上 下
57 / 67
王宮裏事情解決編

51 知識とは金なり

しおりを挟む

「……ってことがあったんだよー……」

 ここは中庭……の、ハズレのガゼボの下。
 私の隣にはあの美少女、ヴェロニカことベリーが座っております。

 相変わらず優雅に微笑みながら、私の話を楽しそうに聞いてくれております。
 
 実はあれから時々会うようになりまして。
 二回目は待ち伏せしてたんだけどね!
 上流階級の貴族様だから、女神の日にもしかしたら神殿に祈りにくるんでは?と思ったらマジで来てたから、ハンカチ返したんだ。
 そしたらこれまた優雅に『貴女にあげたものよ?』と言われるので――貴族に返品は失礼にあたるそうで……――そのまま貰って、申し訳ないから手持ちのクッキーを……なんてしてたらめちゃくちゃ嬉しがられてね。
 それからは女神の日に中庭のハズレにあるガゼボの下でお茶会するのが定番となってます。

「ケイの毎日は本当に波乱万丈なんですのね、聞いてて楽しいですわ」

 扇子を広げてふふっと笑うベリー、今日も可愛いです!

「そうかなあ?やっぱりそう思う?」
「ええ、聞いていてとても楽しくて私までその場に居たような気分になりますわ?」

 解せぬ。……と、思いながら私はバックパックからシュークリームを出す。

「あら?」
「今日は新作でーす!シュークリームっていうお菓子だよ」

 コーンスターチと片栗粉が分からなかったのでこの間実験しつつ仕分けた時に、ついでに作ったシュークリーム。
 カスタードはズボラカスタードなのでバニラは無いし、全卵で作ったし、コーンスターチじゃなくて薄力粉でも作れるけども。

 そんな新作のお菓子をベリーに渡そうとすると、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえる。
 そうだった、忘れてた……。

「ブノワーズさんも、どうですか?」
「頂きましょう」

 私達の後ろ――……というか、ベリーの傍らに――気配なく立っているのは、侍女のブノワーズさん。薄い茶色の長い髪を綺麗にまとめ、一重で釣り上がり気味だけど大きめの瞳は眼鏡をかけていてもキラリと光っている。美人とは言えないけど、精悍な顔立ちの働く大人の女性そのもののイメージだ。

 まずはベリーの前にブノワーズさんから、と言うのはやはり毒味でという意味なのだけど、やっぱりどの世界の上流階級にはそういうのがあるんだなあ……。

 最初はブノワーズさんにめっちゃ睨まれてたんだけど、賄賂と言うクッキー効果なのか毒味した後からの態度がコロッと変わったのでどこの世界の女の子もスイーツには適わないんだなって思ったね。

 でも最近では私のお菓子を食べる、と言うのが楽しみらしく無表情ながらもお花が飛んでるブノワーズさんが可愛らしくて、ニマニマしてしまう。
 毒味ついでに、お持ち帰り用に結構な数が入ったシュークリームの箱もお渡しする。

「はい、これ。他の侍女さんにもね!」
「いつもありがとうございます、ケイ様のお菓子は皆大好きなので……喜びます」

 無表情、無感情ながらも後ろに音符が飛んでいる気がする。……じゃなく、心の中のブノワーズさんは小躍りしてるんだろうな。
 隠してるから他の人には分からないだろうけど、何となく雰囲気が……ね。
 空気が読める女、こと、私だよ!

「もうっ、ブノワーズったらずるいですわっ」
「これも仕事なので」

 ブノワーズさんが箱を受け取ってるのを見ながらぷくっと頬をふくらませて、はやくはやくと急かすベリー。
 それにふふんっ、と笑いながら返すブノワーズさん。
 そんな軽口を言い合う二人が、とても仲良しなのだと感じる。
 ブノワーズさんは私がシュークリームを出したあと、さっとお茶を淹れてくれた。
 ここでお茶会を、と言い出したのはベリーからで私の作るお菓子がとても気に入ったんだとかで猛烈なラブコールをされまして……なんやかんやで私がお菓子、ベリーがお茶を用意するってのがお決まりになりました。

 お貴族のお茶……めっちゃ美味しからね。
 見返りが私なんかのお菓子でいいのかなって心配になって聞いたんだけど、そもそもお菓子という物がこの世界にないから食べられるのは貴重だし、初めてなんだって。

