電人ジャンク

回転饅頭。

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序章

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 日課のプッシュアップとシットアップを終わらせ、鼻の頭から汗を滴らせながら、タオルで顔を拭う。
 胸と腕に着けている吸盤を外し、銀のボトルに入ったドリンクを飲み干すと、錦織虎之介にしきおりとらのすけは髪をわさわさとタオルで揉む。漆黒の髪の毛と精悍な色白の爽やかな顔立ち。虎之介はそのままシャワールームに向かった。
 
「ん?」

 虎之介の衣類かごの中に入れたスマホが鳴動している。画面に目を落とすと、【マリ】と出ている。シャワーを浴びる前、肩にタオルをひっかけたまま虎之介はスマホを手にし、通話をタップした。

「僕だ」
【わかり切った返事するのね、あんたは】

 ――錦織マリ、虎之介の実姉。このご時世、メールやLINEという方法を取らないのは彼女ならではだなと虎之介は思う。

「マリが連絡をくれるってことはさ、デートの誘いなんかじゃないんだろ?」
【実の弟をデートなんかに誘う?馬鹿じゃないの?】
「そこまで言う?」
【とにかく、ラボに。あんた今シャワー浴びてる?】
「生憎」
【あっそ、ならなるべく早くね】

 それだけ言うと、マリは一方的に通話を切った。
 ――錦織コンツェルン。戦後間も無く興し、ヤミ市から巨万の富を築き上げた錦織貞虎さだとらから数えて虎之介の父親、錦織虎蔵とらぞうで3代になる。錦織グループ系列の会社は国内に十数社に亘り、その本社ビル併設のトレーニングジムで虎之介はトレーニングに励んでいる。
 シャワーを手早く済ませると、虎之介は着替えて地下に向かうエレベーターに乗った。

――姉を待たせると、後々面倒だからな

 虎之介は地下の駐車場の外れにある地下通路のボタンを押した。消火設備のボタンの横に小さくそのボタンはあり、それを押すと消火設備がずりずりと横にスライドした。
 虎之介の姿を感知したのか、通路の照明がぱっと点灯した。中に入るとセンサーが反応し、消火設備は元の場所にスライドして戻った。突き当たりがラボになっている。マリが虎蔵に内緒で作った秘密のラボである。

「遅い」
「どんだけせっかちなんだよ。マリは」
「時間を無駄にするのは、お金を捨てるのと同じ。わかる?」
「さっぱり」
「そ」

 マリは細身のパンツスーツに身を包み、すらりと伸びた脚を組んで待っていた。たおやかでストレートな黒髪を腰まで伸ばし、前髪は眉の上で切り揃えている。その下には理知的な切れ長の瞳がくっついている。虎之介と同じ瞳だ。

「どうしたんだ?」
「これ、見て」

 マリのタブレットPCの画面がズームアップする。場所は商店街の一角だ。

「うわぁ…」

 その画面には凄惨な現場が映る。腰から真っ二つに切断された遺体。

「これ、よく見て」
「よくこんなもの、正視できるよな…」
「何?」
「いんや、なんでも」
「刃物で切ったにしては乱暴すぎるのよ。まるでなんから引きちぎったみたいなね」
「うぅわっ…」
「それを巻き戻した映像がこれ」

 そこにはさっき、屍になっていた男が映る。そのすぐ横にはまた別の男がいる。その男を見ながら、被害者の男は後ずさる。その後。

「やっぱりな」

 黒ずくめの男の右手がカニのハサミに変わった。被害者の男の胴体を掴むと、ギリギリと締め上げ…

「アイツだな」
「そう、それもかなり凶悪」

 虎之介は自分の左手に目を落とした。チタン製の義手だ。その腕はそのカニのハサミに切断されたものだ。

「許さない」
「私怨は置いといて。アタシにとってもこいつは許せない相手よ。自信作のパワードスーツを…」
「弟の心配じゃなく?」
「何?」
「なんでもございませんよ、姉上」
「だったら、行くことね」
「やれやれ…」

 虎之介はラボのロッカーに収納されたパワードスーツを開いた。虎之介が倒された後、カスタマイズが施されている。次は同じ轍は踏まない。
 虎之介は、再びメットを被る。エアーの抜ける音とともに虎之介の頭に吸い付くようにエアバッグが密着していった。
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