異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

心乱れる原因

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 ラファエルはクロトの言葉で激しく動揺した。


(調整・・・!?主様の命令・・・ですがっ、私が私でなくなるのは、絶対に嫌でございます・・・!ですがですが、命令は命令っ・・・!?)


 ラファエルの思考は堂々巡りとなり、ついには目がぐるぐるし始めた。


「ラファエル・・・?クロトさん、ラファエルの様子がおかしいです・・・!」

「うん、明らかにおかしい・・・のかな?微妙な判断になりそうだけど・・・。」


 クロトとアクアが蹲ったラファエルに声を掛けるが、反応が無い。


「ん、一度調べてみよう。ラファエル、少し眠っていて・・・っ!?」


 クロトは最後まで言うことができなかった。

 顔を上げたラファエルは、ボロボロと涙を流していたのだ。


「主様っ・・・!どうか、私を私のままで、いさせてくださいませっ・・・!」


 きっとそれは、ラファエルなりに考え抜いた答えだったのだろう。

 クロトとアクアを裏切らず、なおかつ自分の願いを叶える為の要求だった。


 だが、クロトとアクアはポカンとした顔をするしかできなかった。

 何故なら・・・


「・・・それって、当然のことだよね?」

「はい、ここに居るラファエルが、私たちにとって唯一のラファエルですから。」


 ・・・二人はラファエルをれっきとした人間として見ていたのだから。


 ラファエルがラファエルのままで居るのは当然で、決定権も自分たちにはない。

 他の性格が違うラファエルを、ラファエルとは絶対に呼ばない。

 自分たちに仕えていても、一人の人間である以上は、ごく当然のことだ。

 何があっても、アクアがアクアのままでいるように。


 なお、調整というのはラファエル自身のことではなく、装備等のことを指す。


「ラファエル、君が抱えていること、話してもらえるかな・・・?」

「ラファエル・・・私にも、聞かせてほしいです。」


 クロトとアクアは妙な行き違いがあると考え、彼女の心の内を問うた。








 ラファエルはすべてを正直に話した。


 クロトの言動に心が乱されること。

 自分に不具合が生じているのではと疑っていること。

 再調整により自分が自分でなくなり、別人がクロトとアクアに仕える恐怖。

 クロトの調整という言葉に動揺して、命令と願望の板挟みになったこと。


 全てを聞いたクロトは勘違いさせたことを申し訳なく思いつつ、こう告げた。


「それは恐らく・・・愛の血肉のせいだね。」

「・・・?」


 ラファエルの作製に愛の血肉という素材を用いた。

 ラファエルのクロトへの感情は、これが原因だと推測された。


 愛の血肉にはクロトの腕が使われている。

 そのせいで、ラファエルの肉体がクロトを求めてしまう、ということだ。

 そして、心が体に引きずられて、恋愛感情は無いのに心が乱される、と。


 恋愛感情の定義に引っ掛からないのは、明らかに歪な経路を辿ったからだろう。

 クロトから継承した記憶と符合しないのも当然である。

 細かい作用については詳しい解析が必要だが。


「つまり、それは仕様ということになるのかな?予想外の事ではあったけど。」

「私は、とんでもない思い違いをしていたのですね・・・。」


 ラファエルはクロトの説明に納得して、不具合ではないと理解した。

 そしてすぐに、膝を着いて迷惑を掛けたことを謝罪し始めた。


「クロト様、アクア様、私の勘違いでご迷惑をお掛けしました。」

「謝罪は要らないよ。どちらかと言えば、僕のミスなんだから。」

「完全に予想外だったのですから、ミスという表現も合わないかと思いますよ?」


 と、いう訳で、一件落着・・・・・・とはならない。


「それでクロトさん、どうすればその歪な状態を治せるのでしょうか・・・?」


 アクアは自分では思いつかなかったのでクロトに尋ねた。

 魅了の状態異常とは少し違うことは分かるのだが、その先は高度過ぎるのだ。


 アクアの問いに対するクロトの答えは、実に簡潔なものだった。


「・・・ない。」

「・・・・・・ふぇ?」

「・・・・・・へ?」


 アクアとラファエルは思わず間抜けな声を出した。

 そこでクロトは、もう少し詳しく答えた。


「そういう仕様である以上、今が正常体・・・だから、治しようがないよ。」

「・・・・・・ええええええええっ!?」

「・・・・・・・・・・・・。」


 アクアは驚愕の声を上げ、当の本人であるラファエルは放心していた。

 そして、衝撃の事実を告げたクロトも、どこか疲れたように顔を顰めていた。



 クロトは過去の経験から、人間の自由意思を大いに尊重する。

 だからこそ、今の今まで気づけなかった。


 生み出された命は、生み出した者に逆らえないようになるのが自然なのだと。

 今回は、それが愛という形を当てはめることで保障されるに至ったのだと。




「アクア、どうしよう・・・?」

「・・・どうしましょう?」


 アクアに尋ねはしたが、クロトは既に分かっていた。

 もうどうしようもないのだと。


 疲れた顔をしてしまうのも致し方ないことだろう。

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