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悪役令嬢の策略
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「わあ♪」
メイド達が目の前に運んで来た物を見た瞬間、アリスはグレースに負けない位に瞳を輝かせた。グレースとコーネリアも感嘆の声を上げ、アナベル&セシルはドヤ顔になっている。
アリスの目の前には野菜たっぷり海鮮塩ラーメンがチャルメラの音色と共に魅惑的な香りを漂わせながら湯気を上げて堂々と鎮座していた。
ラーメンだ。ラーメンだ。ラーメンだ。クラリア様のご褒美ラーメンだっ!ラーメンだあっ♪
白く澄んだスープに漂うちぢれた中華麺。その上にサッと炒められたイカやホタテ等の海鮮とザク切り野菜が惜しげもなく盛られていた。その眩い輝きに、
食べたい、食べたい、食べたいっ。
待てのアリスはラーメン越しに一番ドヤ顔のクラリアを見つめる。クラリアは満足そうに頷くと、
「まずは召し上がれ。これは…」
クラリアのよしっの合図に、
「いっただっきま~す♪」
クラリアの言葉を終わりまで待たずにアリスは箸を取ると麺を一口一気にずるずるずる~と啜った。その瞬間、アリスの脳内を16年振りのラーメンが駆け巡る。
は~~、幸せ♪
ラーメンの旨さを噛み締めたアリスは次の瞬間、我に返った。西洋式テーブルマナーでは食事中にズルズルと音を立てるのは厳禁となっている。恐る恐るアリスは顔を上げて、案の定クラリアを除く全員が凍りついていた。控えのメイドも頬を引き攣らせている。
た、助けて、クラリア様。
アリスは縋る気持ちでクラリアに救いを求め、クラリアは何故かしめしめという顔をしていた。
「驚いた事でしょう。ですがこの食べ方が東国での麺類を食べる時のマナーですのよ。空気と一緒に麺を啜り上げる事で熱々の麺とスープをより一層美味しく食べれますの」
「そ、そうなんですの?」
眉を潜めたコーネリアが怪訝そうに頷き、グレースが大きな瞳を真ん丸にして、
「びっくりしたわー」
と驚き顔でいた。アナベル&セシルは耳を塞いで露骨に嫌な顔をアリスに向けている。
クラリア様…、しどい~~っ。
恨めし気にアリスはクラリアを見つめ、その時横からずるずると小さな可愛らしい麺を啜る音が聞こえてきた。グレースが慣れない箸に苦戦しながらラーメンを啜るのに挑戦していた。上手に啜れず熱さに箸を止めたグレースは恥ずかしそうにアリスに微笑み掛けた。
「難しいけど美味しいわ。こんなお行儀の悪い事、ここだけの秘密ね」
どっひゃ~っ!!
グレースのキラキラビームに撃ち抜かれたアリスは両手でハートマークを作った。
「ハイッ♪」
ああ、グレース様♪なんて可愛いの!流石乙女ゲームメインキャラクターだわ。ライバル令嬢もキラキラ破壊力がハンパなくエグい。ちょっと世界観が変わっても正統派ライバル令嬢は素敵なレディなのね。
一方の悪役令嬢クラリアは、
「さぁ、皆でお行儀の悪い事をするわよ。横にレンゲとフォークも用意してあるから冷めない内に頂きましょう」
『はーい♪』
アナベル&セシルは最初から箸は諦めているらしくレンゲとフォークを手に取った。コーネリアは箸を試してみるつもりらしい。アリスも気を取り直して箸を握り直した。
今はラーメンを食べるのに全集中だ。ラーメン、食ったるで~っ。
「は~、旨かったぁ♪」
満腹になりクラリアの仕打ちをすっかり忘れたアリスはポンポンと自分のポンポコリンお腹を叩いた。結局アナベル&セシルもラーメンを啜る事に挑戦し、御令嬢達は悪い事を共有して妙な連帯感が生まれていた。
いや、ラーメンを啜っただけなんだけど。
高揚しているクラリア以外のお嬢様方をアリスはほのぼのとした気持ちで眺め、その時コーネリアに肩を叩かれたグレースが意を決したように話し掛けてきた。
「あの、アリス。貴女の描いた絵をクラリアに見せて頂いたの。とっても素敵だったわ」
「有難う御座います。クラリア様。えーと、あの絵?」
アリスはクラリアに絵を描きまくって渡している。一瞬ピンとこなかったがクリラブスチル等ゲームに関する絵をクラリアが人に見せる訳が無いので、
「あっ、あの絵ですか~。自分でも上手く描けたなって思いますー」
アリスは帰郷していた時にヴァニタス家滞在のお礼としてヴァニタス家の家族の肖像画を贈っていた。長椅子に座るヴァニタス公爵夫妻、その両脇にアナベル&セシル。後ろにクラリアとウェイン。そして手前端に二人の脇に立とうとしてコケるモグラアリスと巻き添えのルミア。セルフタイマーで写真を撮り損ねる定番の構図で描いたアリスの絵を夫妻はいたく気に入ってくれた。アリスはお礼のお礼として画材セットを頂いている。
屋敷に飾っていると聞いたけど何処で見たのかな?
