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アリス、お茶会でオタ活する

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「あのっ、皆様に是非に見て頂きたい物が御座いまふっ」
 唐突に言い出し、しかも噛むアリスに紅茶の香りを楽しんでいた御令嬢方は驚いて一斉にアリスを見た。マナー違反に眼尻を吊り上げるアナベル&セシルを制してクラリアは目だけが笑っていない笑顔で頷いてみせた。
「まあ、何かしら、アリス」
 やっちまったな~なテンパリアリス。しかし一度口にしてしまった言葉は戻せない。
 こんな予定ではなかったのに、…皆、ゴメン。
 心の中で非公認サークルメンバーに土下座しながら椅子の後ろに置いておいたバッグの中からアリスがそろ~っと取り出したのは、
「攻略りゃ、こう高人気方のてっ、手作りマスコットキットですっ」
 アリスが差し出したのはCクラス背景モブ令嬢エリアナ&アイシャの渾身の作、ちびキャラぬいぐるみマスコット手作りキットだった。アリスは各キャラの試作品をテーブルの上に並べて、最後にアイシャ渾身のちびキャラカイルぬいぐるみマスコット完成見本を出しチョコンとテーブルに座らせようとしたが、デザイン的に無理があり過ぎちびカイルはコロンとテーブルに転がった。
『……』
 令嬢方は無言で手作りキットとチビカイルぬいを見つめている。
「……」
 アリスの背筋をツーッと冷たいモノが伝った。
 もしかして話題を振るタイミングを間違えた上に不興を買った?
 その時、
『可愛い~っ♪』
 御令嬢方はちびキャラぬいぐるみマスコット手作りキットに飛び付いた。グレースはアランの手作りキットを手に、
「これでアラン様のちびキャラぬいぐるみが簡単に作れますのね?」
 コーネリアはカイルの手作りキットを取り、
「これで完成見本と同じ物が作れるなんてっ」
 アナベル&セシルはクラリアの手作りキットを抱きしめ、
『どちらがより可愛くお姉様のちびキャラぬいぐるみを作れるか競争よ♪』
 クラリアはアナベル&セシルとウェインの手作りキットを握りしめて、
「嫌ですわ、3つも作らなければなりませんの~♪」
 御令嬢方のハイテンションな盛り上がりに原因を放り込んだ張本人アリスは一人置いていかれていた。
 取り敢えず、失態をカバーする事が出来た…のかな~?上塗りになってるのかなぁ?
 アリスはチラッとテーブルの上で転がるチビカイルぬいを見た。
 …いや、多分大丈夫。オタ活は全てを救う筈。きっと。

 数分で御令嬢方は落ち着きを取り戻した。グレースとコーネリアは少し気恥ずかしそうにしているが、クラリアとアナベル&セシルは何事も無かったかのように取り澄ました顔でいた。
 まあ、喜んでくれたのだから、良いか。
 アリスはバッグを取るとチビカイルぬいの完成見本をポンと放り込んだ。
「あら」
 その時クラリアがアリスのバッグに付いている星柄の巾着チャームに目を留めた。
「そのバッグの巾着チャームは前の物と違う物ではなくて?」
 クラリアの問いにアリスはバッグの持ち手に付けていたお守りグッズ、巾着チャームを見て、テヘッとデコを叩いた。
「はい、実は前にクラスメートに貰った天然封じの巾着チャームを失くしてしまいまして」
『失くした?』
 クラリアとグレースは顔を見合わせた。
「はい~っ。気が付いたらバッグに付いて無かったんです。でもすぐに新しいのを貰いまして。今度は効果を2倍にしておいたそうです~」
 天然封じのお守り効果は0なアリスににクラリアはこめかみを押さえると更に聞いた。
「2倍?なの?…石が2個入っているのかしら。中を確認したの?」
 クラリアの質問にアリスはへっ?と驚いた顔をするとちょっとドヤ顔を見せた。
「もちろん見ていません。お守りは中を見てはいけないんですよ、クラリア様。袋の外からの感覚だと石は2個は入ってますー」
 答えるアリスにクラリアは無言で二度まばたきをした。
 アリス、それは日本のお守りのルールよ。
 グレースも、
「石の個数で効果が倍なんてルールがあったかしら?」
 と首を傾げている。その二人の姿にアナベル&セシルが音もなく椅子から腰を浮かせる。が、当のアリスは全く気付く事なくガサガサとバッグの中をかき回していた。次の瞬間、アリスはアナベルに後ろから羽交い絞めにされセシルにバッグを奪われていた。
「なななな何を~?!」
 アリスはジタバタするがアナベルの腕を振り解く事が出来ない。アリスの目の前でアリスのバッグはセシルの手によってクラリアに恭しく献上された。それを当然の様にクラリアは受け取る。そしてクラリアはバッグの持ち手に紐の部分を輪にして取り付けてある巾着チャームをつまみ上げてしげしげと眺めた。
「前の巾着チャームもしっかり付けてあったのに失くなっていたのね。それでより丈夫な紐に変えたのかしら」
「熊の妹さんの気遣いだそうです~」
 成る程と頷きつつ何気に巾着の紐を緩めているクラリア。気付いたアリスはにゃ?!っとジタバタしたがアナベルのガッチリホールドはピクリとも動かない。クラリアは出来た上の口の隙間から中を覗き込んで、ニヤッと笑みを浮かべるとグレースに目配せする。頷くグレース。
 酷い~っと恨めしげなアリスにクラリアは全く気に掛ける事無く巾着の口をしっかりと締めてから巾着チャームをバッグの持ち手にキチンと取り付け直した。
「中を見たら効果が失くなるのに~」
「天然封じの効果は元から期待してもほぼ無かったのではなくて?安心なさい、アリス。0からは幾ら引いても0よ」
「それの何処が安心材料なんですか~?」
 クラリアからセシル、そしてアリスの元へバッグが戻ってくる。ギュッとアリスは自分のバッグを抱え込んだ。フーッと毛を逆立てて怒るアリスだが全く気にする事無く優雅にお茶を飲むクラリアとアナベル&セシル。
 やっぱりクラリア様は悪役令嬢だぁっ。意地悪が堂に入ってるもんっ。
 そこにグレースが綺麗な組み紐を手にスッとアリスの隣りに来た。そして笑顔でアリスのバッグの巾着チャームの紐の輪に組み紐を絡めるように通してからしっかりと持ち手に結び付けた。?と首を傾げるアリスにグレースはニコッと微笑み掛けた。
「贈り物の巾着チャームですもの。もう失くさない様にしっかりと留めておきましょうね」
 グレースの優しい言葉にはわわ~っとアリスは感涙した。
 何たる恩情、溢れる神々しい慈愛。正統派ライバル令嬢グレース様、まばゆい程に尊いわ~♪
「ありがとうございますっ」
 拝むアリスにグレースは笑顔で応える。
「寮長様のお茶会にも一番に呼ばれていますし、この組み紐にはワイヤーが入れてあるのよ。簡単には切られないから安心なさって」
「はいっ。……?」
 …何か、キラキラの煌めきの中に刃が一瞬見えた様な…。
 アリスは考えない事にした。
「そっ、そんな事よりも~ぉ」
 アリスはバッグの中をかき回した。




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