電人ジャンク

回転饅頭。

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第三章 奔流

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――拙い、ジャンクが負けてしまう。

 ツヴァイの毒はゆっくりとだが、確実に大輝の体力を削っている。虎之介はパワードスーツのメットを被ると、モニターごしのマリに告げる。

「行くよ、頼む」
【アンタ、分かってるの?】
「え?」
【あのペンダントには、妨害電波を放つ機能がある。今でこそ遮断ケースに入ってるけど、あれを取り出されたらナビもできなきゃ、パワードスーツも機能を失う】
「じゃあ、どうするんだよ?」
【…アンタ、いけるの?ジャンクみたく】
「…分からない。でも、僕がやらなきゃ」
【ヘタな正義感のせいで、死んだりしたら下らないわよ】
「もういい、マリには頼まないよ!」

 モニターごしに何かを言うマリとの通話を遮断すると、虎之介は跳躍し着地した。

「おや?」
「く、来るな虎之介!」

 虎之介は義手の機能を起こした。スパークする左手の感触を確かめ、ツヴァイを睨み付ける。

「勝負だ」
「あははっ!お前ごときに何ができるんだ?所詮は生身の人間。改造すら施されてないお坊ちゃんが…」
「黙れ。気障野郎」
「へっ、面白い」

 ツヴァイは右手から毒針を伸ばす。

「泣くなよ」

 虎之介は義手の拳をツヴァイに向けて伸ばした。ツヴァイは針で跳ね除けるようにして躱す。通電したままツヴァイの後頭部に拳を叩き込むと、振り払うようにツヴァイに蹴りを入れた。

「容赦ねぇなぁお坊ちゃん、これとこれが壊れたらどうするつもりだ?」

 血清のアンプルと、赤い箱をひらひらと振るツヴァイ。

「これが開けば、お前はただのデクになる。そしてこれが割れたら、電人ジャンクこと三条大輝は、死ぬ」

仁王立ちのまま、虎之介は義手のスパークを収めた。

「卑怯な…」
「卑怯なのってさ、悪役の美学だと思わない?」

 ツヴァイは虎之介の鳩尾に蹴りを入れた。

「正々堂々なんて、時代遅れのラスボスだよな。そんなのは、ちっともクールじゃない」
「!」
「悪い奴は、とことん悪い奴じゃなきゃね」

 虎之介は顎に蹴りを喰らい、仰向けに倒れた。メットのモニターにノイズがはしる。

「それじゃ、デクになってもらうよ」

 大輝がふらふらと立ち上がり、ツヴァイに向かっていった。ツヴァイは再び立ち上がった大輝を右手で払いのけた。

「あんま動くと、早く毒がまわっちまうぜ?」

 大輝の視界はぼぉっと霞んできた。意識を失う刹那、マリのドローンが大輝を回収した。

「や、やめろ…俺はまだ…」
【アンタ、自分の血液が特殊金属だって忘れてるでしょ?】
「……!」
【あのアンプルはフェイク。急いでラボにアンタを戻して血液を入れ替える。それまで、虎之介には時間を稼いでもらうわ】
「そ、そんな…」
【今のアンタじゃ、アレには勝てない。それよりかは、虎之介のほうがマシ】
「なら、早く…」
【言われなくてたってそうするわ】



「電人ジャンク、敗走。残ったのはお坊ちゃん、さぁて、これはピンチってやつだよね?」
「…!」
「ほら、このケースを開けばたちまち…」

 ツヴァイはペンダントのケースを開く。中のペンダントを取り出すと高笑いをはじめた。

「……!」
「…貴様、どうして動ける?」

 ツヴァイは訊いた。義手からスパークを放つと、虎之介は渾身のパンチをツヴァイに叩き込んだ。

「がふっ!」
「……残念だったようだな」

 ペンダントを憎々しげに睨み付けるツヴァイ。

「…あの、アマがぁ…」
「?」
「人間の頃の良心なんざ残してやがったんだな…!」
「…何だか知らないが、助かったよ」

 ツヴァイは再び虎之介を睨む。

「まぁいい、お前はデクにしなくたって、殺せる」
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