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もちろんいつもの授業もある

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「ちょっと返してくる」
 あっという間に数日が過ぎもちろんいつも通りの授業もある。魔法学の授業終わりのアリスは一階の教室の窓から庭師の一人の姿を見つけると萎れた花の鉢植えを手に立ち上がった。
 魔法の訓練用の道具を片付けていたユリアンヌが、
「待って、一緒に行くから」
 と声を掛けるがアリスは
「教室を出てすぐ先の渡り廊下の所まで行くだけだから。庭師さんが建物内に入るには通用口まで回り込まないといけないから大変だもん」
 と言いながらスタスタと教室を出て行こうとする。ユリアンヌは慌てて追いかけようとしたが、熊が自分の片付けの手を止めて渡り廊下の見渡せる位置まで移動したのに気付いたサーシャが、
「鉢植えを渡したらすぐに教室に戻ってね。次の教室への移動は団体行動よ、アリス」
「OK」
 サーシャの言葉にアリスは元気に応えると鉢植えを手に教室を出て廊下を横切ると渡り廊下へ出た。それに気付いた庭師が慌てて走って来る。
「お願いします」
 鉢植えを差し出すアリスに
「こちらが伺いますから、教室で待っててくださって良いんですよ」
 そう言いながら鉢植えを受け取ったのはアリスの光の魔法の訓練の為に萎れた草花を毎回用意してくれている庭師達の中で顔馴染になった一人、ソバカスが印象的なちょい細目の若い庭師の青年だ。
 親しげな笑顔をアリスに向けた庭師は萎れた花をしげしげと眺めて、
「やや、今日は花の脇の雑草が元気になってる様ですよ。着実に訓練の成果が出ていますね」
「えっ?そうですかぁ?」
 アリスは改めて庭師の手の鉢植えを覗き込む。確かに雑草は元気だった。
「あ、ホントだ~」
 魔法の効果か?はともかくアリスは嬉しくなってヘヘっと笑う。庭師は笑顔で、
「次の授業は切り花を用意する予定です。俺が良い感じのを用意するのでこの調子で頑張って下さい」
「はい、有り難うございます」
「水を吸い上げるイメージトレーニングが良いのではと師匠のギブソンさんが言ってました。参考になりますか?」
「水を吸い上げるですか?」
 庭師の言葉にスポンジが水を吸うイメージが頭に浮かんだアリスは首を捻る。庭師はポンと手を叩くと、
「良ければ俺が準備するので放課後にでも花壇の水やりを一緒にしてみま…」
「アリス」
 庭師の話しの途中で後ろから声を掛けられた。振り返ると渡り廊下の先から教科書を手にしたクラリアが歩いてくる。
 あれ?いつもの双子が居ない。
 クラリアは一人だった。オヤ?となるアリスの横で若い庭師はクラリアの視線にギクッととしたように肩を震わせる。直立不動になる庭師の青年に鷹揚な態度でクラリアは頷いた。
「アリスの為に色々と骨折りご苦労様」
「いえ、私など大してお役に立てず」
 クラリアの声掛けに庭師はガチガチで答えている。アリスはその様子を面白そうに眺めそれに気付いた庭師はちょっと鼻を赤らめた。
「では、私はこれで失礼します」
 庭師はクラリアに深々と頭を下げると、チラッとアリスを見て元来た方向へ戻っていった。軽くスキップしている庭師を見たアリスは感心した顔でクラリアを見た。
「流石はクラリア様。キツネさん、めっちゃスキップしてますよ」
「キツネさん?」
 首を傾げるクラリアに100%の笑顔でアリスは答えた。
「はいー、何かキツネっぽいからキツネさんて個人的に呼んでます。あ、勿論本人には言ってないですよ」
「そう、なの」
「はい、色々と気を使ってくれて良い人です。生クラリア様を間近で拝めてスキップしちゃうほど喜んでましたね。またナイショお菓子くれるかな」
「そうなの」
「クラリア様、キラキラですぅ~。眩しい~」
 手で目を庇う仕草をするアリスと教室の窓からキツネの背中をめっちゃ睨んでいる熊を見た。
 キツネさんとやらのスキップの原因は貴方の行動よ、アリス。
 あからさまなキツネのアプローチをあっさりスルーとは、流石はアリス。また無自覚に初期装備のこん棒を振り回してモブキャラに当てたのね。
 アリスの両手にこん棒の幻影を見たクラリアは軽く首を振って幻覚を追い払った。それをアリスは不思議そうに見る。クラリアはコホンとひとつわざとらしく咳払いをした。何故か待ての姿勢になるアリス犬。
「アリス、貴方に至急お伝えしたい事があります」
「クラリア様がお一人という事はゲーム展開で何か起きたんですね?」
 勢い込むアリスにクラリアは得意そうに笑った。
「その通りだけど、アナベル&セシルの二人が今いないのは別の理由。今あの子達はお断りを入れに回っているの」
「?」
「ほら、あの子達は可愛くて賢くて気立ても良くて申し分のない完璧なお姫様でしょう。兄がいくら追い払っても兄のガードの隙間を潜ってクリスマス舞踏会のエスコートの申込みをしてくる連中が後を立たないのよ。お断りは礼儀を持ってキチンとしておかないと後が面倒になるからね」
「はあ、そうなんですか。クラリア様はサクッと断ってきた後ですか?」
 アリスの質問にクラリアはひくっと片頬を動かした。
「…私の所に申し込みに来る奴はいないわ。美少女なのに何故?!って思うけど、まあ、ババ臭さが滲んでいるのね」
「残念ヒロインの私に言える事は無いです~。でも、クラリア様は美少女です」
「隣に超美少女が二人もいるのだから霞むのはしょうがないわよね」
 …自分を卑下しつつも異母妹自慢止めないなぁ。
 アリスは長話になるかと覚悟して、がクラリアはすぐ我に返った。
「話が逸れたわ。話というのは、つい先程ですがカイル王太子殿下より私に、クリスマス舞踏会で社交の場に不慣れなアリスをサポートをしてくれないかと打診があり謹んでお受け致しました」
「えっ、本当ですか?やったぁ、アイルたん気が利くぅ♪」
 クラリアの言葉にアリスはピョンと飛び上がるとばんざーい!
