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10、雪山の一夜① ★

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「なあ……怖くないの?」
「こわく、……んっ、ない」
「でも、震えてる」

 耳にかかる遅れ髪を指がかき上げて、ちゅ、ちゅ、と生え際のあたりに唇が触れる。あたたかな吐息が耳の奥まで入り込み、エティエの鼓膜を震わせた。

「っ……、それはラズローのい、息、が」
「ま、正直そういう反応めちゃくちゃそそるからいいけど……」

 独り言と共に白い息を吐き出して、口付けは目蓋へ、頬へと落ちる。
 油断すると変な声が漏れてしまいそうで、エティエは口を引き結ぶ。するとラズローの顔が少し持ち上がって、閉じられた口を指でなぞった。

「もっかいキスしよ。口開けて」
「でもさっきの私のキス、下手じゃなかった……?」

 もごもごと尋ねると、濃紫の瞳は意地悪そうに微笑む。

「ド下手くそ。……当たり前だろ、俺がどれだけ苦労してお前に集る虫を追っ払ってたと思ってんだよ」
「それってどういう――」

 みなまで言い終える前に、吐息ごと喰らわれた。
 半開きになった口をラズローの舌がこじ開ける。唇を食み、舐って、熱い舌先で口内をまさぐられると、エティエの背筋はぞわりと粟立つ。

(何、これ……)

 先ほどの親愛めいたキスとは違う、貪るような口付けだった。
 互いの粘膜と唾液が絡まり、混じり合った部分から身体が溶けだしそうになる。
 熱くて苦しい。それでもエティエは与えられる感覚のとりこになって、夢中でラズローの舌を追いかけ、応えた。

「好きって言って」
「す、き」
「……俺も」

 息継ぎの合間に吐き出された言葉は白く、互いの肌を撫でた。
 ここが雪山で寒さに震えていたことなんて、忘れてしまいそうだった。
 ラズローの手が頭を優しく撫で、耳から輪郭をなぞり、首筋を通って鎖骨に至る。そしてエティエの身体に巻きつけてあるカーテンの結び目を解いた。

 ふつり、と布地が左右に分かれて落ちる。

 押さえつけられていた胸がまろび出て、エティエの肌が外気に触れた。冷たさで思わず上体を震わせると、揺れる双丘にラズローの視線が突き刺さる。

「……あんまり、見ないで……」
「お前にはわからないだろうな……俺がこれまで何度、想像の中でお前を汚したかなんて。ああ、でも――」

 ゆっくりと吸い寄せられるようにラズローの指が胸に触れ、柔肌に沈む。

「現実のエティエが一番きれいだ」

 次の瞬間、ラズローが胸にしゃぶりついた。大きな手で左右の膨らみを包み、色づいた尖りを舐る。

「っや、……っ、ぁ」
「は? なんだよその声……反則だろ」

 やわやわと両の手が肉を揉みしだく。舌が先端をなぶり、転がす。
 きつく吸われると胸からお腹の奥を貫くような痺れが生まれて、エティエはこれまで味わったことのない感覚に悶えた。

 赤子のようにじゃれついたと思ったら、軽く歯を立てられる。かたちのよい鼻先はこれでもかと胸にうずめられ、黒髪の先が肌をくすぐる。
 そのすべてが甘くじれったくて、泣きそうなほど心地よかった。

「ふぅ、う、……ゃあっ……ん」

 両胸を己の唾液でべたべたになるほど蹂躙しつくして、ラズローの愛撫は一旦やんだ。
 しかしすぐに頭が被っている毛布の中にもぐりこんで、エティエの全身に優しいキスの雨を降らす。
 腕から脇腹、へそ、下腹部、そして鼠径部へ。
 彼の息が薄い下生えあたりにかかった途端、それまでとろんとしていたエティエは驚いて身を強張らせた。

「そ、そこはだめ……っ!」
「無理」
「きゃあっ!」

 脚を閉じようとしたががっちり内腿を押さえつけられていてままならない。それどころかさらにあられもない恰好で開かされて、べろりと秘裂を舐め上げられた。

「……濡れてる」
「ひあ、ぁ、だ、め……」
「死ぬほど後悔させるって言っただろ」
「や……っ、汚い、からぁっ」
「お前、なんでこんなに何もかも可愛いの……? めちゃくちゃに犯してやりたい気分になるんだけど」

