き延びた。

 体が崩壊する痛みを強靭な意思で耐え、現世に魂を留まらせ続けた。


 そして、魔法陣に足りていなかった要素である受肉を果たして、今がある。

 強靭な肉体を持つに至ったのは、その魂と心の強さに合わせられたからだろう。


 クロトはその現象を一部の漏れなく記憶し、魔法陣を改良。

 安全に存在を固定できる真存在固定魔法陣を完成させた。

 他の獅子たちはその魔法陣のおかげで、無事に元通りの存在が定着した。


 白銀獅子『アルレオン』は聖獣となり、当然のことながら新種である。

 そのため、空白だった種のステータス表記はクロトが行った。

 聖獣という存在になったのは、ラファエルの研究を流用したからだろう。


「召喚契約魔法陣を改良するまで少し時間が掛かったけど・・・使ってごらん?」

「・・・ん。」


 ヴィオラはクロトの指示に従って、召喚契約魔法陣を起動したのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。

ジャン・幸田
SF
 銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。  それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・  思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!  

専属奴隷として生きる

佐藤クッタ
恋愛
M性という病気は治らずにドンドンと深みへ堕ちる。 中学生の頃から年上の女性に憧れていた 好きになるのは 友達のお母さん 文具屋のお母さん お菓子屋のお母さん 本屋のお母さん どちらかというとやせ型よりも グラマラスな女性に憧れを持った 昔は 文具屋にエロ本が置いてあって 雑誌棚に普通の雑誌と一緒にエロ本が置いてあった ある文具屋のお母さんに憧れて 雑誌を見るふりをしながらお母さんの傍にいたかっただけですが お母さんに「どれを買っても一緒よ」と言われて買ったエロ本が SM本だった。 当時は男性がSで女性がMな感じが主流でした グラビアも小説もそれを見ながら 想像するのはM女性を自分に置き換えての「夢想」 友達のお母さんに、お仕置きをされている自分 そんな毎日が続き私のMが開花したのだと思う

Mな生活

ちくたく
恋愛
S彼女とのプレイでMとして成長する物語です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。