電人ジャンク

回転饅頭。

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第三章 奔流

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「お、どうしたんだ大輝」

 大輝は健斗を河川敷に呼び出した。夕方の河川敷に大輝は座り込み、落ちている小石を川に投げ込む。

「悪いな、健斗」
「?」
「香澄のことだよ」
「あぁ、なんだ。そりゃだって、僕は医者の端くれだから…」
「…なぁ、覚えてるか?」
「?」
「中学2年の頃だよ」

 校舎の片隅で、靴を履いていない状態で膝を抱えていた健斗を見かけた。大輝は健斗に声をかけた。

「どうした?」
「…なんでもない」
「嘘つくなよ。靴履いてないじゃん」

 健斗の靴下は真っ黒になっていた。ちらりと見ると、銀杏の木の枝に靴が引っかかっている。

「あれか?」
「…」
「なんだよ健斗、またかぁ…」

 少し粗雑な感じで声をかけてきたのは香澄だ。やや身体が大きめでがっしりしていた当時の香澄は、男勝りで腕っ節も強かった。

「誰にやられたんだって」
「…」
「オトコのくせに…まぁいいや。大輝、木登りは得意?」
「お、俺は大丈夫」
「頼む」

 香澄は大股で校舎に入っていった。大輝は銀杏の木に登る。偶然引っかかったのだろう。大輝は健斗の靴が引っかかっている枝を揺すって落とす。

「あ、ありがとう…」
「誰にやられたんだよ…」

 その時、廊下からどかどかと音がした。窓がガラッと開くと、一人の男子生徒が窓から逆さ吊りにされているのが見えた。

「はっ、離せよオトコ女っ!」
「うるさい!あんたなんだろ!?」
「なんのハナシだよ!」
「わかってんだよ!健斗のことイジメてんだろ!?」

 健斗はあんぐりとしてそれを見ている。

「やめろ!やめろっ!」
「どうなんだよっ!」
「ひぃっ!そうだそうだっ!おれだよ!」
「あやまんなさいよ!じゃなきゃ落とすよ!」

 泣きべそをかいている男子生徒は健斗を見ると

「わっ、悪かったっ!」
「もっとちゃんと!」
「悪かったよぉ!!!」



「あん時の香澄、怖かったよな」
「あはは、ホント」

 健斗は隣に座って石を投げ込んでいる。

「情けないなって、しょっちゅう言われてたよ」
「そんな香澄が、あんな…」
 
 当時は大柄で男勝りなオトコ女という渾名をつけられていたが、今は可愛らしく、勝気なところを残した女性になっている。

「あの時の、恩返しみたいなもんかな」
「長かったなぁ、にしちゃ」
「うるさいよ、よく言う」

 健斗はくすっと笑った。

「大輝、何か考えてんだろ?」
「…」
「まぁ、訊かないよ。でも、無理はするなよ」
「…」
「たまには、頼ってくれていいんだからな」

 健斗は笑って、大輝に言った。



一方
地下のラボの中でマリは眉間に皺を寄せたまま難しい顔をしている。

「どうした?姉さん」
「…虎之介、言ったわよね。ツヴァイは多分、椎葉リョウだって」
「多分な」
「だとしたら、収穫かもしれないわね」
「え?」
「椎葉リョウは、芸能人よね」
「だな」
「だとしたら出身地が…」
「ウィキには載ってなくてさ…」
「そっちにはそうでしょうけど、タレント名鑑にはあるんじゃない?」

 マリは、タレント名鑑を開いた。

「椎葉リョウの出身地が分かれば、何かしらが掴めるかもしれないわね」
「何で、そう思うんだい?」
「…あたしのカン」
「へぇ、理詰めで話をする姉さんにしちゃ、珍しいね。それとも…」

 虎之介は手術台に腰を下ろして言った。

「何か知ってたりして」
「何が言いたいの?」
「いんや」
「だったら黙んなさい」

 マリは吐き捨てるように言うと、椅子から立ち上がり、ラボのドアを乱暴に開いた。
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