占い師さんは名探偵

回転饅頭。

文字の大きさ
上 下
12 / 15

12

しおりを挟む
「ホント、いいんですか?私なんか誘っていただいて…」

――焼肉食べたいなぁって言ったのは貴女じゃないのよって言葉を飲み込む。ちゃっかり、優歌さんの前には大ジョッキの生が置かれている。小杉が好きに頼んだカルビ、ハラミ、タン塩、ロースがテーブルにずらり。火のついたロースターの網の上で真っ赤なカルビがじゅうじゅう踊っている。

「いいんですって、こないだお世話になったんだから。なぁ小杉」
「ホントっスよ、それに野郎の中に女性って映えるっスからね!」
【どうも、杉森ちゃんです】
「ぶふっ!」
「先輩、なんか思い出し笑いっスか?思い出し笑いすんのって、ムッツリスケベらしいんスよ!」
「お前なぁ…」

 優歌さんは生大を傾けている。焼ける前にジョッキを空にしてしまいそうな勢いだ。小杉は言った。

「杉森さん、飲みっぷりが半端ねぇっスね」
「そんな、恥ずかしい…」
【飲兵衛や言いたいねやろ、このじゃがいもがww】
「……」

 僕が上目でちらりと優歌さんを見ると、目が合った。優歌さんはウインクをする。小杉だったら騙されちゃいそうだが、僕は騙されないからな…

「んで、刑事さん達の見解はどうなんでしょうか?」
「んぇ?仕事の話っスか?とりあえず肉食いましょうよ肉!」
「そ、そうですよ優……杉森さん」
【また優歌さん言おうとしたやろ】
「…すいません、僕烏龍茶ください」
「へ?先輩飲まないんスか?」
「じゃ、私また生頼んじゃおうかなぁ…」

 僕は軌道修正する為、無理やり焼けた肉をサーブする。

「ダメっすよ先輩!こっちはレモン絞るスペースなんスから!」
「んなもん知らないから!」
【何やねん、知らんの?】
「すいませんねぇホントに…」
「ん?杉森さん、何か言われたんですか?」
「いや、私は何もっ。ん~美味しいお肉!」

――2時間の刑事ドラマとかだと、こういったシーンで何かをひらめいたりとか、するかもしれないが、優歌さんも僕も、ましてや小杉なんかにはひらめく要素は見当たらない。

「とりあえず、東郷雛子と須藤あきらは不倫関係を否定しましたね。直接的な動機にはならなそうです」
「そうですか、まぁ否定するでしょうね?」
「オトコとオンナはそんなもんっスよ」
【じゃがいものクセに生意気やなぁ】
「……僕、ライス頼みます」
「あ、なんか誤魔化したぁ!」
「ちょ、いきなり何ですかっ!」

 やや酔いが回ったらしい優歌さんは、こちらに悪戯っぽい笑顔を見せる。今日初めて飲むが、この人、多分酔うとかなり面倒くさそう…

「それにしても、アリバイ工作だとしても色々と解せないところばっかりなんですよね…」
「えぇやんもう!」
「はぁっっ?」
「あれっ?えぇやんってまさか、杉森さん関西の方?」
「せや、あかん?」
「あかんくないっス!あかんくない!」
「ひひひひ…」

――何だそりゃ。僕のLINEに一言。

【それ、あたしが言うた事やし、ええやないの】

――まぁ、そりゃそうだ。

「そういや、あの渋谷ってネズミみたいな編集者の行ったもつ焼きの店、美味かったっスね!」
「何何?小杉ちゃん、そんな店内緒で行ってはるのぉ?」
「こっ、小杉ちゃんってちょっと!」
「えぇやんなぁ、小杉ちゃんで!」
「えぇですえぇです!橘川ちゃん!」
「誰が橘川ちゃんだ!」

