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第二章 開戦
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「仕留めたみたいね」
マリは大輝に言った。ラボの片隅で酸素ボンベを口に当てながら気分を落ち着けている大輝は頷く。
「なぁ、マリさん」
「さん付けなんて気色悪い。マリでいい」
「あ、あぁ、でも歳上に呼び捨てはちょっと…」
「…そんな細かい事、気にするなんてね」
虎之介は大輝の肩を叩くと言った。爽やかな笑顔だ。間違いなくモテそうである。
「な、なぁマリ。ドクター・ヌルって奴は、一体どんな奴なんだ?」
「知らない」
「え?」
「どんな奴か、知らない。奴の正体を知ってるのは、あの結社の上層部の一部だけよ」
「上層部?」
「上層部にはそれぞれ異名がつけられてる。ヌルはドイツ語で【ゼロ】の意味。【アイン】をはじめとした改造人間軍団よ」
「じゃ、あいつ、島津は…」
「多分、下っ端。ナンバリングもされていない」
大輝は絶望した。あれよりも強い相手…
「でも、現時点で分かってることもあるわ」
「え?」
「奴らは、改造される前の記憶も多少は残ってるってことよ」
「?」
「ドクター・ヌルは、完全に記憶中枢をいじる事はできないみたいね」
「いや、その逆かもしれないよ?」
「どういう事?」
虎之介は腕を組んだまま壁に背中をあずけて言った。
「敢えて記憶を消さずに残してるのかもしれない。だとしたら、これ以上に残酷なことはないかもね」
「…」
「まだ、動きはなさそうかな?姉さん」
「昨日の今日。すぐにはわからないわ」
「まぁ、そりゃそうだね」
「とりあえず、動きがあるまでは待機ね」
†
最寄りの駅で降りると、大輝は駅のロータリーからバス停に出てきた。コンビニのポスターは、最近よくテレビで見る人気俳優の椎葉リョウがこちらを見ている写真に変わっている。コンビニに入り、香澄が好きなコーヒーゼリーを買うと、大輝はそこで待っていた。
ほどなくして、一台の軽自動車がやってきた。運転席には香澄が乗っている。大輝を見てひらひらと手を振っている。
「ありがとう」
「しょうがないわね」
「あ、お前これ、好きだろ?」
「あっ、好き好き。ありがとう!」
香澄は直線道路に出ると、口を開いた。
「あ、こないだはお疲れ様ね」
「何が?」
「同窓会よ。あれから先生と何話したの?」
大輝はドキッとした。そうだ、香澄は島津がカニ怪人だなんて知らなかったんだった。
「いや、ちょっとな」
「懐かしかったからなぁ」
「そんなお前も、凄く楽しそうだったぜ」
「そりゃそうよ~」
話をなんとか誤魔化した。あれから大輝はカニ怪人を倒し、虎之介とマリのラボに帰還した。もう日常には戻れないと覚悟を決めた後の、香澄との静かな一時。西の空に沈む夕陽を見ながら香澄は言う。
「そういやさ、大輝を病院に連れてったって友達、どこ行ったの?」
「え?」
「知らないの?イギリスで友達になったって…」
虎之介だろう
「帰ったんじゃないかな?」
「薄情じゃない?折角助けてくれたんだから」
「イケメンだって聞いたから、見たいだけなんじゃない?」
「わかる?」
「わかるっつの…」
香澄は笑った。
そんな中、遥か右手の通りに一人の男が歩いていた。
黒いレザーのジャケット、ポケットからウォレットチェーンが下がり、指にはシルバーのリングが嵌っている。
「ほぉ~」
アシンメトリーな髪型。緑に染めた前髪の間から三白眼の吊り目の目線を投げる。その先には香澄がいた。その隣りの大輝を見て、にやりと笑う。
「あいつか」
「おい、そこのガキ」
道路の真ん中に突っ立っていた男に、いかついサングラスの男が言う。
「邪魔だよ。わかってんのかよ?」
「あン?誰に口を聞いてる?」
「なんだ手前ぇ、ケンカ売ってんのか?」
