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寮長様のお茶会

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「どうぞ」
「ひ、ひゃいっ。ありがとう御座いまふっ」
 裏返った声で返事を噛んでしまったアリスは情けない気持ちで目の前に出された良い香りを漂わせている紅茶の湯気を眺めた。
 3人の前に紅茶を出し終えた三階のメイド長が席に着き、テーブルの向かいの席には真ん中に寮長が鎮座し両脇を二階と三階のメイド長が固めているという中ボス2体とラスボスが同時降臨な布陣。対するヒロインアリスは背景モブ令嬢のユリアンヌとサーシャが道連れの最弱パーティ。
 瞬殺される…。
 アリスは何とか笑顔を作ろうと無駄な努力を続けていた。両脇のユリアンヌとサーシャもアリスよりはましな程度の引き攣り笑顔でいる。
 寮長の私室の居間で行われている週末の寮長様のお茶会は紅茶の良い香りと重苦しい空気が流れていた。
 クラリアからのアドバイス、笑顏、部屋の中の物を褒めるを実践しようとしたアリスだがユリアンヌに、
「この紅茶、とても美味しいです。澄んだ琥珀色をティカップの内色が引き立てています」
 と先に言われ、
「窓辺に飾られたピンク色の薔薇がとても綺麗です。落ち着いた佇まいのお部屋にとても映えてます」
 とサーシャに続けて言われ。無駄が排除されたシンプルな飾り気の無い部屋には他に褒める物が見当たらず、アリスは一人テンパっていた。
 二人共、ズルいよ~。
 実の所は二人共にアリスにテッパンの話題を残していたのだがテンパリアリスはユリアンヌにテーブルの下で足を蹴飛ばされても、サーシャに脇をつねられてもテーブルの上のアフタヌーンティースタンドが目の前にあってもソレが目に入っていなかった。
 厳しくおっかない三女史を目の前にしてアリスはアルプスから都会に連れて来られた少女よりも怯えていた。
 どうしよう。中ボスとラスボスまとめて三体に襲い掛かられるとか聞いて無いんだけど。スマイルとお世辞でクリア出来るなんて思えない。このままではゲームオーバーにぃ。懲罰房行き決定…。(学園にそんな物は無い)
 ストレスでアリスの心が徘徊しかけた時、
「アリス嬢、お菓子をどうぞ」
 寮長自らネタを振った。
「はい、戴きます」
 寮長の言葉にアリスはやっとテーブルの上のアフタヌーンティースタンドを見た。ティースタンドには一番下の段から一口大のサンドイッチとスコーン、真ん中の段にはプチシュークリームやミニフルーツタルトにチョコケーキ等が並び、一番上の段には小さなカップに入れられた砂糖菓子が彩り良く並べられていた。
 …美味しそう~。
 スイーツ達に遠のいていく意識を引き戻されたアリスは改めてティースタンドの魅惑的なスイーツ達を眺める。そのアリスを両脇でユリアンヌとサーシャが固唾を呑んで見守っていた。
 正解のお菓子を取って!すごいサービス問題よ。寮長様のお誘いの時を思い出すの。そして正解のお菓子を取るのよ、アリスッ。
 しかし当のアリスは、
 フルーツタルト、美味しそう~♪
 思い切り引っ掛け問題に引っ掛かっていた。両隣の祈りも虚しくアリスはティースタンドの二段目に手を伸ばし掛けて、気付いた。
 あ、金平糖?
 一番上の断の小さなカップに盛られていたのはつんつんとんがりが可愛い金平糖だった。
 うわ~、懐かしい。17年振りだ~。
 アリスはひょいと小さなカップを一つ取った。そして一粒摘んで口の中に放り込んだ。
 舌先で砂糖の優しい甘さが広がる。
「甘~い」
 前世で小学生の時にハマって食べていた事を思い出し、懐かしさから自然な笑みが溢れるアリスにユリアンヌとサーシャも金平糖のカップを手に取った。二人揃って金平糖を口に入れると、
「そうね、優しい甘さ」
「初めて口にしたけど、美味しいわ」
 3人が顔を見合わせて楽しそうに頷き合うのを見て、寮長やメイド長達も顔を綻ばせた。
 アリスはもう一粒口に放り込んで、
 今世では初めて見たわ。東国辺りからの舶来品かな。クラリア様が国産化してくれたら良いのに。
 アリスは他力本願な事を考えながら口の中で小さくなってきた金平糖何気無くガリガリと噛み砕いた。その瞬間、寮長&メイド長方の表情が凍り付いた。両脇のユリアンヌとサーシャもギョッとした顔になっている。
 そう、西洋式のテーブルマナーでは飲食時に音を立てるのは基本的にNGである。
 まっ、またやってしまった~っ。
 同じ轍をまた踏んだアリス。当たって砕けなかったが噛んで砕いたアリスの脳裏を土下座がよぎる。が、アリスのかしこさは1上がっていた!
 アリスはニッと無理矢理に笑顔を作った。
「こッ金平糖は小さくなったらガリガリと噛んで食べるんです。こうする事によってより風味と食感が楽しめるんだそうですっ」
 前世で修学旅行土産に京都の有名店の金平糖を買ってきた兄貴の店員さん情報だ。どうだ?!
 アリスの説明に皆、怪訝な顔でいたが、
 ガリガリガリ。
 カップを取った寮長が金平糖を口に含んだ後に大きな音を立てて金平糖を噛んでいた。
「あら、本当。風味と食感が変わって美味しいですね」
 寮長の言葉にメイド長達やユリアンヌとサーシャも恐る恐る金平糖を噛んでみる。
「確かにこの食感が面白いですわ」
「不思議だわ。風味が変わるのね」
 皆の表情が緩むのを見てアリスはホッと胸を撫で下ろした。
 セーフッ。何とか誤魔化せた!
「アリス嬢、東国のマナーを教えてくれてありがとう。ですが実践する前に説明があった方が良かったですね」
 が、当然寮長のダメ出しが入る。
「はい、申し訳ありません。以後気を付けます」
 アリスは素直に頭を下げた。そしてその後は寮長やメイド長達から質問され、それに答える形でお茶会は進んでいき、
「今日は大変に有意義な時間を過ごせました。また一緒に午後のひと時を一緒に過ごしましょう」
 という言葉で締めくられて、寮長様のお茶会は30分程で終了した。



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