 頭がおかしくなりそうなのはこっちだ。何度も、何度も、下から上へと執拗に股の綴じ目を舐められて、エティエは羞恥心とむずがゆさでぶるぶると震えた。
 だがそれだけでは収まらない。ラズローの手が濡れた襞をかき分け、左右に割る。
 くぷ、と音がして、未だ誰の目にも触れたことのないエティエの恥部が暴かれた。

「ひくひくしてる。すっげ、かわい……」
「ひぁっ! 舌、入れないでぇ……っ!」

 そこからのラズローは無言だった。
 彼は秘所にかぶりつき、割り開いた蜜口に舌の先端を押し込んだ。

 熱く柔らかな舌が、頑ななその場所をゆっくりと解きほぐす。ほんの少しの痛みを伴ったが、すぐにむずむずと腰が浮くような痺れで上書きされた。
 思わず「あっ」と脚をばたつかせると、さらなる痴態を引き出そうとばかりにわざとらしい音を立てて吸いつかれる。

「やぁ……ん、っ、ひぐ、ぁ……」

 じゅるじゅるといやらしい水音がする。探るような舌の動きが焦燥をかきたてる。

 恥ずかしい。
 でも、気持ちいい。

 これが快感と呼ばれるものなのだと、エティエはこの時ようやく理解した。一度知ってしまったらもう、その波に抗うことはできなかった。
 気付けばエティエは、毛布の下のラズローの頭をしっかりと両手で押さえつけてしまっていた。
 まるで“もっと”とねだるようなその姿態に、ラズローの頭がぴくりとわずかに持ち上がる。

「――っぁ!?」

 次の瞬間、エティエの内部に電流が走った。
 ラズローの指が、下生えの合間に隠されていた小さな芽を撫でたのだ。

「ここ、そんなにいいの?」
「やだ、やだそこ、なんか変、だめ――――あぁぁぁっ!」

 エティエの懇願が聞き入れられるわけもなく、ラズローはさらなる刺激を芽に与える。
 すりすり、と上からこすって押し潰す。指の腹で挟んでしごく。
 そのたびにとてつもない快感が腹の奥に生まれ、エティエはいやいやと首を振って暴れた。

「ねぇっ、おねが……だめっ、あ、なんか、きちゃう」
「いいよ。ってみせて」

 だめ押しとばかりに秘部のぬかるみを強く吸われて、エティエはついに絶頂する。

「あ、あ、あぁぁ…………!」

 ぎゅうっと身が縮んで、一気に弾けた。特大の電流がエティエを貫き、光を降らす。
 
 エティエは四肢の力が抜け、床に貼り付いたみたいに動けなくなった。全身がじっとりと汗をかいていて暑い。

「すっげぇ、えろ……」

 被っていた毛布を剥ぎ、ラズローが起き上がる。
 唾液と愛液でべたべたになった己の指を舐め、恍惚こうこつの表情を浮かべていた。
 汗ばんだ顔でエティエを見下ろすその姿の方が、よほど煽情的で“えろ”いのではないかと思わせられる。
 白い息がはぁ、はぁ、と彼の周りで生まれては立ち上って消えてゆく。

 互いに肩で息をしていた。暖炉の炎が照らすふたりの肉体はどちらも内側から熱く燃え、凍てつくような雪山の冷気など、とうに感じなくなっていた。

「なぁ、ほんともう限界なんだけど……。お前、アレ・・できる?」


 ――アレ・・


 その言葉が避妊のための結界術を指しているのはすぐにわかった。
 避妊魔法は胎内をごく薄い魔力の膜で覆うもので、その実用性とコントロールの鍛錬のために魔法学のかなり初期に習うものである。

 ラズローが返事も聞かずにトラウザーズのベルトを緩めはじめたので、エティエは思わず顔を逸らした。
 まさかこの魔法を実践で使う時が来るなんて……と思いながら、己の下腹部に右手を置く。すぐに淡い光がエティエの腹のあたりで生まれ、吸い込まれてゆく。

(魔力の通り道……魔力が最も効率的に運ぶものは光、そして風……)

 今からふたりの間でおこなわれる行為への不安をかき消そうと、魔法学の基礎を頭の中で暗唱する。
 するとその時、エティエの中でふたりの遭難を打開するためのとあるひらめきが生まれた。
 
 しかしすぐに、腹に熱いものを押し当てられた感触で我に返る。

「悪いけど、もう逃がしてやれないから」

 ラズローが黒髪をかき上げる。その目は暖炉の明かりと動物的な本能で爛々らんらんと輝いていた。
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