アリスは首を傾げ、その時メイドがあるモノを部屋に運び入れてきて、それを見たアリスは椅子から転げ落ちそうになった。アリスが描いたA4サイズのささやかな水彩画が20号サイズの油彩画となって豪華な額縁に収まっていた。
「お父様が気に入って領地の屋敷の他にも飾りたいと言い出して、それでお義母様がお抱え画家に複製画を描かせたの」
「そっ、そうなんすか~」
クラリアの言葉にそう返すのが精一杯だった。
ヴァニタス家お抱え画家の方、本当に申し訳ない。ド素人のイタズラ描きを模写しろって言われてどんな気持ちだったのかな~。にしても、メッチャ上手いな、この画家の人。
アリスはまじまじと自分の複製画を眺め、それをグレースはもじもじしながら何か言いたそうに見つめていた。
「?」
気付いたアリスが振り返り、グレースはアリスと目が合った途端に頬を薔薇色に染めて俯いてしまった。
「?」
グレースの隣でコーネリアがガンバ!とエールを送っていて、グレースは俯いたままコクコクと頷いている。
「?」
そして更に横のアナベル&セシルが察しなさいよっ、と凄い形相でアリスを睨んでいた。
「?!」
その真ん中でクラリアは、いや、無理でしょという顔をしている。その通り、全くピンときていないアリスにクラリアは、
「アリス、貴女、クラスメイトの方々にイラスト等々、色々と描いているそうね。色々と」
クラリアの唐突な話題にアリスは二度瞬きをして、ビクッとなった。
アリスはユリアンヌやサーシャを喜ばせようとクリラブ1攻略対象キャラクターのちびキャラだけでなくスチルのイラストにセリフを書き加えたショートストーリー仕立ての、マンガの1ページの様なイラストも描いていた。そしてそれはアリスの知らぬ間にじわじわと学園内オタク女子に広がっていた。
イラストを見た生徒の中で絵の上手な子がアシスタント化していたり器用な子がグッズ制作を始めたりと、あくまでアリスは目立たない様に個人的趣味の範囲で活動しているつもりだが、今では非公認サークルの様になっていた。窓口はモブなりに情報通のユリアンヌと顔の広いサーシャ。アリスは色々な作品を描いては発表、配布していた。そしてファン化した生徒からお礼としてプレゼントを、菓子やら果物やら受け取っていた。
ま、不味かったのかな?お金じゃなくても駄目?てゆーか、そもそも描くのが駄目?不敬罪適用?肖像権侵害?
