異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

魔法言語

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 講義を終えて宿に帰ってくると、マリアが居た。


「クロト、講義はどうでしたの?」

「魔法陣学は楽しかったよ。神話学は、大したことは教えてくれなかったね。」


 世紀の大発見を、楽しかったの一言で片づけたクロトは、マリアに聞き返す。


「そういうマリアこそ、戦闘講義はどうだったの?」

「わたくしは我流ですので、学ぶべきモノはありましたわ。」

「そっか、それは何よりだね。」


 マリアが充実した日々を送れそうで良かったと思ったクロト。


「そういえばこれ、講義のメモですわ。」


 マリアが小さなメモをクロトに渡した。

 わざわざクロトの為に、要点をまとめてくれたようだ。

 クロトが嬉しそうにしているのを見たマリアが、慌てて言い繕ってきた。


「これはっ、わたくしが覚えるためでっ、クロトのためじゃありませんわよっ!?」


 なんというツンデレ。

 クロトは、マリアのツンデレが嫌いじゃない。

 
「そっか・・・。まあ、僕のためだけに、そこまではしてくれないよね・・・。」

「えっ・・・いえっ、今のは言葉の綾ですわ!」

 
 どこをどう捉えれば言葉の綾という説明が成り立つのだろうか。


「じゃあ、僕のためだけに、わざわざやってくれたんだね?」

「うっ・・・。それは、それは・・・!」

「・・・やっぱり違うのかな?」

「・・・・・・そうですわよ!クロトのためだけにやったんですわ!」

「そうなんだ・・・。ありがとう、マリア。」


 マリアに微笑むクロト。

 それを間近で見たマリアの顔が、真っ赤に染まる。


「うぅ・・・この微笑みは反則ですわ・・・。」


 意図的にマリアを揶揄ったクロト。

 かつて、こんなことをした相手は、アクアくらいかもしれない。

 着々と、クロトの想いは芽吹きつつあるのかもしれない。


「そんな訳で、マリアを揶揄うと面白い、ということが分かったね。」

「揶揄う・・・!?クロト!わざとやってたんですの!?」

「そうだよ?」

「そうだよ、じゃありませんわ!」


 マリアは恥ずかしさをごまかすために、クロトをポカポカと叩いたのだった。


 クロトはそれを、優し気な笑みを浮かべながら受け止めていたとかなんとか。








 その後、アクアも帰ってきて、情報交換を行う。

 話を聞く限り、応用魔法講義は中々ためになった様子だ。


「やはり、我流も悪くはありませんが、見えていない部分もあると分かりました。」

「確かにね、魔法陣学もそんな感じだったよ。」


 やはり、先人たちによる努力の結晶は、舐めていいものではないようだ。

 クロトでさえも、学べることが多かった。

 
「それと、魔法言語学の方なのですが・・・。」

「魔法言語・・・というと?」


 魔法言語という言葉は初めて聞いたクロト。

 気になったので、アクアに詳しく聞いてみた。

 
 魔法言語とは、言語理解のスキルを最高値にした状態から進化したレアスキル。

 だが、現在取得している者は居ないと言われている。

 このスキルはレベルが上がり辛く、3あれば日常生活には困らないのが理由だ。

 また、取得しても、ほとんど役に立たない。

 精々、スキルを発動させて魔法を撃つと、ほんの少し威力が上がるだけだ。


 講義では、こういう説明をされたそうだ。

 ちなみに、生徒は少なめだったとか。


「言語理解か・・・。アクアは魔法言語を取得したいの?」

「はい。役に立つかはわかりませんけど・・・。」


 どうやら、アクアは本気のようだ。

 本気で魔法言語を覚えたくて、クロトにアドバイスを求めている。

 理由としては、現状、魔法を発動するときに違和感が付き纏うから、だそうだ。


「・・・分かった。明日まで待ってもらってもいいかな?用意してくるから。」

「・・・?はい、分かりました。」



 その夜、クロトは一睡もしなかった。



 翌日の昼前。

 クロトは徹夜で仕上げたそれを、部屋でアクアに渡した。


「クロトさん、これは・・・?」

「僕の居た世界での言葉が詰まっている本だよ・・・。」


 クロトは、地球にあった言語を、分かりやすく本にまとめてきたのだ。

 中には辞書もあり、この世界の共通語との対応も記されている。

 とりあえずは、日本語の他に、国連の公用語である六か国語を準備した。

 これらだって立派な言語なのだから、スキルの成長には役立つ。


「ク、クロトさん、こんなに・・・!これを一晩で・・・!?」


 アクアは、クロトが眠そうな理由を理解した。


「すみません・・・!私、クロトさんに無理をさせるつもりなんて・・・!」


 アクアは顔を青くして狼狽え始めた。

 そんな表情を見たかった訳ではないクロトは、アクアをなだめにかかる。


「アクア、僕がやりたくてやったことなんだから、そんな顔をしないで?」

「で、ですが・・・!」

「そんな顔よりも、喜んだ顔の方が、僕は嬉しいな?」


 アクアはクロトの言葉を聞いて、狼狽えるのをやめた。


 そして、少しだけ迷った後、満面の笑みを浮かべ、


「ありがとうございます・・・!私、私っ・・・!とっても嬉しいです!!」


 そう言ったのだった。


 やっぱりアクアの笑顔は最高だ。

 そう思いながら、眠りについたクロトだった。

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