男はにやりと笑った。
「ちょうど、退屈してたんだ」
マリは大輝に言った。ラボの片隅で酸素ボンベを口に当てながら気分を落ち着けている大輝は頷く。
「なぁ、マリさん」
「さん付けなんて気色悪い。マリでいい」
「あ、あぁ、でも歳上に呼び捨てはちょっと…」
「…そんな細かい事、気にするなんてね」
虎之介は大輝の肩を叩くと言った。爽やかな笑顔だ。間違いなくモテそうである。
「な、なぁマリ。ドクター・ヌルって奴は、一体どんな奴なんだ?」
「知らない」
「え?」
「どんな奴か、知らない。奴の正体を知ってるのは、あの結社の上層部の一部だけよ」
「上層部?」
「上層部にはそれぞれ異名がつけられてる。ヌルはドイツ語で【ゼロ】の意味。【アイン】をはじめとした改造人間軍団よ」
「じゃ、あいつ、島津は…」
「多分、下っ端。ナンバリングもされていない」
大輝は絶望した。あれよりも強い相手…
「でも、現時点で分かってることもあるわ」
「え?」
「奴らは、改造される前の記憶も多少は残ってるってことよ」
「?」
「ドクター・ヌルは、完全に記憶中枢をいじる事はできないみたいね」
「いや、その逆かもしれないよ?」
「どういう事?」
虎之介は腕を組んだまま壁に背中をあずけて言った。
「敢えて記憶を消さずに残してるのかもしれない。だとしたら、これ以上に残酷なことはないかもね」
「…」
「まだ、動きはなさそうかな?姉さん」
「昨日の今日。すぐにはわからないわ」
「まぁ、そりゃそうだね」
「とりあえず、動きがあるまでは待機ね」
†
最寄りの駅で降りると、大輝は駅のロータリーからバス停に出てきた。コンビニのポスターは、最近よくテレビで見る人気俳優の椎葉リョウがこちらを見ている写真に変わっている。コンビニに入り、香澄が好きなコーヒーゼリーを買うと、大輝はそこで待っていた。
ほどなくして、一台の軽自動車がやってきた。運転席には香澄が乗っている。大輝を見てひらひらと手を振っている。
「ありがとう」
「しょうがないわね」
「あ、お前これ、好きだろ?」
「あっ、好き好き。ありがとう!」
香澄は直線道路に出ると、口を開いた。
「あ、こないだはお疲れ様ね」
「何が?」
「同窓会よ。あれから先生と何話したの?」
大輝はドキッとした。そうだ、香澄は島津がカニ怪人だなんて知らなかったんだった。
「いや、ちょっとな」
「懐かしかったからなぁ」
「そんなお前も、凄く楽しそうだったぜ」
「そりゃそうよ~」
話をなんとか誤魔化した。あれから大輝はカニ怪人を倒し、虎之介とマリのラボに帰還した。もう日常には戻れないと覚悟を決めた後の、香澄との静かな一時。西の空に沈む夕陽を見ながら香澄は言う。
「そういやさ、大輝を病院に連れてったって友達、どこ行ったの?」
「え?」
「知らないの?イギリスで友達になったって…」
虎之介だろう
「帰ったんじゃないかな?」
「薄情じゃない?折角助けてくれたんだから」
「イケメンだって聞いたから、見たいだけなんじゃない?」
「わかる?」
「わかるっつの…」
香澄は笑った。
そんな中、遥か右手の通りに一人の男が歩いていた。
黒いレザーのジャケット、ポケットからウォレットチェーンが下がり、指にはシルバーのリングが嵌っている。
「ほぉ~」
アシンメトリーな髪型。緑に染めた前髪の間から三白眼の吊り目の目線を投げる。その先には香澄がいた。その隣りの大輝を見て、にやりと笑う。
「あいつか」
「おい、そこのガキ」
道路の真ん中に突っ立っていた男に、いかついサングラスの男が言う。
「邪魔だよ。わかってんのかよ?」
「あン?誰に口を聞いてる?」
「なんだ手前ぇ、ケンカ売ってんのか?」
男はにやりと笑った。
「ちょうど、退屈してたんだ」
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