異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

閑話 エメラとインフィア

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「ん・・・。インフィ、おはよう・・・?」

「あっ、エメラさん!おはようございます!」


 シンクレア王国、レドグリアの町にて。

 早朝、エメラとインフィアは対面していた。


 インフィアは第一王女であるが、グリーンフォレスト邸に滞在している。

 王都が落ち着くまであずかって欲しいという、バーン国王からの頼みだ。


 実際は、インフィアの、エメラと一緒に居たいという願いを叶えた形になる。


 赤髪赤目のインフィアは、エメラに駆け寄る。


「エメラさん、今日は寝ているクロトさんに付き添う日ですよね?」

「ん・・・。お昼、から・・・だけれど、ね・・・。」


 クロトはヘキサアイズとの戦いで神界突破を行使した。

 その後遺症として、現在は眠っている。


 クロトが眠ってから、恋人たちの間で、交代で付き添うことに決まった。

 今日の昼からは、エメラの番である。


 エメラは、クロトに寄り添う自分を想像して幸せそうな顔になる。

 それを目敏く見つけたインフィは、エメラに気になっていたことを尋ねてみた。


「エメラさん、一体、どんな人なんですか・・・?」

「ん・・・?クロト、のこと・・・?」

「はい、良い人だというのは分かるんですが・・・。」


 インフィは魔王の侵略七日目で、クロトに助けてもらった。

 エメラに助けてもらった印象の方が強いが、それは置いておく。


 ヘキサアイズを閉じ込める結界の維持を頼まれた時、少しだけ話をしている。

 その時の印象では、決して悪い人とは思えなかった。


 何より、尊敬するエメラの恋人なら、悪い人なはずが無い。

 そう考えての質問だったのだが・・・。


「ん・・・。クロト、は・・・良い人、では・・・無い、よ・・・?」

「えっ・・・?」


 まさか否定されるとは思っておらず、呆然としてしまうインフィ。

 エメラはそんなインフィの様子を見て、クロトとの出会いから話し始めた。


 最初はオーガの迷宮で。

 二度目は死者の迷宮で。


 初めて会った時から、強い信念を宿した瞳や、その人となりに惹かれていた。

 共に迷宮を攻略することで、すぐに背中を任せられる関係に。


 そして、三度目の邂逅。

 レドグリアの町に魔物が襲って来たとき、それを退治してくれた。

 エターナルゴーストとの戦いで、クロトへの想いを自覚した。

 森皇帝を倒した直後、キスをしたこと。


 そしてその後、クロトの恋人になったこと。


 エメラはその全てを、赤裸々に話した。


「聞けば聞くほど、良い人に思えますけど・・・?」


 インフィは、先程のエメラの言が理解できないようだ。


「ん・・・。クロト、は・・・合理的、だから・・・。」


 クロトはどうでもいい人の為には行動しない。

 レドグリアの町を守ったのも、そこがエメラの守りたい町だからだろう。


 また、幾ら大切な人の願いでも、勝算の無い戦いはしない。

 リスクとリターンを計算して行動を決める。

 そんな合理に徹した人間が、クロトである。


 もっとも、どんな戦いでも勝算を見つけてしまうクロト。

 結局は、何だかんだで助けることも多い。


 だが、義理は大事にするし、身内には基本的に優しい。

 勝てない戦いでも、無理やり勝算を生み出して戦ってくれる。

 ヘキサアイズとの戦いもそうだった。


 そんな、強く、格好よく、優しいところに、否応なく惹かれてしまう。


 そして何より・・・


「ん・・・。クロト、夜、は・・・凄く、いい、から・・・。」


 夜は、合理的なクロトが、唯一理性を捨てる時。

 自分にそこまで興奮してくれていると思うと、愛おしくて堪らなくなる。


 行為の間は、頭が真っ白になって、幸福の極みに達してしまう。

 はしたなくも、クロトを求めてしまうのだ。


「ん・・・。だから・・・良い人、ではない・・・けど、大好き・・・。」

「ほぇぇぇぇぇ・・・・・・。」


 話し終わったエメラはとても色っぽい表情をしていた。

 インフィは色々と一杯一杯になって、そんな声を零した。


 話している内に、時刻は既に昼前。

 エメラはドレファトの町へ向かおうと決めて立ち上がった。


「ん・・・。早い、けど・・・もう、行く・・・ね・・・?」

「・・・はっ、はい!行ってらっしゃいませ、お姉様!」

「ん・・・。・・・・ん?お姉様・・・?」


 エメラは珍しく表情が固まっている。


「あっ、すみません・・・。つい口に出してしまって・・・。」


 インフィは、エメラに助けられた時からそう呼びたかったのを我慢していた。


 今回エメラの話しを聞いて、大人の女性というものを強く感じた。

 そのせいもあって、つい口を突いて出てしまったのだ。


「エメラお姉様・・・!」


 そう口に出して、しっくりきた様子のインフィ。


 一方エメラは、頬を赤く染めて恥ずかしがっている。

 どうやら、「エメラお姉様」は羞恥ポイントを踏んでいるようだ。


「ん・・・。インフィ・・・それ、は・・・やめ、て・・・?」

「嫌です!大好きです、エメラお姉様!」

「んんっ・・・!?ムズムズ、する・・・から、だめ・・・!」

「ええっ!?そんなぁ・・・!?どうしてもだめですか、エメラお姉様・・・?」


 うるうるした瞳で見つめるインフィに心が痛むも、受け入れることは出来ない。


「ん・・・。絶対、に・・・だめ、だから・・・ね?」

「ううぅ・・・分かりました・・・。では、エメラねえさまで・・・。」

「んっ・・・!?それ、も・・・だめ、だから・・・!」




 かくして、何とかお姉様呼びを諦めてもらうことに成功したエメラ。


 その様子を、アルフォンスはニヤニヤしながら見守っていたのだった。

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