異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

邂逅するクロトと「魔王」

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「もうその呼び方はやめてくださいまし。わたくしの名前はマリアですわ。」


 マリアは、「魔王」に激怒されるだろうと思いながら、決別の言葉を口にした。

 憎むべき人間の傍らに居ると決めたのだから、それも致し方なしと思っていた。

 
 それに対してカリスは、落ち着いた声で答えた。


「・・・そうか、それは済まなかったな。では、マリアと呼んでもよいか?」

「えっ・・・・・・ええ。そう呼んで欲しく思いますわ。」


 思いの外、何も言って来ないカリス。

 ましてや、自分の呼び方を変えてくれる始末。

 これでは、自分の行動を許されたみたいではないか。

 そう思ったマリアは困惑する。


「・・・・・・。」



 クロトは、カリスの考えが予想できたし、マリアの困惑も分かった。

 だが、今は口を挟むべきではないと思い、口を閉ざしたままにする。


 マリアはカリスに、その真意を問いただす。


「何故、何も言わないんですの?何を企んでいますの?」

「・・・?マリア、何の話だ?」

「っ!とぼけないでくださいまし!わたくしは、裏切ったのですわよ!?」


 カリスの意図がまるで分からず、感情的になって叫ぶマリア。


「ふむ・・・それは、マリアの意思なのか?」

「当然ですの。わたくし自身が、決めたことですわ!」


 マリアは、例えなんと言われようとも、自分の選択を後悔しないだろう。

 心通わせられる人と出会えたのだから。

 マリアは、クロトや友人たちのことを思い浮かべながらそう宣言した。

 
「そうか、ならば何の問題も無かろう。達者でな、マリア。」

「っ?まだ、そんなことを・・・!」


 いよいよもって爆発しそうになる。

 その時、マリアの頭に暖かい感触が。

 クロトが頭を撫でたのだ。


 クロトの顔は、冷静になれ、と言っているようだ。


 一気に頭が冷えたマリアは、カリスに向き直る。

 不安はあるが、カリス相手でも冷静なまま佇むクロトは、とても頼もしい。

 意を決して、再び会話を試みる。


「・・・カリス。どういうことなのか、詳しい説明を求めますわ。」

「説明、か・・・。」


 カリスはどう話したものかと考え、やがて語り始めた。


「まず第一に、人間の侵略を強制したことなどない。」

「・・・何を、馬鹿なことを。現に、魔人は人間を侵略しようとしていますわ。」

「そうだな、否定はしない。それが私の目的だからな。」

「では、どういうことですの?」

「つまり、命令はするが、従うかどうかは自由ということだ。」


 その言葉に愕然とするマリア。


「・・・完全な反対に回れば殺されるのに、従わないことなどできませんわ。」

「殺しなどしない。集団からは抜けてもらうがな。」

「っ?ですが、以前従わなかった魔人を粛正して・・・。」

「あれは、従わなかったからではない。下衆だったからだ。」

「・・・・・・。」


 目を見開いて、何も言えなくなるマリア。

 自分はなぜ、そんな勘違いをしていたのか。

 だが、今の説明だけでは納得できないことを見つけた。


「もし、それが本当だとして。何故殆どの魔人が、侵略に賛成なんですの?」


 命令に従わなくとも殺されないなら、離反する魔人が居ないのは何故なのか。

 その疑問に対する答えは、簡潔だった。


「それは、私が命令するまでもなく、人間が憎いということだ。」

「・・・・・・そう、でしたわね。」


 なんの躊躇いもなく納得してしまったマリア。

 天魔人となったことで、そのあたりの感覚が薄れていたようだ。


「理解してもらえたか?」

「ええ。ですが、わたくしが人間の傍に居ることにすら何も言わないのは?」


 離反は許すにしても、憎い人間の傍に居るのは別問題では無いのだろうか。

 マリアとしては、一番気になるところだ。


「何か誤解があるようだが、私は人間を憎んではいないぞ?」

「・・・えっ、ですが現に、侵略しようとしているではありませんの。」

「それは憎しみとは関係ない。侵略が、魔物たちのためになるからだ。」


 まさかの、大前提を全否定だ。


「でしたら、わたくしの行動も咎められないんですのね?」

「初めからそう言っている。寧ろ、ようやくかと思ったくらいだ。」

「えっ・・・?」


 それでは、まるで離反を望んでいたかのようではないか。

 マリアは混乱する・・・が、再びクロトに撫でられて冷静に。


「わたくしが離反する事を望んでいましたの?」

「否。だが、ある時から君は、人間との融和を望むようになったであろう?」

「っ!気づいてましたの・・・?」

「何百年のつきあいだと思っている。当然、それくらいは気づく。」


 まさか気づかれていたなどと、思いもしなかったマリア。

 そしてカリスは、衝撃の言葉を発する。


「君がその選択を貫き通したことを、私は同じ魔人として、誇りに思っている。」

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