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いじめイベント発生?! モブ編

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 後日、学年主任の先生にクラリアから言われた通りに伝えたみたアリスはあっさり先生から、貴方が描きたい物を好きな様にお描きなさい、との返事を頂きアリスは発表会に絵を出品する事になった。で、アリスは、
 絵を出品って…、ゲームと違うんですけど~。クラリア様も良かったわねの一言だけだし。
 もう不安しかないアリスだった。しかし、
「ねぇねぇ、描くのはカイル様?アラン様?それとも両方?!」
「穴馬的に別の方も有りじゃなくて?」
 キラキラ瞳のユリアンヌとノーラにアリスはぷーっと頬を膨らませていた。
 只今アリス達Bクラスの生徒は次の授業に向かう為に教室を移動中。教科書を抱えて歩くアリスの隣りでユリアンヌとノーラが興奮を抑えきれずにいた。さっきまで一番興奮していたサーシャは他のクラスの生徒に声を掛けられて少し後ろで立ち話中。その近くでリカルドがそれを待っていた。
 リカルドも彼女が他の男にキャーキャー言っているんだから怒れば良いのに何故に笑顔で見守るスタンス?
 アリスはチラリと八つ当たり気味にリカルドを睨むとズンズンと歩調を早めた。
「どっちもなんて、そもそも発表会に本人に許可を取らずモデルにした絵を出品するなんて無理でしょ」
「でも好きな絵を描いて良いと学年主任の先生がおっしゃって下さったのでしょう?」
「拡大解釈が過ぎる」
「じゃあ、クラリア様からウェイン様にお願いするとか。あとはアーサー様はきっと細かい事はおっしゃらないかな~って思うわ」
「良い案ね、ノーラッ。眼福ね♪」
 ユリアンヌとノーラは二人で盛り上がりウットリとあらぬ方向を見ている。
「……」
 ウェイン様がチラリと自分の方向に流し目をくれただけで目眩を起こして倒れるモブ令嬢が何を言っているの。てゆーかキラキラの防御力がモブ令嬢と同レベルのヒロインとは名ばかりの私にどうしろというのよっ。
 アリスはさらに頬を大きく膨らませ、その時、
「ごめん、ごめ~ん」
 そう言いながら立ち話を終えたサーシャがパタパタと駆け寄って来た。アリスはフグの様な顔のまま振り返り、少し離れた所に居た女子生徒が不自然にたっぷりと水の入った花瓶を手に不自然にサーシャに近寄って行くのに気が付いた。
「サーシャッ」
 気付いたサーシャが避けようとするが女子生徒はそのままサーシャにぶつかっていき、
 バシャッ!
「キャッ」
 花瓶の水が盛大に廊下にぶちまけられた。が、寸前にリカルドがサーシャを庇う様に女子生徒との間に入っていた。サーシャは殆ど濡れずに済んだが代わりにリカルドがびしょ濡れになっていた。周りの生徒が足を止め、注目が集まった女子生徒は一瞬怯んだがキッとリカルドを睨み付けた。
「おい」
 そこにぬっと巨体が現れた。
「女性の前を横切るなんてマナー違反だろ」
 アリスのクラスメイトのモブ熊男子生徒にリカルドは肩を竦めると、スッと実は本人もまぁまぁ濡れた花瓶女子生徒に向き直り恭しく頭を下げた。
「大変失礼致しました。お召し物が濡れてしまいたしたね」
 が、口調とは裏腹の鋭い視線のノッポと熊二人に挟まれた女子生徒は、
「こっこれからはお気を付け遊ばせっ」
 ヒステリックに叫んだ女子生徒は空の花瓶を抱えて逃げるように走り去っていった。
ふうと溜め息をつくリカルドを頬を染めたサーシャが見上げた。
「ありがとう、リカルド。私のせいで濡れてしまって大丈夫?」
「平気だよ。制服を着替えてくるから皆と先に教室に言ってこの事を先生に伝えておいてくれるか?」
「ええ、伝えておくわ。濡れた体はしっかり拭いてね。風邪を引いたら大変だもの」
「分かってるよ。後は床を」
「それは俺が清掃係の人に伝えておくからお前は着替えに行けよ」
「ああ、頼む」
「二人共、ありがとう」
 リカルドと熊は急ぎ足で廊下を戻って行く。その二人の背中にサーシャは手を振り、ユリアンヌとノーラもありがとうと小さく手を合わせている。それに合わせて手を振りながらアリスはアレ?と心の中で首を傾げていた。
 これっていじめイベントだったりしないかなぁ?ゲームのいじめイベントに花瓶の水掛けがあったか判らないけど、これって私が受ける筈のいじめイベントだったりしたのかな?
