妖符師少女の封印絵巻

リュース

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一章 妖符師誕生編

3 低位悪霊

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 私、影山若葉は<妖符師>となって夜の町に繰り出しました。

 時刻は真夜中。人通りが無い暗い町をフォーンと一緒に歩く。
 まだ十五歳の私が、夜中に外を出歩いているのが見つかったら、補導されてもおかしくないから緊張する・・・!

 あっ、でも・・・昨日が三月最後の日で、もう日付が変わったから四月一日。
 私、十六歳になったんだね・・・。
 一週間後から高校に通うことになっていたし、忙しくなりそうだなぁ・・・。

 ・・・しばらくは不定期営業で許してね、お母さん、お父さん。


 町のパトロールを始めて数十分。


「若葉、あれが低位霊だコン」

「あれが・・・霊?」


 顕現召喚したフォーンが宙に浮かびながら指し示すのは電信柱の影。
 そこには・・・白い靄?
 大きさは人間の顔より少し小さいくらい。


「あれ?今更だけど、どうして私、霊なんて見えるんだろう・・・?」

「本当に今更コンね・・・。ボクと契約したからに決まってるコン。
 もっとも、素質そのものはあったみたいだコン」

「そうなんだ。妖怪書にも書いてあったのかな・・・?」


 大体は把握したけど、まだ細かい部分は読み切れてないから不安だな・・・。
 あ、妖怪書というのは両親が残してくれた本のことね。
 後で、喫緊で必要じゃない部分も読まないとね!
 本を読むのは好きだから、全然苦にはならないし。


「えっと・・・それで、あの低位霊は悪霊じゃないから放置していいんだよね?」

「正解だコン。・・・まだなり立てなのに随分落ち着いてるコンね?」

「うーん・・・昔から肝が太いって言われるよ?」

「そういう問題かコン・・・?妖符師が後継者に押したのに納得だコン」


 どういう意味かな・・・?
 両親のことを知らないみたいだけれど、何か感じるものはある、とか?
 つまり、褒めてくれてるんだよね?


「ありがとう、フォーン。でも、あんまり褒められると照れちゃうよ・・・///」

「何をどう聞いたらそうなるコン!?今のは皮肉と嫌味コン!」

「あれ?」


 ちょっと間違えちゃったみたい。
 でも、反応するフォーンが可愛いから文句は無しだね!


「若葉・・・本当に大物なのだコン・・・」

「?」


 よく分からないけど、低位霊に手を振ってその場を通り過ぎる。



 そして十数分後。
 ついに低位悪霊と遭遇した。


「大きさは低位霊と同じくらいで、黒い靄・・・?」

「低位悪霊の特徴だコン。悪意とか嫉妬とか、負の感情を取り込んで黒くなるコン。
 人にとり憑いたり現世に悪影響を与えたりするから、倒してしまうのが正解コン。
 放っておくと位階が上がってしまうこともあるコン」

「そうなんだ・・・」


 とり憑くっていうのは何となく分かるけど、現世に悪影響・・・?
 私は顔に出やすいタイプなのか、聞く前からフォーンが答えてくれた。


「例えば、負のエネルギーによって事故や自然現象が起こりやすくなるコン」

「なるほど。じゃあ、退治しなくちゃいけないね」

「そういうことだコン」


 低位悪霊は十メートルくらい離れた場所にある電信柱の影から動かない。


「霊って電信柱が好きなのかな・・・?」

「好きって、何だコン・・・?深く考える必要はないコン」

「あっ、そういえば、フォーンもそうだけど、どうやって宙に浮いてるの?」

「それは今気にすることコン!?」


 うん。だって気になるもん。
 空高くに浮かれたら、どうやって倒していいのか分からないし。

 でも、聞いている時間は無さそう。
 低位悪霊がこっちを見つけたみたいだから。

 まずは深呼吸・・・!
 目を閉じて、吸って・・・吐いて・・・もう一度吸って・・・。


「・・・ふぅ」

「・・・若葉?どうした、コン・・・?」

「いくよ、フォーン。
 我求めるは、この世ならざるあやかしの力。
 我が求めに応じ、今現世うつしよに現れ出でよ。
 汝は扇となりしモノ・・・武装召喚<多尾狐>『フォーン』!」


 詠唱を紡ぐとフォーンが光り輝く球体になって、そこから扇の形へと変化した。


<若葉?雰囲気がさっきまでと違うコンよ・・・?>


 扇から頭の中に直接、フォーンの声が響いてきた。
 これが念話だね。


<そんなに変わったかな?でも大丈夫だよ、フォーン。私は私だから>


 私も念話で返答した。

 フォーンの返事を聞く前に、低位悪霊が私へ向かってきた。
 速度は・・・人が走るのと同じくらい?

 黒い靄を、横から扇で弾く。
 弾かれた靄は、なんだか苦しそう。
 あ、霊体には霊体でしかダメージを与えられないらしい。
 だから素手で弾いてもダメなのだとか。


<若葉!もう一回コン!>

<うん!>


 低位悪霊に走り寄って、今度は斜め下から振り上げる!


「・・・・・・!?」


 黒い靄は一度大きく揺れた後、薄くなっていく。
 確か、ここで白符の出番。
 コートの内側に入れてあるポケットから白符を出して、靄の中へ飛ばす。
 
 すると、黒い靄が白符に吸い込まれていき・・・やがて靄は無くなった。

 後に残ったのは、黒くなった符。
 妖符の一種で、名前は<低位符>。
 これは、低位霊とは契約できないが故に、一度きりの使い捨てになる。
 当然、顕現召喚や武装召喚など出来ない。


「ふぅ・・・これでいいんだよね?」

<文句なしだコン!でも、ボクの使い方は練習が必要だコン!>

「あはは・・・扇なんて持ったことなかったから・・・」

<・・・それが本当なら、寧ろよくあれだけ戦えたコンね・・・>


 フォーンに呆れられている気がするけど、まあいいか。
 初めての妖符師としての仕事は、一応成功、かな?

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