異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

過去と現在

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 アクアは森の中で目を覚ました。

 ボロボロだった体はすっかり元通りに。


「あの方が助けてくださったのでしょうか・・・。」


 虚ろな声音で呟くアクア。

 習慣のように自分のステータスを開くと、とんでもないことに気づいた。


「年齢が、13歳・・・?私はまだ十歳のはず・・・。」


 なんと、年齢が変わっていたのである。

 これはどういうことかと困惑する。


「・・・そういえば、思考が年相応かもしれませんね。」


 何となく、十歳だった自分よりも頭が回る気がした。

 それに、精神的にも年を経ているように思われた。


 疑問は尽きないが、アクアは行動を始めた。

 一度壊れ、修復されかかった心の在り方のまま。








 それからアクアは生きていくために冒険者となり、日々の糧を得た。

 僅かに存在した傲慢な性格など消滅していたが、疎まれることも多かった。

 嘘が吐けないことによる弊害だ。


 どこへ行っても最後には疎まれる。

 少しだけ仲良くなった人にも、やはり疎まれるようになる。


 やがて生きる意味を見失い、精神が摩耗したアクアは、ある町へ行きついた。


 それが、ドレファトの町である。




 ドレファトの町はおかしな場所だった。


「アクアさん、一目惚れしました!付き合ってください!」

「っ、すみませんが、顔が怖いのでお断りいたします。」

「ぐはっ!?」


 頽れる男を見ながら、またやってしまったと思ったアクア。

 これでまた移動かと考えたが、そうはならなかった。


「はははははっ!顔が怖いってよ!」

「全くその通りよねぇ・・・。」

「ドンマイ!」

「くっ、こうなったらやけ食いだあああっ!」


 ドレファトでは疎まれるどころか、正直者だと言われ、大層慕われたのだ。

 それを認識した日、アクアは永遠の眠り亭の一室で、嬉し涙を流した。






(恋人・・・何か忘れているような・・・?)






 そうしてドレファトの町に居着いて暮らすうちに、今のアクアが形成された。

 住人の殆どが、接していて気持ちの良い人で、到底町を離れられなかった。




 時は流れ、アクアは一人前の冒険者になった。

 そして、不幸な偶然が重なり、ゴブリンに捉えられることになった。


 否、結果的には運が良かったのかもしれない。

 何故なら、こうして運命の出会いをしているのだから。





「・・・大丈夫だよ。必ず君を助け出すから。」





 黒髪の青年が放ったその言葉には、不器用ながらも強く確かな愛が籠っていた。

 アクアは、あっという間にその青年に惹かれていった。


(今思えば、愛に飢えていたのかもしれませんね・・・。)


 もちろん今では、心の底から好きだと断言できるのだろうが。


(え?今では、というのはどういう事でしょうか・・・?)


 自分の思考に違和感を覚えたアクア。





 周囲の風景が変わり、目の前には自分を捨てた両親の姿が。

 アクアの事を迎えにきたのだ。


「アクア、私が間違っていた!どうか、許してくれ!」

「あなたを生んで後悔なんて、馬鹿なことを言ったと思ってるのよ・・・。」


 アクアは、その言葉に一切の嘘が無いと分かった。


「だから、どうか私たちの元へ戻ってきておくれ・・・!」

「また一緒に、幸せに暮らしましょう?」

「・・・・・・。」


 かつて愛していた両親から手を差し出されたアクア。


 ドレファトの町へ来る前なら。

 また、大切な人と出会う前なら。

 あっさり両親の手を取っていたかもしれない。

 全てが元通りになるなど、とても幸せな事なのだから。


 だが、アクアは、これっぽっちも心が揺れなかった。


「アクア、やはりあんなことをしたから怒っているのかい?」

「・・・いえ、怒ってはいないと思いますよ。」

「ならばいっしょに「ですが」帰・・・。」


 アクアは怒りなど無かった。

 両親が捨ててくれたおかげで、今の自分があるのだから。

 かけがえのない、大切な人と出会えたのだから。


(・・・思い出しました。今は、試練中でしたね。)


 クロトのことを待たせているだろうと考え、直ちに決着をつけにいく。

 いままで向き合ってこなかった、自分自身の過去と。


「・・・ですが、私はあなたたちを置いていきます。こんな茶番に構っている暇が無いくらい、もっと大切なものが、たくさん、できましたから。」


 アクアは自分の過去を、ここに置いていくことを決めた。

 過去の愛を、過去のものとして扱う為に。





<特殊条件4「正しく決別した過去」を確認>

<レアスキル「波紋感知す群青の瞳」にレアスキル「天力」を統合しました>

<ユニークスキル「波紋超越せし極群青の天瞳」になりました>

<創世の秘薬による神格を確認しました>

<レアスキル「亜神界突破」を習得しました>






「さようなら、お父様、お母様。・・・水神魔法・神氷超絶波っ!!」


 神にもダメージを通せるその技は、試練の空間を、強引に破壊した。








 アクアは目を覚ました。


「おはよう、アクア。」

「はい。おはようございます。それと、お待たせしました・・・クロトさん。」


 アクアとクロトは、微笑み合い、抱き締め合ったのだった。

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