 行った事のないドックラン(舞踏会場)に一匹で放り込まれるかと思いきや飼い主(クラリア)がいてくれる。
 人目も憚らずアリスは喜びの舞いを踊った。
「うほほ~い、うっほほ~い」
 …踊れない訳じゃない。
 何気に社交ダンスの様々なステップがダンスに入っている舞姫アリス。人だかりが出来かけていた。
「止めなさい、アリス」
「はい、スミマセン」
 御主人様の命令にすぐに待ての姿勢に戻るアリス犬。
「とにかく舞踏会場内でも堂々と尻拭…フォロー出来る様になったのは良かったわ。ゲーム的には攻略対象キャラクターに指名されて悪役令嬢がヒロインの面倒を見るってどういう流れ?とは思うけど」
「私はミニゲームがクリア出来て舞踏会イベントが無事に過ぎれば後はどうでもいいです」
「そうね、カイルの事だからアランから貴方のダンススキルを聞いて不安に思ったんでしょうね」
「…誰だって足を踏まれたり蹴られたり投げ飛ばされたくないですよね」
 しょんぼりアリスにクラリアは肩をすくめる。
「まあ、彼も恥はかけない立場だから。カイルルートに入っちゃったのね、残念だけど」
「何故なの…」
「…ホントにね」
 この子、いつカイルにこん棒当てたのかしら?
 恐らく本人にも解らない。
 クラリアはアリスの肩をぽんぽんと叩いた。
「今の所、貴方を除くとゲーム通りにペアを組んだのはアラン&グレースのみで兄のウェインは妹達、アーサーはまだパートナーを決めてすらいないわ。各ルートのライバル令嬢達は登場の気配もないし、どうなるのかしら」
「ゲームのメインイベント、クリスマス舞踏会に攻略対象キャラクターが欠席ってゲーム的に有り何でしょうか?」
「現実世界でも侯爵以上の人間は舞踏会に不参加なんてあり得ないわ。体面を保つ為に死ぬ気でパートナーをGETよ」
「アーサールートのライバル令嬢はどうしているんですか?」
「噂レベルだけど学園外に婚約者候補がいるとか」
「えっ、マジで不参加に…」
 アーサー推しのオタ従姉ゴメン。クリスマス舞踏会のアーサースチル無しみたい。
 心の中で謝るアリスにクラリアはクスッと笑った。
「大丈夫よ。本人がその気になれば、アーサーと出席したい令嬢は山の様にいるから。だから呑気に構えているのよね。ゲームと違って家を継ぐ身でもないし、お気楽な所は子供の頃から変わってないわね」
「子供の頃?」
 アリスの耳がぴぴっと動く。クラリアは苦笑混じりに頷いた。
「王子の取り巻き達は子供の頃から側近候補として遊び相手で城へ上がっているのよ。私やグレースも遊び相手として城に行ってたわ。因みに一番優秀なのは兄よ。アーサーはあの頃から天然気味でガキんちょカイルに唆かされて二人で私やグレースに毛虫やカエルを投げたりしてきて本当に困った悪ガキだった」
「えっ、ガキんちょアイルたん♪可愛過ぎ~」
「どこがよ。あの頃は王家やクエーレ家の姉姫様方が嫁ぐ前で城にいらしたからよく言いつけて叱って頂いたわ」
「そのシチュエーション、推せる~」
「押せる?首根っこ掴んで庭中引き摺り回したり木に縛り付けて何時間も放置したり結構ワイルドな躾けだったけど」
「えー、その構図、尊い~」
「前世なら虐待レベルよ?まあ、あれはいわゆる好きな先生の気を引きたい馬鹿な幼稚園児達といった所かしら。あ、今もバカね」
「それだけでどんぶり飯が何杯も食えます~」
 萌え要素が多すぎて渋滞してる。幼きアイルたんとその御学友が城でヤンチャに遊ぶとか叱られるとか、リアル乙女ゲームご褒美スチルあざ~すっ。
 妄想の羽根を広げウットリと虚空を見つめるアリスにクラリアが寄り目になった。
「どうして今の話で食が進むの?」
『お姉様~♪』
 そこに全ての用事を済ませたアナベル&セシルがクラリアを見つけて走ってくる。アリスを完全に無視してアナベルはクラリアの右腕をセシルは左腕を取りながら露骨にアリスを向こうへ押しやる。
『お待たせ致しました。お姉様♪さ、次の教室へ参りましょう』
「ええ、参りましょう」
 二人の甘えた様な瞳にクラリアはにっこりと微笑むと廊下の端に追いやられたアリスを見た。
「アリス、ダンスの練習を頑張りなさい。グレースも心配していてよ」
「はい、クラリア様」
『お姉様がわざわざ貴方の練習の犠牲者の為に安全靴を用意したからといって安心して踏んでたら意味ないわよ』
「有り難うございます。クラリア様」
 そう言い残し去っていく3人をアリスは手を振って見送る。そのアリスの瞳はちょっと焦点が合っていなかった…。




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