 そんなこと言われて可愛い子からのラブコール、断れないよねえ?私としても、ベリーと話すのもブノワーズさんと話すのも好きなので毎週楽しみにしている。

「それでさ、馬車なんだけどあれ本当に痛いよね……おしり破れるかと思ったよ」
「あら……馬車というものはあのような物ではなくて?」
「違うよ!私が居た世界では馬車は痛くないし、むしろ馬車はなくて車というものがあって……」

 実はベリーには私が異世界から来たというのは言ってある……というか、お菓子のことについて問われた時にぽろっと言っちゃって……びっくりされたけど、ベリーは持ち前の貴族スマイルですぐに持ち直し、それ以上は何も聞かずにおいてくれてる。
 所謂スルースキルというやつだ。有難いよね?
 なのでもう私が異世界人なのはバレてるし私も気にせず話している。

「ケイの居た世界ではその様な複雑な技術と知識がありますのね。我が国でも使えないかしら……」
「うーん、難しいと思うよ?私の世界は魔法が無い代わりに科学が発達したんだし……ってかこの世界は魔法あるんだから馬車ごと浮かせるとかしてどうにでもなるじゃん」
「浮かせる……?と、いうのは?」

 私は常々思ってた。
 異世界物やファンタジー物の小説や漫画を見て、馬車が古くておしりが痛くなるってやつ。自分も経験したから分かるけど、改善したくなるよね。
 でも、あれいつも思ってたんだけど、主人公がこっちの世界のバネとか苦労して作って異世界の馬車が良くなる!って……わざわざこっちの世界の技術使わなくても良くない?

 だって、この世界には魔法があるんだよ?
 なんで有効活用しないの?

 わざわざ科学や複雑な技術を引用しなくても、魔法の力を使って重力そのものを反転して馬車ごと浮かせればいいし、磁石の反発し合う力を増幅させて浮かせるとかしてしまえば良くね?って私は思うんだよね。 
 魔石なんてあるし、工夫したらリニアモーターカーができると常々おもってたんだよね。

 だからその考えをベリーに話した。

「リニアモーターカーは道を作らなきゃだから大変だけど……って、ベリーさん?」
「ケイ。その話、私以外にしちゃだめよ」
「へ?」

 私の話を黙って聞いていたベリーが、静かに呟く。
 いや、だって普段のほんわりとした雰囲気からピリッとした雰囲気になるものだから、ほうけちゃったよね。

「ケイのその知識はお金になりますし、何よりこの世界の人々には無い発想ですわ。だからその知識を狙って悪い人が貴女を利用しようと攫ってしまうかもしれない」
「そ、そんなまさか……」

 いや、ありうる。この世界は危険に満ち溢れている。いつどこで、何が起こるかなんて誰にも分からないし予想できない。絶対なんてのはないのだ。

 私が青い顔をしていると、ベリーが緊張を解いて微笑む。

「大丈夫、ここだけの話にするわ?……でも、聞いたからにはこの話……私に預けてくれないかしら? 悪い様にはしないわ」
「え? あ、うん……いいけど」
「特許は貴女にするから、安心してね?」

 ベリーはにこっと微笑んだ。
 まさかその笑みが後に凄いことを起こすなんで誰が予想出来ただろうか……。


*****


 馬車が、浮いている……。

 あれからすぐに、本当、あれよあれよの間に、ベリー開発の馬車が発明された。 
 私が話した通り、馬車が浮いている。
 何度も言おう、馬車が浮いている。

 多分、馬車に重力軽減の魔法を込めた魔石をつけたんだと思う。重力という概念がこの世界になかったから、ちょっと教えただけでこうなのだからファンタジー大丈夫か?って逆に心配だわ!

「王都で売り出し予定だから、すぐに流行ると思うわ。勝手だけど貴女用の金庫を作っておいたからこれからどんどんお金が入るわよ」

 ドヤ!顔のベリーさん。
 上流階級、商売させたらめっちゃ凄い。

 次はリニアモーターカー作るんだ、と話してたけどそれも私が特許元だから……と念を押された。

 うん、これは遠回しにベリーにお説教されたな。

 今回はベリーだったからこんな結果になっただけだけど、悪人というか私を利用しようとする人にとっては私の知識はお宝の山の様なもので、ほいほいと他人に喋ったら危険なことになる可能性が高いのだから重々気を付けろよ!ということを身をもって知らしめたる結果となりました。

 え?お風呂?お神酒?おむすび??

 ……いやあ、知らない知識ですねえ。(すっとぼけ)


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。 ※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。

処理中です...