心当たりが頭の中をグルグルするアリスにクラリアは一言。
「違う」
「実は糾弾イベントでお茶会に呼んだのでは」
「ありません。王族の肖像画は無許可な物も出回っているけど侮蔑的でなければ大目に見られているわ。人気騎士や魔法使いのブロマイド的な物もありますから問題は無い筈です。ストーリー仕立てのイラストも問題視はされていないようです。今はね」
クラリアの言葉にアリスはホッと胸を撫で下ろす。
「良かった~描きまくっちゃったからって、…クラリア様、見たの?」
「ええ、CクラスやAクラスにも出回っていてよ。モデル本人まで御覧になったかは分からないですけど、ね」
「うぎゃ~っっ」
アリスは悲鳴を上げながら頭を抱えて椅子の上で一人身悶えた。その背後に警護役のメイドが迫りクラリアがそれを制止する。がアリスは気付かず、
はははは、恥ずかし過ぎる~っ。
「ううっ、いい気になって描きまくってしまったぁ。カイル様とか超絶描いた。あ、ウェイン様も人気です」
「ウチの兄をついでで言うな」
「ぬぉぉ、アラン様も人気です。何故かアーサーもリクエ…」
バシ、パシッ。
次の瞬間、アリスは顔面でハンカチを2枚受け止めていた。
『ああ、あり得ない程に察しが悪いですわっ』
ハンカチを投げ付けたアナベル&セシルをグレースが慌てて制止する。
「アナベル、セシル、私が悪いの」
『いいえ、グレース様は全く悪く御座いません。全ての諸悪の根源はこのニブ子ですわっ』
ステレオで怒りをあらわにするアナベル&セシルにアリスはニブ子?と首を捻り、双子は大袈裟に盛大な溜息をついた。
『ああ、お姉様!どうしてグレース様はこんなニブ子の描くアラン様のイラストが欲しいのでしょう。私達には理解できませんわ。あ』
そこまで言ってアナベル&セシルはわざとらしく口を押さえるとそのまま椅子の上で澄まし顔になる。双子の剛速球ストレートをまともに顔面にぶつけられたアリスはようやくグレースの言いたい事と周りの察しろという意味を理解した。
嘘ぉ。こんな絵に描いた様な超絶美少女のお姫様が私のイラストを御所望?てゆーかライバル令嬢から攻略対象キャラクターのイラストを描いてって頼まれてる?乙女ゲーム的に有りな展開か??コレ。
驚くアリスにグレースは気恥かしそうに瞳を伏せてコクリと小さく頷いた。
「貴女の描いたイラストをクラスメートに見せて頂いたの。城内では見せない自然なアラン様の何気ない仕草がとても素敵だったわ。それにその…」
ここでグレースは言葉を切るとふふっと思い出したように笑った。
「チビアラン様?とっても可愛いんですもの。どうしても欲しくなってしまって。私にもアラン様のイラストを描いて頂けないかしら」
やっと言えたと安堵の表情を浮かべたグレースは紅い頬を片手で押さえてニッコリと微笑んだ。その光り輝く美しい笑顔と恥じらう可愛い仕草に、
うおっ。
恋する乙女のキラキラビームに蜂の巣になったアリスは胸を押さえて椅子の上で再び身悶えしそうになり、以前自分を制圧したメイドの目がキラリと光ったのに気付いて今回は寸止めした。アリスは心の中で吠えた。
ヤバーいっ!何て可愛いの、グレース様ったら。信じられない位に美し可愛いキラッキラスチルなんですけどーっ。ひゃ~、コレってリアル乙女ゲーム攻略特典のご褒美ムービーかな。喪女ルート特別仕様かも。もう何でもいい、この眼福スチルあざーすっ!これは描くしかないっしょ。あのキラキラ輝く天使の微笑みを歴史に刻み込む為にも!
