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イベント発生!なのか?

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「……」
 アリスはベタっとドアに張り付いていた。
 何がどうなっているのか、私がジロジロ見たのはグレース嬢なのにどうしてクラリア嬢に呼び出し食らっているの?ゲーム上で考えればクラリア嬢が絡んできたということは王太子のカイルルートに入った事になるのかもしれないけど、でもカイル様と出会う所か遠巻きに見ることすら出来なかったんだけど。アラン様も右に同じだし。
 クラリアは椅子に腰掛けて自分の向い側の椅子をアリスに勧める。
「どうぞお掛けになって」
 部屋の調度品は全て品の良い高級家具、椅子のクッションだってふかふか。しかしアリスにはスチール机にパイプ椅子の置かれた殺風景な取調室がオーバーラップして見えていた。
「どうぞ、遠慮なさらず」
 …これ以上無視したら公務執行妨害罪でパクられる。
 スチール机の上にはデスクライトが追加されていた。アリスはへっぴり腰でクラリアの向いの椅子に座る。クラリアはアリスにニコッと笑い掛けた。慄くアリス。
 ゲームクラリアと違う。1とも2とも違う。だから余計に怖いっ。
 ゲームクラリアは早くに母を亡くし父に甘やかされた高慢ちきな公爵令嬢だった。成績も悪い、兄とは仲が悪く父の再婚相手の連れ子の双子姉妹を使用人の様に扱う絵に描いた様な悪役令嬢。2でのゲーム攻略時に何回チャチなイジワルをされた事か。しかし目の前のクラリアは気品のある沈着冷静な麗しの公爵令嬢。アリスより成績も良い。
 ゲームクラリアはペラッペラ残念キャラだが、目の前のクラリアは超出来る女性管理職みたいな中ボス並みのオーラながあった。もうキャラデザイン担当が変更になったとかいうレベルではない。違う。
 ゲームクラリアはコップの水を掛けるレベルの魔法しか使えない設定なのに取調室の幻影が出せるクラリア。…まあ最悪ボコられても私は光魔法が使える筈だからいざとなれば何とかなる筈。
 引き攣った笑みを浮かべるアリス。その手は何故か揉み手をしていた。
「あの~、どんなご用件で~」
「どうしても至急確認したい事があったの。入寮の時にカイル様の馬車と遭遇するイベ…したでしょう。どうだったの?」
「はぁ」
 アリスは何故クラリアがそんな事を聞くのか全く分からなかったが正直に平伏エピソードを話した。
「…という訳なんです~」
 テヘッとデコを叩くアリスにクラリアはため息と共に眉間を押さえた。
「トランクはどうしたの?母のお下がりのトランクは」
「お下がり?トランクは父が可愛いのを買ってくれました!実は私ったらキチンと金具を留めてなくって門衛さんが留め直してくれたんです。マナーも教えてくれてたのに平伏しちゃって」
 肩を落とすアリスにクラリアの眉間のシワが深くなる。
「そうなの。で、アラン様は?入学式の日に講堂に遅刻しかけてアラン様に助けて頂くイベントは?」
「えー、私はBクラスですもん。入場が早いし、あ、でも遅刻しかけたんですよ~。バカ父が持たせた鎌が原因で怒られて間は省略して庭師さんからお礼の差し入れを受け取ってたら遅れちゃって、あー、ポテチ~。いえでもユリアンヌ達が助けてくれて。でなきゃ庭園に迷い込んでました~」
 えへへ~と笑うアリス。しかし向かい合うクラリアの拳は震えていた。
「……、あのー、…私、揚げたてポテチが待っているのでそろそろ~」
 アリスは腰を浮かしかけ、
 バン!