 しかし今意地悪をされたのは学園生活に恋にリア充モブ令嬢のサーシャ。そのいじめイベント?の中、背景モブ令嬢と化していたヒロインアリス。
「……」
「お待たせー」
 そこにパタパタとサーシャが駆け寄って来て、反射的にアリスはサーシャに頭を下げていた。
「ごめんっ」
 いきなりアリスに謝罪されたサーシャは目を丸くする。
「いきなり、何?」
「さっきのアレ、本来なら私がこなす筈だったのに私が喪女ったゲホゲホもももじゃったから~」
「もじゃった?」
 前世ワードを出し掛けて口ごもるアリスにサーシャは首を傾げ、そこをアリスの肩をポンポンとノーラが慰める様に叩いた。
「しょうがない事よ、アリス。羨んだり妬んだりする方がいらっしゃるのは。私は羨ましいとは思えないけど」
「そそそうなのかな?」
 アリスは首を傾げユリアンヌとサーシャも頷いた。
「そうよ、寮長様方とのお茶会は名誉な事だもの。気は重いけど、私も嫌味を言われたりするわ」
「ええ、しかも一番乗り。妬まれるのも仕方のない事よ」
「あ、そうなんだ~」
 そういう事か。兎に角、誤魔化せた!
 ホッとしてアリスは頷き、そしてアリス達は再び次の授業の教室へ向かって歩き出した。
 アリス的には気が乗らないイベント?で攻撃されるのは納得いかないがしょうがない、だ。
 クラリア様もお茶会に行けって言うし~、リアル乙女ゲーム、ガチでムズいわ~。
 そこに数歩先に居たノーラがヒョイとアリスの顔を覗き込んだ。
「ていうか、アリスが嫌がらせの被害に一番あっているわよ」
「へっ?!」
 ノーラの言葉にアリスは驚いて目を丸くした。
 いじめイベントがまさかの降臨済み?!いつ?何処で?まさかのイベントスルー?またやっちまったなぁ、か私?!
 しかし幾ら考えても思い当たるフシが無いアリスにユリアンヌとサーシャにノーラは顔を見合わせてハアッと深い溜め息をついた。
「そんな事だろうと思っていたわ」
「これでは数々のご令嬢方も浮かばれなくてよ」
「アリス、最近やたらと人の足を踏む事が多くなくて?」
 ノーラの指摘でアリスはようやく思い当たるフシを見つけた。
「踏んでる。廊下とか教室とか食堂とか校庭とか庭園とか」
 そう、最近アリスは色々な所で他生徒の足を踏みつけまくっていた。
 だ、だって歩く先に足が何故かあるんだもん。そりゃ踏むでしょ。
 そこでようやく気付いたアリスは呆れ顔のノーラを見た。
「アレ、ワザと?」
「葦を出す方が愚かという事ね」
 ……、アレ転ばなきゃいけなかったんだ。シクシクと悔し涙を浮かべなきゃいけなかったんだ。いや、喪女ルートだから攻略対象に目を付けられない様にするから、アレ?踏んだ生徒を片っ端から保健室に(熊が)運び込んだのは有り?無し?