アリスは決意した。
「描きましょう」
宣言するアリスにグレースの笑顔の輝度が更にパワーアップする。
ぐっ。
キラキラビームに再び蜂の巣になるアリス。しかし今回のアリスは撃たれてもなお仁王立ちでいた。
「リクエストは普段着のアラン様のお姿ですね。お任せ下さい。アラン様に張り付いて完璧スチルをGETだせっ。一等素敵なアラン様を描いてみせましょう」
「ありがとう、アリス。でも無理はしないでね」
「何をおっしゃいます。グレース様のリクエストの為なら無理してナンボです。萌キュンショットを激写(生)しまくりでしょ~っ」
「萌、キュン?」
ぽかんとしているグレースにエキサイトしまくりのアリス。
「……」
それをクラリアがどつき回したい衝動を堪えながら見ていた。
ヒロインがライバル令嬢に落とされてどうするの。このおバカヒロインがっ。またコース外を爆走して駄馬にも程があるっ。
が、駄馬アリスはクラリアの怒りオーラには全く気付かずハズレ馬券が舞う中を違うゴールへ向かってひた走っていた。
メイド達が目の前に運んで来た物を見た瞬間、アリスはグレースに負けない位に瞳を輝かせた。グレースとコーネリアも感嘆の声を上げ、アナベル&セシルはドヤ顔になっている。
アリスの目の前には野菜たっぷり海鮮塩ラーメンがチャルメラの音色と共に魅惑的な香りを漂わせながら湯気を上げて堂々と鎮座していた。
ラーメンだ。ラーメンだ。ラーメンだ。クラリア様のご褒美ラーメンだっ!ラーメンだあっ♪
白く澄んだスープに漂うちぢれた中華麺。その上にサッと炒められたイカやホタテ等の海鮮とザク切り野菜が惜しげもなく盛られていた。その眩い輝きに、
食べたい、食べたい、食べたいっ。
待てのアリスはラーメン越しに一番ドヤ顔のクラリアを見つめる。クラリアは満足そうに頷くと、
「まずは召し上がれ。これは…」
クラリアのよしっの合図に、
「いっただっきま~す♪」
クラリアの言葉を終わりまで待たずにアリスは箸を取ると麺を一口一気にずるずるずる~と啜った。その瞬間、アリスの脳内を16年振りのラーメンが駆け巡る。
は~~、幸せ♪
ラーメンの旨さを噛み締めたアリスは次の瞬間、我に返った。西洋式テーブルマナーでは食事中にズルズルと音を立てるのは厳禁となっている。恐る恐るアリスは顔を上げて、案の定クラリアを除く全員が凍りついていた。控えのメイドも頬を引き攣らせている。
た、助けて、クラリア様。
アリスは縋る気持ちでクラリアに救いを求め、クラリアは何故かしめしめという顔をしていた。
「驚いた事でしょう。ですがこの食べ方が東国での麺類を食べる時のマナーですのよ。空気と一緒に麺を啜り上げる事で熱々の麺とスープをより一層美味しく食べれますの」
「そ、そうなんですの?」
眉を潜めたコーネリアが怪訝そうに頷き、グレースが大きな瞳を真ん丸にして、
「びっくりしたわー」
と驚き顔でいた。アナベル&セシルは耳を塞いで露骨に嫌な顔をアリスに向けている。
クラリア様…、しどい~~っ。
恨めし気にアリスはクラリアを見つめ、その時横からずるずると小さな可愛らしい麺を啜る音が聞こえてきた。グレースが慣れない箸に苦戦しながらラーメンを啜るのに挑戦していた。上手に啜れず熱さに箸を止めたグレースは恥ずかしそうにアリスに微笑み掛けた。
「難しいけど美味しいわ。こんなお行儀の悪い事、ここだけの秘密ね」
どっひゃ~っ!!
グレースのキラキラビームに撃ち抜かれたアリスは両手でハートマークを作った。
「ハイッ♪」
ああ、グレース様♪なんて可愛いの!流石乙女ゲームメインキャラクターだわ。ライバル令嬢もキラキラ破壊力がハンパなくエグい。ちょっと世界観が変わっても正統派ライバル令嬢は素敵なレディなのね。
一方の悪役令嬢クラリアは、
「さぁ、皆でお行儀の悪い事をするわよ。横にレンゲとフォークも用意してあるから冷めない内に頂きましょう」
『はーい♪』
アナベル&セシルは最初から箸は諦めているらしくレンゲとフォークを手に取った。コーネリアは箸を試してみるつもりらしい。アリスも気を取り直して箸を握り直した。
今はラーメンを食べるのに全集中だ。ラーメン、食ったるで~っ。
「は~、旨かったぁ♪」
満腹になりクラリアの仕打ちをすっかり忘れたアリスはポンポンと自分のポンポコリンお腹を叩いた。結局アナベル&セシルもラーメンを啜る事に挑戦し、御令嬢達は悪い事を共有して妙な連帯感が生まれていた。
いや、ラーメンを啜っただけなんだけど。
高揚しているクラリア以外のお嬢様方をアリスはほのぼのとした気持ちで眺め、その時コーネリアに肩を叩かれたグレースが意を決したように話し掛けてきた。
「あの、アリス。貴女の描いた絵をクラリアに見せて頂いたの。とっても素敵だったわ」
「有難う御座います。クラリア様。えーと、あの絵?」
アリスはクラリアに絵を描きまくって渡している。一瞬ピンとこなかったがクリラブスチル等ゲームに関する絵をクラリアが人に見せる訳が無いので、
「あっ、あの絵ですか~。自分でも上手く描けたなって思いますー」
アリスは帰郷していた時にヴァニタス家滞在のお礼としてヴァニタス家の家族の肖像画を贈っていた。長椅子に座るヴァニタス公爵夫妻、その両脇にアナベル&セシル。後ろにクラリアとウェイン。そして手前端に二人の脇に立とうとしてコケるモグラアリスと巻き添えのルミア。セルフタイマーで写真を撮り損ねる定番の構図で描いたアリスの絵を夫妻はいたく気に入ってくれた。アリスはお礼のお礼として画材セットを頂いている。
屋敷に飾っていると聞いたけど何処で見たのかな?