 その時クラリアはテーブルを叩いた。
 うっっ。
 空気椅子状態で固まるアリス。そのアリスをクラリアはキッと見据えた。
「あなたも解っているんでしょう?ここが乙女ゲームマジカル学園クリスタルラブストーリーの世界だという事を。ゲームの主人公はアリス・ブラウン。そう、あなたよ。私は悪役令嬢クラリアとしてこの世界に転生していた。そしてアリス、あなたも転生者ね」
「え、えー!!」
 クラリアの言葉にアリスは思わずシェーッ!そのアリスを見てクラリアは小さく頷いた。
「そのポーズ、間違いないわね」
「あ」
 アリスは今度はシェーッのポーズのまま固まる。
 クラリアは真正面からアリスを見つめるとスッと両手を揃えて深々と頭を下げた。
「え?」
「クリラブでのクラリアエンドがどういう物かあなたも知っているでしょう?バッドエンド回避に協力して欲しいの。お願い!」
「えー!!」

「そう、クリラブ2が出ているの」
「はい、私はクリラブ1はプレイしていないんです」
 二人は揃って深いため息をついていた。頬杖突いて天井を見上げているクラリアをチラッと見てアリスはう~んと唸った。
 前に自分の他にも転生者がいるのではと考えた事があったけど本当にいたとは、しかも想定外のタイプだった。
 クラリアは自分のこれまでの出来事をざっとアリスに説明してくれた。
 彼女が前世の記憶を思い出したのは3才の時、階段から転がり落ちたのが原因だった。クリラブ1の悪役令嬢でしかもどのルートでも待っているのは断罪エンド、ロクでもない末路が用意されているのを思い出したクラリアはそれを回避すべく行動を起こす。
 ゲームでは出てこない前王の悪政が元となりゲーム内のトラブルが始まっていると考えたクラリアは、父に夢のお告げと称してアリスの父が亡くなる原因となった大飢饉の減災を訴えた。ゲームストーリーから火山噴火による冷害と推測したクラリアは3歳児とは思えぬ的確なアドバイスを次々と繰り出し見事に減災を成功させた。
 前王を権力の座から引きずり下ろすのを勧めたのは5歳の頃。そこからも前世の知識と貴族の特権をフル活用し麹菌を発見させて栄養価の高い味噌を作らせて多方面に活用。上総掘りの仕組みを伝えて井戸を掘らせまくったりと国を豊かにするべく努めた。(人間お腹が空くとイライラするからね。クラリア談)自分自身も品格ある行動を心掛けるハイスペックなクラリア。あたちJKよアリスとは大分違う。
 それもその筈、クラリアの前世は日本で女性管理職としてバリバリ働いていたいわゆる独身キャリアウーマン。激務な仕事と親の介護を兄弟に一人押し付けられ過労死していた。享年49才。人生の経験が段違いだった。
 そりゃ世界も変わる。
 アリスは尊敬の念でクラリアを見つめた。当のクラリアは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「確かに世界は変わった。国が乱れた影響が残っていたゲーム世界に比べて今は治安も良く豊かな国になっている。ゲームクラリアが何故あんなに反抗していたのか理解に苦しむ程義理のお母様は立派な方だし双子ちゃんは可愛くて苛めるなんて有り得ない良い子達。お父様は有能な人格者で兄は自慢のパーフェクトガイ、関係も良好。ゲームとは真逆の幸せ家族も手に入れたわ。王太子の婚約者内定という設定も候補に置き換えた。でも肝心のバッドエンドは回避出来ているのかしら?絶対に起きる主人公と攻略対象との初遭遇イベントが発生しないというのはどう解釈すればいいの?」
「何かすみません」
「別にあなただけが悪い訳じゃ無いから。でもゲーム補正はあるようね。あなたがキャラでへし折ったけど」
 クラリアのため息混じりの言葉にアリスは頭を下げる事しか出来なかった。
「本当にすみません。でもお陰様で父は元気、弟もいます。感謝しかないです。私クラリア様の破滅エンド回避の為なら何でもやります!」
「ありがとう。でも私最初はあなたのお父様が転生者だと思っていたのよ。まさかあなたの漏らした前世の知識を活用していたとは」
「すみません、ウチの父が」
「良かったのよ。餓死予定者が生きているという事は食料がより必要という事。画期的な農機具は食料増産に繋がったわ」
「…な…成程?」
