異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

救助と勧誘

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 ドッペルゲンガーを回収し、クロトは全員と合流した。

 もう一体のドッペルゲンガーは、クロトに化けてナツメと共にいた。

 そちらも回収したのだが、ナツメの様子がおかしい。


 何故か、とても顔が赤い。

 話を聞いてみると、クロトに化けた敵に、熱心に口説かれたようだ。

 何となくおかしいと感じて、誘いには乗らなかったナツメ。

 しかし、色々と言われて、顔が赤くなるのは避けられなかったようだ。


 試しに幾つか、ドッペルゲンガーの口説き文句を尋ねてみた。


 ・・・クロトまで恥ずかしくなるレベルだったとだけ言っておく。



 それと、一つだけ気になる話が。

 当初、クロトに化けたドッペルゲンガーは、とても苦しそうにしていたそうだ。

 記憶の読み取りで、問題でも起きたのだろうか。






 結局のところ、迷子のアリシアは、ユフィアスが保護していた。

 ドッペルゲンガーは、クロトたちの対応で手一杯だったのだろう。

 幸いにも、彼女は無事だった。


 ユフィに保護されたアリシア。

 元は、母親譲りの綺麗な金髪だったらしいが、薄汚れていた。

 上手く話せない程に疲労していたので、すぐに町まで連れて帰った。






 アリシアは、ただの疲労であるため、数日で良くなると診断された。


「本当に、ありがとうございました・・・!」

「どういたしまして、なのです!」


 エリスの強い感謝がこもったお礼を、ユフィが代表で受け取った。

 アリシアを捜すことを決めたのはユフィなので、妥当な人選のはずだ。


 何度もお礼を言ってくるエリスだが、具合が悪そうなので、直ぐに休ませた。







 そして、その日の夜。


「アリシア・・・良かった・・・。」


 エリスはとても苦しそうにしながらも、隣で寝ているアリシアを撫でる。


「ごめんなさい、アリシア。私はもう、持たないから・・・。」


 エリスはボロボロと涙を流す。

 自分の命がもうすぐ消えて無くなることを理解しているのだろう。

 愛する娘を一人残していかなければならないことを嘆いている。


 他に肉親も居ない、元はよそ者である自分の娘。

 これから、さぞ辛い思いをして生きていくことになる。

 娘をそんな境遇に晒してしまうと考えると、死んでも死にきれない。

 情けなさやら申し訳なさやらで、次々と涙があふれてくる。








「泣いてる暇があるなら、何か方法を考えたらどうかな?」

「っ!?」


 突如、すぐ傍から聞こえて来た声に、エリスは驚愕する。

 声のした方には、娘を助けてくれた、恩人の一人が居た。


 その、吸い込まれそうな漆黒の瞳を持つ青年が。

 
 エリスは、疑問を呑み込んで、先程の発言の真意を尋ねた。


「方法を考える、というと・・・?」

「例えば、僕たちのうちの誰かに、娘を任せる、とか?」

「!?」


 そんなことは考えもしなかったエリス。

 この世界は、自己解決が基本なのだ。

 エリスは、僅かな希望を込めて、クロトに問いかける。


「娘を、アリシアのことを頼めるのですか・・・?」

「僕はお断りだよ?他のメンバーも、多分断るかな。」

「っ!」


 目の前の青年は、自分を馬鹿にしに来たのだろうか。

 一番大切な人すら守れない自分を。

 沸き上がった思いは、怒りでは無く、情けなさだった。

 ここで怒りを覚えない辺り、相当な善人だと伺える。


 クロトはそのことを確認すると、液体の入った瓶を収納から取り出した。

 そして、エリスにこんな話を持ち掛けた。


「これ、何か知ってる?精霊花の蜜って言うんだけど。」

「っ、それは・・・!」


 エリスは目を見開いた。

 それは、自分の病気を治すために必要なものだった。


 クロトが全極の島で手に入れた精霊の花を加工したものだ。
 

 思わず手を伸ばしてしまうエリス。

 だが、クロトはそれを、エリスの届かない位置へ持っていく。


「なぜこれが迷いの森で手に入る、なんて偽情報が流れたかは知らない。」

「っ?」


 そう、本来、精霊花は迷いの森では手に入らない。

 エリスも知らなかったようだが、偽情報なのだ。

 きっと、どこぞの小者が噂でも流したのだろう。


「さて、取引をしよう。僕が提示する条件は、この精霊花の蜜。」


 エリスは、ようやくクロトの目的を理解した。

 そして、内容も聞いていないのに、殆ど受けるつもりでいた。

 娘を辛い目に会わせるくらいなら、何だってする覚悟のようだ。


 エリスは、自分の容姿の良さを、何となく理解していた。

 例え、娼婦のような扱いを受けても、一向に構わない。

 そんな思いで、自分に求めるものが何なのか尋ねた。


 それに対するクロトの答えは・・・。








「あなたには、先生をやってもらいたい。」

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