異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

残念さの欠けたナツメ

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「ナツメ、この髪紐なんてどうかな?」

「桃色は、似合わないでござるよ・・・?」

「そんなことないよ。今のナツメなら、似合うから。」

「そ、そうでござるか・・・?」


 似合うと言われて、微かに照れ笑いを浮かべるナツメ。

 いつもなら、もっと派手なツッコミが入っていただろうに。


 クロトもそれが目的だったために、微妙に肩透かしを喰らってしまう。

 平静さを取り戻すために、何度もナツメを揶揄っているのだが、今日はこの調子。


 寧ろ、優し気な微笑みのカウンターを喰らって、クラッと来てしまったほど。

 表情にこそ出していないが、内心は動揺してばかりである。







 楽しい時間はあっという間に終わり、夕方に。


「ナツメ、今日は楽しかったよ。」

「せ、拙者も、楽しかったでござる・・・!」


 嬉しそうに笑みを浮かべるナツメに、クラクラしてしまうクロト。

 今日一日で、何度同じ経験をさせられたのか。


「そういえばナツメ、何かアドバイスでももらったの?」

「アドバイス・・・恋人と過ごすつもりでデートするべし、と言われたでござる。」

「・・・・・・。」


 恋人になれば、今日のような楽しい時間を味わえるのか。

 そう思ったクロトは、嬉しさと、微妙な寂しさを覚えた。


 普段通りのナツメが、どこか恋しく思ってしまうのだ。

 残念なナツメを見る為、クロトは全力で揶揄いにかかる。


「まあ、いつもの残念なナツメも、悪くないということで。」

「そう言って貰えると、嬉しいでござるよ・・・。」


 照れるナツメは、とても可愛い。

 だが、期待していた反応ではない。


 二度と昨日までのナツメを見られないのかと考えると、強い喪失感に襲われた。





 バンッ!!


「えっ・・・・・・?」


 クロトはナツメに迫り、いわゆる、壁ドンのような態勢に。

 ナツメは状況について行けず、困惑している。

 そんな様子もまた、いつもとは違っていて、クロトの喪失感は更に強まる。


「ナツメ・・・もういいから。」

「もういい、とは・・・?」

「いつも通りの残念な君に戻っていいから。」

「しかし、それは・・・。」


 ナツメは、この日のデートに手ごたえを感じていた。

 恋人らしく振舞うことで、今までとは違う、確かな手ごたえを。

 それを戻せと言われても、はいそうですか、とは言い難い。

 ことは、死活問題なのだ。


 渋るナツメに対して焦れたクロトは、最後の手段に打って出る。


「おしとやかなナツメは気持ち悪いよ?」

「酷いでござるっ!?」


 心にも無いセリフだったが、違和感を覚えると言う意味では、嘘では無い。

 ナツメは、上手く行っていると思っていただけに、驚愕した。

 ついつい、いつもの調子が出てしまう程に。


 クロトは、普段通りのナツメを、とても愛おしく思ってしまった。

 少し違うが、失って初めて分かる、というのはこういう事なのだろう。


 壁ドンの体勢のまま、ナツメの顎をクイッと持ち上げる。


「ク、クロト殿・・・!?」

「静かにして。」


 おのまま己の唇を近づけてゆき・・・・・・寸でのところで方向転換。

 ナツメの額に唇を落とした。


「・・・!?」


 パクパクと口を動かすナツメに、クロトは耳元で囁いた。


「どっちのナツメも良いから、どちらかだけに絞らないでね?」

「・・・・・・っ!?」

「それと・・・・・・もう少しだけ、待っていて?」

「っ・・・承知、したでござる、よ。」


 何とかそれだけ紡いで、そのまま意識を失ってしまった。

 刺激が強すぎたのかもしれない。


 そしてクロトは・・・悶えていた。


(なんてことをしてしまったのか・・・!あれじゃ、ナルシストみたいだよ!?)


 慣れない感情に突き動かされたクロトは、キャラぶれを起こしかけたようだ。

 次回からは大丈夫だと思われるが、問題はたった今の事。

 どう考えても、自分の性格ではない。


 あんな行動をとった理由を、自分の事ながら理解できない。

 出来るなら、数秒前の自分に問いただしたい気分に襲われるクロト。


 自分の事を恥じながらも、ナツメの事は、しっかりと支えている。

 ナツメの柔らかい体の感触から、先程のキスのことを思い出してしまう。


 唇を重ね合わせそうになったのを、ギリギリで進路変更した。

 一歩間違えば、唇を触れ合わせていただろう。


 それはつまり、キスをしたいと思う程には、惹かれているということで・・・。


 クロトは、ナツメへの答えが出る日がぐっと近づいたことを認識した。






 その後、反省を終えたクロトは、ナツメを送り届けに行くのであった。

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