朧月楼の殺人

回転饅頭。

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 御厨の死により、演劇サークル内の雰囲気が間違いなく悪くなっている。特に神戸においては完全に怯えているのである。楠木は改めて言う。

「とりあえず、間取りから見てみようか」

 あてられた部屋は、二階からエレベーターを出て時計周りに胡蝶蘭(翔子)、満天星(神戸)、馬酔木(御厨)。三階は同じく時計周りに百日紅(謙也)、竜舌蘭(沢井)、勿忘草(楠木)となっている。

「御厨は、見たところ部屋に戻った様な様子は見られない。あいつがいた馬酔木の間は施錠がされていなかったし…」
「と、いうことは、御厨センパイは自室じゃないところで殺害されたわけですか?」

 謙也は言った。

「だろうな。まぁ部屋にはシャワーもあるし、殺害後血を流してしまうこともまぁ可能だと思う。条件は皆同じだ」
「そういや、何年か前もこんな事件があったって聞いたしな」

 沢井が呟くように言った。

「そんな…」
「やっぱり巡り合わせみたいなもんかな。俺らと死というものに関してはな。あの時だってそうだったじゃないか…」
「沢井!」

 温和な楠木が言葉を遮るように言った。

「まさか…あの時の復讐なんて言うんじゃないよなぁ…ねぇ沢井センパイ…」
「馬鹿言うなよ神戸…だとしても誰がこんな事を起こすんだって話だ。そもそもあれは…」
「やめろ!」

 楠木は部屋を出て行った。空気がピリつく中、翔子が楠木のあとを追うように出て行く。

「楠木さん…」
「……すまない。翔子」
「あたしはいいの。どうしたの?いきなり」

 楠木は頭を軽く振って言った。

「僕らにとっては、あの話題は触れちゃいけない話題だって言うのに…」
「だって、あれは事故だったんでしょう?」
「それでも…あいつが死んでしまった事実は曲げようのない事実なんだから」
「…あなたって、いつもそうよね」

 翔子は楠木に言った。

「何でもかんでも自分のせいにして、自分の責任だって背負い込んで…だから、もう少し…」
「すまない翔子。少し一人にしてもらっていいかな?」

 楠木は自室に戻った。翔子はそれを何も言わずに眺めるだけだった。翔子を追いかけてきた謙也は翔子に小さく声をかける。

「なんだ、いたんだ。謙也くん」
「何が、あったんだい?」
「いや、謙也くんはうちに来てまだ日が浅いから分からないかもしれないけど…」

 口を開いて、翔子は首を横に振った。

「これは、あたしから言うことじゃないわ。ごめんね、謙也くん」

 翔子は同じく2階の自室に戻って行った。

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