異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

ファーナの願い事

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 カレンが孤高の道から戻ってきて、全員水瓶の試練に挑んでいる。

 そんな中、クロトだけは、ローナから呼ばれてクローナ雑貨店へ。

 用事があるのはローナではなくファーナのようだが。





「クロトさんっ!願い事が決まりました!私と・・・家族になってくださいっ!」

「ファーナ!?何言ってるの!?」


 突然のことに仰天するローナ。


「・・・うん、いいよ。家族になろう、ファーナ。」

「っ・・・はいっ!」

「ええっ!?クロト!特別報酬とはいえそんなに簡単に頷いちゃっていいの!?」


 ローナは頬を赤くして言い募る。

 間違いなく何か誤解しているようだ。


「じゃあ、細かい問題は後で片付けるとして・・・よろしく、ファーナ。」

「はい・・・お父さん!」


 ファーナはクロトに抱き着き、クロトは優しく撫でる。

 そこに性的なものは一切なく、親子としての愛情があるだけだ。


「・・・あっ、家族って、そういう・・・っ!」


 ローナは自分が酷く汚れている気がして、恥ずかしくなった。

 それほど恥じる事でもないはずなのだが。

 家族愛に溢れる二人の様子を見ては、そう思っても仕方ないだろう。


 ローナも二十歳を越えて、そろそろ独り身が堪える時期。

 良い相手が見つかる気配がこれっぽっちも無い。

 ローナの理想が高すぎるのが玉に瑕なのだ。

 クロトという男性に出会ってしまったのが原因だろう。


 クロトのように颯爽と格好良く救い出してくれる男など、そうそう居ないのだ。


(はぁ・・・。ボクは結婚なんてできないかも・・・。いっそ妾にでも・・・。)


 そう考えたが、間違いなくクロトに断られるだろうと思い、却下する。


 そもそも、ローナはクロトのことを好きという訳ではない。

 クロトが望むなら抱かれても良いとは思っているし、嫌ではない。

 一度くらいはクロトに抱かれてみたいという願望もあるが、それはそれ。


 だが、所詮はそれまでだ。

 アクアたちのように結婚したいとまでは考えていない。


 アクアやマリアがどれだけクロトを愛しているかはよく分かっている。

 だから、口が裂けても結婚したいなどとは言えないのだ。

 そこまで好いているわけでもないのに言うのは、明らかに失礼なので。


 幸い、今は仕事に夢中になれる時期なので、そこまで切羽詰まってはいない。

 しかし、これであと数年も経てば、行き遅れと言われても否定できない。

 だからどうという訳でもないのだが、できれば嫌だというのが人情。


(はぁ・・・。ファーナは幸せそうだな・・・。)


 クロトの腕に抱き着いて去っていく二人を見送るローナ。

 その身に、得体のしれない寂しさが襲い掛かり、人肌恋しくなるのだった。










 そういう訳で、ファーナは書類上クロトの娘となった。

 母親はそのままで、元父親については存在していなかったことになった。

 国の記録からも、ギルドの記録からも。

 果ては、人の記憶からも完全に消えてなくなった。


 手回しは少しだけ時間が掛かったが、それでもほんの数時間の事だ。

 クロトの威光はすでに個人のレベルを超えているのである。

 内側の世界で逆らえる者は一掃されたと言っても良い。


 計画を実行に移しやすくなると考えれば、悪い話ではないと思っているクロト。




 そして現在、世界を牛耳るクロトは、実に普通の父親をやっていた。

 場所はミカゲ財閥所有の草原にある大きな木の下。

 中々いい土地であったので、クロトが以前買い取った場所だ。


「ファーナ、絵本でもよんであげようか?」

「お父さん!子どもじゃないんだからっ、もう!」

「あはは・・・それはごめんよ。」


 いくら成人していないからといっても、流石に十歳を過ぎてに絵本はない。

 ファーナは座りながら頬を膨らませて怒っている。

 そこには今までクロトに対して存在していた遠慮が欠片も存在しない。


 徹底的に手を回して、本当の娘にしてあげたことが大きいのだろう。

 ファーナについて事実を知っているのは、僅か十数名のみ。

 もはや、本当の娘と言ってもそれを否定する者は存在しないのだから。

 何憚ることなく仲の良い親子として接している二人。


 年齢差は十もないが、そんなことは些細な問題なのだろう。

 二人ともとても幸せそうなのだから。


 なお、恋人たちとの兼ね合いはちゃんと考えているので問題ない。

 その辺りは抜かりないゆえに。


「ファーナ・・・今、幸せかい?」

「はいっ・・・!とても幸せですっ!」

「そっか・・・良かった・・・。」


 クロトも実は不安だったのだ。

 本当の娘を持つことなど初めてだったが故に。

 だから、安堵のため息を漏らした。


「あんまり家に居られなダメな父親だけど、必ずもっと幸せにしてみせるよ。」


 ファーナは、クロトがダメな父親などとは欠片も思っていない。

 これほどまでに良い父親は居ないとすら思っていた。

 だが、ここで水を差すべきではないと思い、一言だけ。


「うん!ありがとう、お父さん!」

「!?」


 クロトは少しだけ動揺させられながらも、愛おしそうにファーナの頭を撫でた。



 草原を心地良い風が通り抜け、草の音がサラサラと、とても綺麗に聴こえた。

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