 クラリアに怒られるのかセーフなのかパニクるアリスにユリアンヌとサーシャが追い打ちを掛ける。
「この前のランチの時に某先輩令嬢グループの方々がアリスのランチプレートにコーンスープをぶちまけて台無しにした方がいらっしゃったでしょう」
「ランチをパーにされて怒り狂うかと思いきやパンをスープにつけて食べると美味しいからってアリス、貴方コーンスープまみれのサンドイッチをそのまま食べたわね」
「先輩方、ドン引いてらしたわ。見かねて手を拭く様にハンカチを貸して下さったわね」
「でも美味しかったし…」
 アリスはガクッと肩を落とした。
 うう、乙女ゲーム必須のいじめイベントのこの選択肢?は正解不正解が解らない~。クラリア様に聞きたいけど怒られたらどうしよう…。
 大鎌を手にするクラリアの幻影にアリスは恐怖に震えながらギュッと抱えていた教科書をまとめているバンドに付けていた星柄の巾着チャームを握った。
 熊が妹が作ったけど俺は要らないからってくれた天然封じのお守り、全然効果がないじゃんっ。
 巾着チャームとはマジカル学園伝統の、小さな巾着袋に学園内で拾った小石を入れて持ち歩くと願いが叶うと云うお守りグッズである。入れる石の色や形や柄によって叶う願いが変わり、成績アップは白、痩せますようには平べったい形、友達と仲直りは縞模様等など無限にある。好きな人が振り向いてくれますようにはピンク色の小石が入ったチャームを意中の相手にプレゼントするだ。
 チャームを握るアリスをノーラがニマニマと笑って眺めていた。
「まあ、アリスにはでっかい防護壁がついているからね~」
「私のは縦は負けていないけど横が」
「贅沢者めが。私は自助で問題なくてよ」
 口調の割には満更でもないサーシャと一人胸を張るユリアンヌ。きゃいきゃい賑やかないつものモブ令嬢方だがアリスにはその後ろに大鎌を振り上げるクラリアの幻影がチラつき穏やかではない。
 切れ味抜群な刃のキラメキにアリスは、
 このキラキラも怖い、あ。
 刃の輝きの向こうの窓の外にアランの姿を見つけたアリスは次の瞬間ビタッと窓に貼り付いていた。校舎の二階の窓から見えたのは一階の渡り廊下を側近候補の男子生徒達と歩くアランだった。
『アラン様?!』
 アリスの姿を追ってアランに気付いたユリアンヌ達の黄色い声に周りの背景モブ令嬢方も一斉に窓に飛び付いた。
「今日もアラン様は知性溢れるお美しさね~」
「静かな佇まいが神々しいわ~」
「尊い御姿は午後の授業へ向けての清涼剤ですわ~」
 ウットリとアラン王子に見惚れる背景モブ令嬢方に混じってアリスはじーっとアランを見つめ目を凝らした。
 遠い……。
 長いプラチナブロンドの髪が風になびく度に白い薔薇の花びらが舞い散る白薔薇の君、アラン王子。クリラブ1攻略対象の中では一番難易度が低い筈なのに。
 遠い……。
 グレース様に素敵なスチルをお届けする為にも近づいて、間近で親しい方々と笑い合う自然体なアラン様とかうたた寝して無防備な横顔のアラン様とかグレース様にデレるアラン様とかとか、推しカプがイチャつく喪女ルート特典御褒美スチルがもっと見たーい!
 最後は自分の欲望をつい剥き出しにしたアリスは窓ガラスをカリカリと爪で引っ掻きながらつい呟いていた。それをユリアンヌやサーシャ達は不思議そうな顔で見ていた。
「アリスはいつの間にアラン様推しになったのかしら」
「お茶会以来、グレース様ラブですって叫んでいたけど」
「オシカプって何?」
「さあ?」 

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