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もちろんダンスの授業がある

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「こっ、これは」
 アリスの周りのクラスメイト達はクスクスとこれ見よがしに笑ったり、必死で笑いを堪えたりしている。が、当のアリスはキラキラとした瞳でそれを見つめていた。
「すげー。大掛かりな個人用魔道具、初めて見た♪」
 数日後のダンスの授業で教室に向かったアリスを待ち構えていたのは魔道具のダンス練習用人形だった。木製のデッサン人形のような外見に男性の正装をしたアリスに合わせた特注品人形。グレースが用意した物だ。
 魔道具は大変に高価な物だ。ゲーム内ではクリラブ1では超高級品。話題に出てはいたが実物が登場する事はなかった。クリラブ2でも高級品に変わりはなく庶民には手の出ない高級家電のような扱いだ。貴族でも個人で魔道具を所有できる家はかなり裕福だ。
 地元に戻る前に皆と行った王都巡りで魔道具店を見ようとしてそもそも店は無くオーダーメイド工房の看板を眺めただけのアリスが興奮するのも無理はなかった。
 しかしダンス練習用人形とは本来ダンス習い始めの子供の為の魔道具だった。大人で使う人はいない。例えるなら乗馬の練習にまずは木馬から乗ろう的な感じだ。
 ユリアンヌやサーシャ達ですら太ももを抓ったり唇を噛んだりしながらアリスから目を逸らしている。
 が当のアリスは魔道具に釘付け。人形の手を突付いてみたり人形の服の襟を整えてみたりしていた。
 そんなアリスの様子をよく見るとちょっとゴツいダンス用の安全靴を履いたケビンとお揃いのデザインのダンスシューズを履いたマリア、先生ズは大人な笑顔で見てから周りの生徒に向かってパンパンと手を叩いた。
「はい、足を止めないで。練習を続けなさい」
 先生の言葉にクラスメイト達は慌てて練習を再開する。マリア先生はしげしげと人形を眺めているアリスの肩にポンと手を置くと人形の正面にいざない立たせた。
「これからこの人形を使ってワルツのステップの練習をします。宜しくて?」
「ハイッ」
 元気良く答えるアリス。
「スイッチを入れると人形が手を差し出しますからその手を取り正面で組みます。次に1・2・3のリズムでベルが鳴りますからリズムに合わせて人形のリードに従いステップを踏んで下さい。分かりましたか?」
「ハイッ。頑張ります。お願いしますっ」
 アリスは無表情というよりのっぺらぼうな人形を見上げた。ダンス練習用人形にケビン先生がスイッチを入れる。リンという小さなベルの音と共に人形が動き出し人形の手が滑らかな動きでアリスの前に差し出された。
 すすすすげ~っ。カラクリじゃないこの自然な動き、これが魔法かー♪
 魔法学園に通っているのに魔法っぽさとはイマイチ縁遠かったアリス。本人は魔力が高いだけで使いこなせず、Bクラスのクラスメイトの魔法はテーブルマジックレベル。イリュージョンなレベルの魔法はAクラスでないと拝めない。
 やっとこれで魔法学園物っぽくなってきた。グレース様の財力をお借りして、レッツマジックだっ。
 アリスは人形の手を取ると人形の動きに合わせて組んだ。
「はい、ベルのリズムに合わせて足を動かして」
 マリアが声を掛けて人形が動き出しリンとベルがリズムを刻み始める。
 人形なら足を踏んでも怒らない。練習を頑張って赤点ギリギリでゲームクリアよ♪アレク様、アリスはやり遂げます。
 おしっとアリスは一歩を踏み出そうとして、
 あれ?どっちの足をからだっけ?
 となり、一瞬棒立ちになったアリスはバランスを崩して、
 ダンッ。
 早速ダンス練習用人形の足を踏み付けていた。
 ピッ。
 笛の音がしたその瞬間、
 バチィッ!
 アリスの足に電撃が走った。
「いっ痛ーっ!」
 悲鳴を上げたアリスは飛び上がりそのまま尻もちをつく。
「大丈夫?」
 慌てたマリアはアリスに駆け寄るとケビンを睨んだ。
「ケビン、スパルタモードは慣れてきてからって言ったでしょう」
「ごめん、切り忘れてた」
 先生ズのやり取りにつま先をさすっていたアリスの手が止まる。
 スパルタモード?!なアリスにマリアは笑顔で、
「足を踏んだり蹴ったりするとちょっとビリッてくる仕様になってるのよ。まあ、静電気位のビリッね」
 そう言いながらマリアは自分で人形の足を踏んでみせる。笛の音と共にバチッと派手な電撃音がするが顔色ひとつ変えずマリアはダンス練習用人形を見上げ肩を撫でた。
「他にも色々な機能が付いているわ。本当に良く出来た魔道具よ」
「そうですか…?」
 アリスにはとてもそう思えなかった。
 いや、マジで痛かった。リアクション芸じゃない、マジでリアクション。
 アリスは助けを求めて、思わず足を止めたリカルド&サーシャ、ステップの確認中のユリアンヌやノーラを見た。皆アリスの視線を避ける様に目を伏せて何事もなかった様に練習を再開する。
「…」
 ガシッ。
 笑顔のマリアがアリスの両肩を掴み軽々と持ち上げるとトンとアリスを人形の前に置いた。
「は~い、では気を取り直して最初から」
 リン♪
 ベルの音と共にダンス練習用人形の手がスッとアリスの前に差し出される。
「…」
 アリスはのっぺらぼうな人形を見上げた。



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