異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

VS「無双」

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「・・・ヴィオラ?」

「・・・誤解はしないで。私は、クロト以外は絶対に嫌。」


 別にそこは心配していなかったクロト。

 だが、ヴィオラは、万が一にも誤解されたくなかったのだろう。

 そのまま話を続けた。


「・・・完治の白玉は、私を賭けてでも、手に入れるべき。」

「・・・・・・。」

「・・・普通、病気は治せない。だから、手に入れて欲しい。」

「ヴィオラを賭けの対象にしたくはないんだけどな・・・?」

「・・・私やアクア、エメラが病気になってから探しても遅い。」

「・・・・・・。」

「・・・普段のクロトなら、合理的に、賭けをするはず。」


 ヴィオラの言う通りだった。

 合理的に考えれば、愛する人を賭けてでも、手に入れるべきものだ。

 だが、愛する人を大事にするあまり、判断力を欠いていたとクロトは認識した。


 ヴィオラは、クロトに賭けの対象にされることに、思うところはない。

 合理的に考えれば、当然の判断なのだから。

 万が一クロトが負けたとき、甘んじて受け入れるつもりもある。

 当然、クロト以外の男に抱かれるなど、死んでも御免だと思っているが。

 
 しかし、ここで賭けを受けなかったら。

 自分の好きなクロトを、ほんの少し見失ってしまう気がした。

 アクアやエメラ、そして、クロトを病気で失う事にも、耐えられそうにない。

 だから、賭けを受けることを提案したのだ。
 
 
 もっとも、賭けるのが自分だから、こんなことが言えている。

 もし、アクアやエメラが選ばれていたら、反対しただろうことは間違いない。

 それに、なんだかんだで、クロトは負けないと信じている。



 クロトはヴィオラの主張を聞いて、高速で思考した。

 
(大切にするあまり、病気で死ぬリスクを増やすなんて、僕としたことが・・・。)


 最近は殆どしなかった、完全なる判断ミスを反省する。

 合理的に考えるなら、間違いなく受けるべき提案だ。

 クロトは冷静に思考し、判断を間違えた理由を理解した。


 自分の愛・・・いや、独占欲で、軽率な結論を出したということだ。

 自分以外の男に抱かれる恐れのある行動を、本能的に避けてしまった。

 人として当然の感情ではあるが、大変クロトらしくなかった。


(・・・決めた。賭けは、受ける。)


 クロトは決断し、ヴィオラに伝える。


「ヴィオラ、賭けを受けようと思う。・・・君を賭けても、いい?」

「当然。それでこそクロト。そんなクロトのことが・・・大好きだ。」


 クロトとヴィオラは軽くキスをして、アルレインの方を向いた。


「そういうわけだから、賭けは受けるよ。」

「決闘を申し込んだのは我だが、本当に良いのか?」


 アルレインも、こんな提案はしたくなかったのだろう。

 心配そうに、そう尋ねて来た。


「問題ないよ。だって・・・ヴィオラのことは、単に賭けるだけなんだから。」


 アルレインは、クロトが、負けなければいい、と言っているようにきこえた。

 負けなければ、ヴィオラを渡さなくてすむのだから、と。


「我はS+ランク。負けなければいいという目算は甘すぎるぞ。」

「違うよ。そんなことは思っていないから。どれだけ自信過剰な人なのさ。」

「・・・では、どういう意味なのだ?」


 アルレインには理解能わないようだ。

 ゆえにクロトは、端的に説明してあげた。





「正しい選択さえし続ければ、必ず勝利に辿り着く。当然のことだよね?」


 アルレインは、やはり理解できなかった。







 決闘のルールは、何でもあり。

 相手を殺してしまってもお咎めなし。

 そのことを記した証明書も書く。



 そして、決闘が始まった。

















 決闘が終わり、ヴィオラは精霊神殿の中に居た。





 隣に居るのは・・・・・・ヴィオラの愛する人、クロト。


 決闘の内容は、詳しくは語らない。

 クロトが終始、アルレインを圧倒した。

 アルレインは、何も出来ないまま負けた。

 終わった後で、アルレインが呆然としてしまうくらいに、完封だった。

 何の面白みもない戦いだった。


 場を支配するのは常にクロト。

 最初の一手から最後の一手まで、全てが計算通り。

 恐ろしい程の、合理に徹した戦い方。

 クロトの思惑を外したと思ったら、それが思惑通りの行動となったアルレイン。

 クロトは、アルレインの認知限界まで理解して作戦を立てていた。


 アルレインは、クロトという男に恐怖した。

 こんな思考能力を持つ者・・・本当に人間なのか、と。

 目の前に居るのは、本当に、自分と同じ人間なのか、と。

 恐怖に駆られて限界突破を使用するタイミングさえも見通され。

 
 
 戦いが終わり、賭けたものを出したアルレインは、震えながら逃げた。

 一刻も早く、その場から消えたかった。

 一秒たりとも、クロトの近くに居たくなかった。

 
 格の違う化け物。


 そうとしか思えなかった。




 クロトからすれば、当然の結果だとしか思えなかったが。

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