アリスは首を傾げ、その時メイドがあるモノを部屋に運び入れてきて、それを見たアリスは椅子から転げ落ちそうになった。アリスが描いたA4サイズのささやかな水彩画が20号サイズの油彩画となって豪華な額縁に収まっていた。
「お父様が気に入って領地の屋敷の他にも飾りたいと言い出して、それでお義母様がお抱え画家に複製画を描かせたの」
「そっ、そうなんすか~」
クラリアの言葉にそう返すのが精一杯だった。
ヴァニタス家お抱え画家の方、本当に申し訳ない。ド素人のイタズラ描きを模写しろって言われてどんな気持ちだったのかな~。にしても、メッチャ上手いな、この画家の人。
アリスはまじまじと自分の複製画を眺め、それをグレースはもじもじしながら何か言いたそうに見つめていた。
「?」
気付いたアリスが振り返り、グレースはアリスと目が合った途端に頬を薔薇色に染めて俯いてしまった。
「?」
グレースの隣でコーネリアがガンバ!とエールを送っていて、グレースは俯いたままコクコクと頷いている。
「?」
そして更に横のアナベル&セシルが察しなさいよっ、と凄い形相でアリスを睨んでいた。
「?!」
その真ん中でクラリアは、いや、無理でしょという顔をしている。その通り、全くピンときていないアリスにクラリアは、
「アリス、貴女、クラスメイトの方々にイラスト等々、色々と描いているそうね。色々と」
クラリアの唐突な話題にアリスは二度瞬きをして、ビクッとなった。
アリスはユリアンヌやサーシャを喜ばせようとクリラブ1攻略対象キャラクターのちびキャラだけでなくスチルのイラストにセリフを書き加えたショートストーリー仕立ての、マンガの1ページの様なイラストも描いていた。そしてそれはアリスの知らぬ間にじわじわと学園内オタク女子に広がっていた。
イラストを見た生徒の中で絵の上手な子がアシスタント化していたり器用な子がグッズ制作を始めたりと、あくまでアリスは目立たない様に個人的趣味の範囲で活動しているつもりだが、今では非公認サークルの様になっていた。窓口はモブなりに情報通のユリアンヌと顔の広いサーシャ。アリスは色々な作品を描いては発表、配布していた。そしてファン化した生徒からお礼としてプレゼントを、菓子やら果物やら受け取っていた。
ま、不味かったのかな?お金じゃなくても駄目?てゆーか、そもそも描くのが駄目?不敬罪適用?肖像権侵害?