 口ではそう言ってもイマイチ分かっていないアリスにクラリアはクスッと笑うとポンポンとアリスの頭を軽く叩いた。
「でもゲームの続編が出ている事が判って良かったわ。悪役令嬢クラリアは誰のルートでもエンドでも僻地の修道院送りとか幽閉とか国外追放に行方不明等ロクな結末を迎えない断罪エンドなの。取り敢えず4年間は死なないっていうのは朗報だわ。ただクリラブ2でもロクなエンドを迎えないのね、悪役令嬢クラリアは。死亡フラグで花束が作れるじゃないのよ。最悪だわ。でも私もクリラブ2の主人公の同僚として魔法省捜査部で働くのね。凄いわ、超エリートじゃん。あの設定で何故入省出来たのか謎だけど。アリス、あなたも頑張って勉強して魔法も磨くのよ」
「はあ、でも私の今の成績じゃあ」
「大丈夫でしょう、あなたの話だと光と闇の魔法は精神干渉系の魔法だから保持者は魔法省の管轄下に置かれるんでしょう。クリラブ2の主人公カレンはそれで入省するのだから光の魔力保持者のあなたの扱いも同じ筈。だから入省は出来るんじゃないかな」
「そっかー、入省出来るのか~」
 推しのアレク様を思い浮かべ、ぱあっと明るい表情になるアリス。クラリアはそれを見逃さずしっかりと釘を刺した。
「入省はって言ったよね。成績次第では何処に配属されるか判らないわよ。捜査部はおろか閑職の文書管理課どころか清掃係で一日炎天下で草むしりとか陽の差さない地下室で魔具磨きとか」
「勉強頑張ります」
「ゲーム展開がどう進むのか読めない以上努力で補える所は努力して下さい。私もクリラブ1をプレイしたとはいえ、友達に薦められたけどイマイチハマらなくて全ルートクリアはしていないのよ。抜けている所も多いわ」
「はい、私もクリラブ2のシークレットと逆ハーレムルートはクリアしていないんです。文書管理課長って事は知っているんですけど」
「そう、クリラブ1のシークレットは理事長よ。お互いに気を付けましょう」
「はい、気を付けます」
「それにしても」
 クラリアははーっと深いため息をついた。
「前世であれだけ頑張ったんだから転生先はもうちょっと良い席を当ててくれてもって思う。姫とはいえ楽勝人生どころかイバラの道じゃない。子供じみた嫌がらせで国外追放なんて罪と罰のバランス悪過ぎだし、2ではラスボスにプチっとされまくりって何?」
「私もクリラブ1じゃなくて2が良かったです~」
 アリス、心の叫びにクラリアも大きく頷く。
『神様、こっちは天寿全うしてないんだからさー、気ぃ使えよー!』
 ぐうううう~っ。
 二人の思いが揃った所でアリスの腹の虫が叫んだ。プッとクラリアが吹き出して時計を見る。
「す、すみません」
「いいのよ、ランチ前に長話になって悪かったわね。揚げたてポテチとか言ってたっけ、冷めちゃったわね」
「大丈夫です。また揚げて貰います」
「そう、良かったわ。ああ、そうだ。後でゲームのノートを貸してくれる?写して対策を練り直すから。クリラブ2の冒険パート対策は急務ね。早速調査しないと。私のクリラブ1の攻略ノートは複写して渡すわね」
「はい、ありがとうございます」
 二人は立ち上がった。クラリアの差し出した手をアリスはしっかりと握り、二人は固い握手を交わした。
「お互いのベストルートを目指して頑張りましょう」
「はい、頑張ります!」
 目指せ、魔法省窓際部署文書管理課!アレク様、待っててねっ。アリスは必ずお側に参ります。勿論転生パイセンのクラリア様もお助けするぞ!
 エイエイオーのアリス。
「アリス、誰でも良いからルートには入った方が良いわ。ノールートは予測不可能よ。でも幼馴染みルートは潰れてるのよね。誰を選ぶか好みもあるから任せるけどアーサールートは止めて欲しいな。私斬られるから」
「はい、全力でスルーします!」
「まずは魔法学の授業ね。とにかく頑張って光魔法を発動させるのよ」
「う~、頑張ります」
「最初から諦めてどうするの。一度は出来たのよ、その時を思い出して」
「はい」
 ちなみにポテトチップス&フライドポテトはその後食堂のメニューに採用され大好評メニューとなった。
 明日は魔法学の授業。



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