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クリスマスの天使たち

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「ねぇ、届いてる?……届いてる、透夜?」


 星の光が散らばる野原で、深雪はささやく。
 きらきらと光がさざめきゆらめく、星の草原の向こう側にいる少年に。



「聞こえてるよ、みゆ。ちゃんとね」


 ほんの少し笑いを含んだ声音で透夜は応える。
 闇夜の彼方にいる少女の愛らしい姿をじっと見つめながら。



 金の髪に金の瞳の少女、深雪みゆき
 闇色の髪と夜空の瞳の少年、透夜とうや
 この二人は、一対の翼を分けあい生まれてきた。
 
 聖なる夜に。
 奇跡を降らす、光の天使たち。



「みゆこそ、ちゃんと僕の姿が見えてるのかな?」



 ちっとも不安げには聞こえない少年の言葉は、相変わらず楽しげである。
 少年の夜空のように光が瞬く瞳にも、鮮やかに黄金の光を放つ少女の姿ははっきりと捉えているからだ。



「バカにしないでよね、透夜。透夜がどこにいたって、みゆにははっきり分かるんだからっ!」

「そう?」

「どんなに闇の中に透夜がいたって、お星様のような銀色の光が透夜にはあるんだからっ!それを見逃すみゆじゃないわっ!!」

 そんなに力説しなくても、と透夜は思うのだが、みゆはいつもまっすぐで、一生懸命で、そこがみゆの良いところなのだと分かっているので、透夜はやはり笑うだけ。


「さて、じゃあちゃんとお仕事しなくちゃね」

 二人一緒でなければ仕事は出来ないのだ。
 笑いながら透夜は深雪を手招きする。
 一瞬のうちに、透夜の目に前に黄金の光に包まれた愛らしい少女が現れた。
 その少女の光に照らされて、透夜の姿も明らかになる。

 深い闇よりもさらに深い漆黒の髪に、銀の星の光を宿す闇色の瞳。
 肌は透ける様に白く、すこやかに伸びた手足はまだ少年のもので細く華奢だった。

「やあ、みゆ。今日も元気だね」
「ええ、透夜も元気ね」

 深雪はニッコリ笑うと、両手の中に光を生み出し、大事なものを抱えるかのようにそっと目を閉じる。
 光が次第に膨らんでいくと、深雪はそっと手を離した。
 ゆっくりと浮遊しながら、光の玉は深雪と透夜の間を揺らめいている。
 深雪と透夜はお互いに手を重ね合わせる。
 光が満ちる瞬間がある。
 それが、祈りの力。
 二人のちから。



 聖なる夜に奇跡は降る。
 全てに……。


 どうかこの光に気がつきますように……
       この想いが届きますように……



 きらきらひかる星の瞬きを眺めながら、深雪はそう思わずにはいられない。
 地上に満ちる小さな光がそれぞれに輝きますように、と。
 降り注ぐ光は祈りの源。
 それはいつしか雪へと変わり、地上を白く染めていく。
 真っ白な、奇跡となって。


 さしあたってのみゆの願い事は透夜に叶えてもらうのだ。
 みゆはにっこり笑った。



「ねぇ、今日がイヴだって知ってる?」
「知ってるよ」
「みゆのお願い事、聞いてくれる?」


「……僕は毎日その言葉を聞いてるような気がするよ」




 Fin.
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