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菊一酒造はやはり先代からのこだわりなのか、周りは静かな林である。裏には綺麗な湧水が湧いている。この環境が美味い酒を作るのだろう。そんな中黒焦げになってしまった蔵は実に痛々しい。僕は再び焦げた杉玉の下に立ち、門扉を叩いた。
「ごめんください」
「はい」
玄関から出て来たのは、割と綺麗な顔をした中性的な男の子、ややなよっちいところがある。くりっとした瞳をこちらに向けて首を傾げた。
「警察です。ちょっと良いですか?」
「あぁ、少々お待ちください」
中学生くらいだろう。声変わりがしかかっているようなややハスキーな高い声だ。母親を呼びに行ったらしい。
暫くして、母親のゆかりが出て来た。忙しい中申し訳ありませんと言うと、僕と小杉は警察手帳を出す。
「どうも、その節は」
「何か、まだお調べになられます?」
ややうんざりしたような顔をしている。無理もない。僕は頷いた。
「何なりと、お調べになってください」
「それでは…」
優歌さんが我先に入っていった。真っ黒焦げになった蔵の中を覗くように。
「ホント、全焼だったんですね」
「えぇ、こりゃ悲惨で…」
入り口の木製扉は完全に焼けて炭になっている。そこから中を覗けばやはり、油絵に使うイーゼルや、額縁がある。奥の方は物置と化しているようだ。菊一ミツ子が使っていたのは、手前のほんの少しのスペースだったようだ。
窓はまだ残っている。2メートルくらいの高さの所に左右対称、奥にも同じく明かり取りのような窓がついている。
「ん?」
優歌さんが何かに気付いたようだ。入り口の扉の付近を気にしている。
「これ…」
扉に使われていた金属製のカンヌキを受ける留金だ。全焼した扉から外れてしまっている。
「…が、どうかしたんですか?」
「……ちょっと見てみてください」
そこから斜め上に視点を移す。炭になった角材がぶらんと下がっている。半分くらいのところで折れているが…
「カンヌキですね?」
「これ、折れたんちゃう?」
「ですね。この火事で…」
――しれっと、占い師の優歌さんに戻ってる。きっとノってきたのかもしれない。いや、そんな事はどうでもいいけど…
「なんで折れんの」
「?」
「カンヌキで使われてる角材、そんな自重で折れるようなシロモノじゃないやろ?」
「…はぁ」
「って事は、どういう事でありますか?」
「ミツ子さんが亡くなった時、この蔵の入り口にはカンヌキがかかっとったっちゅう事やろ?」
「…さっぱり、意味が分からないでありますが…」
「密室やったって事や」
優歌さんは言った。
「でも、まぁ油絵に集中するのに、入り口にカンヌキをかけるってそんなに不思議じゃないかなって思いますけどね」
「このイーゼルから入り口の扉まで、正味だいたい2メートル半くらいや。もし火事や!ってなって燻ってる間、逃げられへん距離かな?」
首を傾げる優歌さん。何か引っかかっているようだ。
「ちょっと、この酒蔵の人に話を聞いてみたいですね」
――杉森さんにスイッチしてる…
「わかったっス。先輩。自分、ちょっと行ってくるっスよ」
「皆行くから。大丈夫だって」
「あの、先輩。自分もう署に戻らないといけないであります。すいません」
「いや、原巻くん。謝る事ないよ。じゃあね」
僕は原巻に言った。原巻は手刀を切って蔵から出て行った。僕らはというと、自宅のスペースを足を向ける。また多分、嫌な顔をされるかもしれないなと内心モヤっとしてはいるが…
そんな事は我関せずな感じで、優歌さんは自宅スペースの玄関の扉を叩く。こっちは今風にリフォームされている。普通の家だ。
「あのぉ…」
ひょっこりと出て来たのは、四代目の一平だった。ぼそぼそっと喋るので、いつの間に現れたのか全く分からなかった。焼けたのは倉庫のような蔵だった為、酒を作るのに支障はなかったようだ。もう既に数人の蔵人が中で仕事をしている。
「私でよければ、話を…」
「でも、四代目はお忙しいんじゃ?」