心当たりが頭の中をグルグルするアリスにクラリアは一言。
「違う」
「実は糾弾イベントでお茶会に呼んだのでは」
「ありません。王族の肖像画は無許可な物も出回っているけど侮蔑的でなければ大目に見られているわ。人気騎士や魔法使いのブロマイド的な物もありますから問題は無い筈です。ストーリー仕立てのイラストも問題視はされていないようです。今はね」
クラリアの言葉にアリスはホッと胸を撫で下ろす。
「良かった~描きまくっちゃったからって、…クラリア様、見たの?」
「ええ、CクラスやAクラスにも出回っていてよ。モデル本人まで御覧になったかは分からないですけど、ね」
「うぎゃ~っっ」
アリスは悲鳴を上げながら頭を抱えて椅子の上で一人身悶えた。その背後に警護役のメイドが迫りクラリアがそれを制止する。がアリスは気付かず、
はははは、恥ずかし過ぎる~っ。
「ううっ、いい気になって描きまくってしまったぁ。カイル様とか超絶描いた。あ、ウェイン様も人気です」
「ウチの兄をついでで言うな」
「ぬぉぉ、アラン様も人気です。何故かアーサーもリクエ…」
バシ、パシッ。
次の瞬間、アリスは顔面でハンカチを2枚受け止めていた。
『ああ、あり得ない程に察しが悪いですわっ』
ハンカチを投げ付けたアナベル&セシルをグレースが慌てて制止する。
「アナベル、セシル、私が悪いの」
『いいえ、グレース様は全く悪く御座いません。全ての諸悪の根源はこのニブ子ですわっ』
ステレオで怒りをあらわにするアナベル&セシルにアリスはニブ子?と首を捻り、双子は大袈裟に盛大な溜息をついた。
『ああ、お姉様!どうしてグレース様はこんなニブ子の描くアラン様のイラストが欲しいのでしょう。私達には理解できませんわ。あ』
そこまで言ってアナベル&セシルはわざとらしく口を押さえるとそのまま椅子の上で澄まし顔になる。双子の剛速球ストレートをまともに顔面にぶつけられたアリスはようやくグレースの言いたい事と周りの察しろという意味を理解した。
嘘ぉ。こんな絵に描いた様な超絶美少女のお姫様が私のイラストを御所望?てゆーかライバル令嬢から攻略対象キャラクターのイラストを描いてって頼まれてる?乙女ゲーム的に有りな展開か??コレ。
驚くアリスにグレースは気恥かしそうに瞳を伏せてコクリと小さく頷いた。
「貴女の描いたイラストをクラスメートに見せて頂いたの。城内では見せない自然なアラン様の何気ない仕草がとても素敵だったわ。それにその…」
ここでグレースは言葉を切るとふふっと思い出したように笑った。
「チビアラン様?とっても可愛いんですもの。どうしても欲しくなってしまって。私にもアラン様のイラストを描いて頂けないかしら」
やっと言えたと安堵の表情を浮かべたグレースは紅い頬を片手で押さえてニッコリと微笑んだ。その光り輝く美しい笑顔と恥じらう可愛い仕草に、
うおっ。
恋する乙女のキラキラビームに蜂の巣になったアリスは胸を押さえて椅子の上で再び身悶えしそうになり、以前自分を制圧したメイドの目がキラリと光ったのに気付いて今回は寸止めした。アリスは心の中で吠えた。
ヤバーいっ!何て可愛いの、グレース様ったら。信じられない位に美し可愛いキラッキラスチルなんですけどーっ。ひゃ~、コレってリアル乙女ゲーム攻略特典のご褒美ムービーかな。喪女ルート特別仕様かも。もう何でもいい、この眼福スチルあざーすっ!これは描くしかないっしょ。あのキラキラ輝く天使の微笑みを歴史に刻み込む為にも!
アリスは決意した。
「描きましょう」
宣言するアリスにグレースの笑顔の輝度が更にパワーアップする。
ぐっ。
キラキラビームに再び蜂の巣になるアリス。しかし今回のアリスは撃たれてもなお仁王立ちでいた。
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「ありがとう、アリス。でも無理はしないでね」
「何をおっしゃいます。グレース様のリクエストの為なら無理してナンボです。萌キュンショットを激写(生)しまくりでしょ~っ」
「萌、キュン?」
ぽかんとしているグレースにエキサイトしまくりのアリス。
「……」
それをクラリアがどつき回したい衝動を堪えながら見ていた。
ヒロインがライバル令嬢に落とされてどうするの。このおバカヒロインがっ。またコース外を爆走して駄馬にも程があるっ。
が、駄馬アリスはクラリアの怒りオーラには全く気付かずハズレ馬券が舞う中を違うゴールへ向かってひた走っていた。
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【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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