――面倒くさいのが揃ってしまったな…

「このお店、結構美味しい和牛出してくれるんスって」
「そうなん?よー知ってはるやん小杉ちゃん!」
「でしょでしょ?杉森ちゃん!」
「誰が杉森ちゃんやねん!あんさんそんじゃじゃがいもって呼ぶで!」
「オイっ…小杉も調子に乗るなって…」
「いいんですいいんです!楽しきゃ!やはり日本人なら和牛っスよねやっぱ!」
「違いなんかわかんないくせに……」

 僕はそんな中、へべれけに酔っ払っている優歌さんの目線が、ほんの少し鋭くなった事に気付いた。それを見ていたら、優歌さんはまた、とろんとした瞳に変わった。

「自分っ、また生頼みます!」
「おぉっ!おいじゃがいも!調子乗るんやないで!」
「酔ってないっス!酔っては…」

――いや、ぐでんぐでんだろ。
そんな中、優歌さんが生大を空にして店員を呼んだ。

「すいませ~ん、半ライスと、コーラええですか?」

 ぐでんぐでんの小杉の斜め前から、こちらに勝ったかのような目線を優歌さんは向けてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

密室の継承 ~黒川家の遺産~

山瀬滝吉
ミステリー
百年の歴史と格式を誇る老舗旅館、黒川旅館。四季折々の風情が漂う古都の一角に位置し、訪れる者に静かな安らぎと畏敬の念を抱かせるこの場所で、ある日、悲劇が起こる。旅館の当主・黒川源一郎が自室で亡くなっているのが発見され、現場は密室。しかも彼の死因は毒殺によるものだった。事件の背後には、黒川家の長年にわたる複雑な家族関係と、当主の隠された秘密が暗い影を落としている。探偵・神楽坂奏は、地元警察からの依頼を受け、黒川家と黒川旅館に潜む謎に挑むことになる。 若き探偵の神楽坂が調査を進めるにつれ、事件に関わる人物たちの思惑や過去の葛藤が少しずつ明らかになる。野心家の長女・薫は、父親から愛されるため、そして黒川旅館の継承者として認められるためにあらゆる手段を厭わない。一方、穏やかな長男・圭吾は、父からの愛情を感じられないまま育ち、家族に対しても心の距離を保っている。さらに、長年旅館に勤める従業員・佐藤の胸にも、かつての当主との秘密が潜んでいる。事件は、黒川家の隠し子の存在をほのめかし、神楽坂の捜査は次第に家族間の裏切り、葛藤、愛憎の渦に引き込まれていく。 本作は、古都の美しい風景と、登場人物たちの心の闇が対比的に描かれ、読む者に独特の緊張感を抱かせる。神楽坂が少しずつ真相に迫り、密室トリックの解明を通して浮かび上がる真実は、黒川家にとってあまりにも過酷で、残酷なものであった。最後に明かされる「家族の絆」や「愛憎の果て」は、ただの殺人事件に留まらない深いテーマを含み、読者の心に余韻を残す。 事件の謎が解けた後、残された家族たちはそれぞれの想いを抱えながら、旅館の新たな未来に向かう決意を固める。旅館の格式を守りながらも、時代に合わせて新しい形で再生する道を模索する姿は、物語全体に深みを与えている。 愛と憎しみ、裏切りと許し、家族とは何かを問いかける本作は、読者にとって心に残るミステリー小説となるだろう。

声の響く洋館

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。 彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。

短編小説集 つまらないものですが。

全力系団子
ミステリー
短編小説をあげます! 笑えるものやゾットするものなど色々あります。

めぐるめく日常 ~環琉くんと環琉ちゃん~

健野屋文乃
ミステリー
始めて、日常系ミステリー書いて見ました。 ぼくの名前は『環琉』と書いて『めぐる』と読む。 彼女の名前も『環琉』と書いて『めぐる』と読む。 そして、2人を包むようなもなかちゃんの、日常系ミステリー きっと癒し系(⁎˃ᴗ˂⁎)

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

処理中です...