「今はちょっと手が空いたんです。こっちは忙しいですが」
指を2階に向ける一平。そこには机に向かう息子と、横に立つゆかりの姿があった。
「ごめんください」
「はい」
玄関から出て来たのは、割と綺麗な顔をした中性的な男の子、ややなよっちいところがある。くりっとした瞳をこちらに向けて首を傾げた。
「警察です。ちょっと良いですか?」
「あぁ、少々お待ちください」
中学生くらいだろう。声変わりがしかかっているようなややハスキーな高い声だ。母親を呼びに行ったらしい。
暫くして、母親のゆかりが出て来た。忙しい中申し訳ありませんと言うと、僕と小杉は警察手帳を出す。
「どうも、その節は」
「何か、まだお調べになられます?」
ややうんざりしたような顔をしている。無理もない。僕は頷いた。
「何なりと、お調べになってください」
「それでは…」
優歌さんが我先に入っていった。真っ黒焦げになった蔵の中を覗くように。
「ホント、全焼だったんですね」
「えぇ、こりゃ悲惨で…」
入り口の木製扉は完全に焼けて炭になっている。そこから中を覗けばやはり、油絵に使うイーゼルや、額縁がある。奥の方は物置と化しているようだ。菊一ミツ子が使っていたのは、手前のほんの少しのスペースだったようだ。
窓はまだ残っている。2メートルくらいの高さの所に左右対称、奥にも同じく明かり取りのような窓がついている。
「ん?」
優歌さんが何かに気付いたようだ。入り口の扉の付近を気にしている。
「これ…」
扉に使われていた金属製のカンヌキを受ける留金だ。全焼した扉から外れてしまっている。
「…が、どうかしたんですか?」
「……ちょっと見てみてください」
そこから斜め上に視点を移す。炭になった角材がぶらんと下がっている。半分くらいのところで折れているが…
「カンヌキですね?」
「これ、折れたんちゃう?」
「ですね。この火事で…」
――しれっと、占い師の優歌さんに戻ってる。きっとノってきたのかもしれない。いや、そんな事はどうでもいいけど…
「なんで折れんの」
「?」
「カンヌキで使われてる角材、そんな自重で折れるようなシロモノじゃないやろ?」
「…はぁ」
「って事は、どういう事でありますか?」
「ミツ子さんが亡くなった時、この蔵の入り口にはカンヌキがかかっとったっちゅう事やろ?」
「…さっぱり、意味が分からないでありますが…」
「密室やったって事や」
優歌さんは言った。
「でも、まぁ油絵に集中するのに、入り口にカンヌキをかけるってそんなに不思議じゃないかなって思いますけどね」
「このイーゼルから入り口の扉まで、正味だいたい2メートル半くらいや。もし火事や!ってなって燻ってる間、逃げられへん距離かな?」
首を傾げる優歌さん。何か引っかかっているようだ。
「ちょっと、この酒蔵の人に話を聞いてみたいですね」
――杉森さんにスイッチしてる…
「わかったっス。先輩。自分、ちょっと行ってくるっスよ」
「皆行くから。大丈夫だって」
「あの、先輩。自分もう署に戻らないといけないであります。すいません」
「いや、原巻くん。謝る事ないよ。じゃあね」
僕は原巻に言った。原巻は手刀を切って蔵から出て行った。僕らはというと、自宅のスペースを足を向ける。また多分、嫌な顔をされるかもしれないなと内心モヤっとしてはいるが…
そんな事は我関せずな感じで、優歌さんは自宅スペースの玄関の扉を叩く。こっちは今風にリフォームされている。普通の家だ。
「あのぉ…」
ひょっこりと出て来たのは、四代目の一平だった。ぼそぼそっと喋るので、いつの間に現れたのか全く分からなかった。焼けたのは倉庫のような蔵だった為、酒を作るのに支障はなかったようだ。もう既に数人の蔵人が中で仕事をしている。
「私でよければ、話を…」
「でも、四代目はお忙しいんじゃ?」
「今はちょっと手が空いたんです。こっちは忙しいですが」
指を2階に向ける一平。そこには机に向かう息子と、横に立つゆかりの姿があった。
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