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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

49  れっつごー!デイキャンプ!①

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 困った。

 何が困ったのか、と言うと。

「……ルー君や?」
「はい、ケイ様」
「少し、離れませんか?」

 ただいま休憩中。
 足の怪我がある事でまだ無理ができず当分の間調理場出入り禁止令発動中の私です。
 なのでタダ飯です……うう、解せぬ。

 そして私が調理場に居ないのと、この前の討伐でのトラウマなのか、ルーがそばを離れない。
 とは言ってもルーも仕事があるのでこういった休憩時間とかに、なんだけどね。わがままの範疇を超えない微妙な距離感をもってわがままをしてるというか……遠慮してるけど遠慮しなくていい時はがっつり、みたいな。
 可愛いんだけどね?

 ルーのさみしんぼの琴線に触れたのかな……?そんなに私の怪我、トラウマなのか?
それとも突然居なくなった、という所なのかな?
 そこはルーじゃないからわからないけど。

「まあ、いいけどね?……あとで魔法教えてね?」
「はいっ!」

 討伐後から積極的に魔法の指導を頼むようになりまして。
 結構割らずに出来てる……と、思いたい。
 毎日のノルマは欠かさないし、時間が空いたらルーに魔法以外のレイスディティアの歴史なんてものも教えて貰ってる。
 団長さんには魔物について教えてもらったり、他の騎士にはちょこっとだけ討伐の仕方とか構え方とか役立つ事を教えて貰い始めた。

 当然、怪我があるので無理はしない。

 でも、怪我が治ったら本格的に教えてもらう予定。
 この間の事で懲りたし、私としても生活がかかってるので、生きるために意識を切りかえてこれからは学ぼうと思う。
 いつまでもぬるま湯に浸かってぬくぬくとしていられない。


*********


 そんな感じで、1週間。
 ようやく足の怪我も治ったし、今日から調理場に復帰!
 ……なんだけど、今日は女神の日なのでおやすみでーす。
 なのに何故調理場にいるかと言いますと、ちょこっと材料だけ貰いに来たんだよね。
 実はルーとデイキャンプに行く約束をしてまして、その準備なう!なのです。
 馬車で送り迎えをしてくれるのは第二宿舎のミッシェル君です!
 一緒にどう?って誘ったけどミッシェルは遠慮したのか送り迎えだけ、てなったんだよね……残念。まあ、私の計画を話したからってのもある。空気読める男、ミッシェル。

 いるものはもうバックパックに詰めたから、あとは材料だけ。
 浄化をかけるのも練習のうちってことでやってたらコントロール出来るようになったので今は誰かにかけてもらわなくても1人でやれてます、えっへん!

 とりあえず時間もないし、さっさと貯蔵室から卵、マヨネーズ、レタス、ベーコン……などなど、お気に入りの野菜を適当にバックパックに詰めて。
 忘れちゃダメなスパイスボックスも詰めて……用意は完璧。
 久しぶりのデイキャンプ、楽しんでいこう!


******

「わぁー!すごーい!綺麗な平原だーー!」

 王都から出て、馬車に揺られること30分ほど。近くの平原に来てます。
 ここはミッシェルのイチオシ穴場らしく、魔物も出ないし、馬車道沿いで人の気配もするけど広いので静かだし、何より安全!という事で連れてきてもらった。

「見て!ルー!地平線!!」
「ちへいせん……?」
「空と大地の境目が、横に一本線を引いてるみたいに見えるってことー!」

 日本だと地平線なんて北海道に行かないと見れないし、水平線の方がよく見れるからついはしゃいでしまう。

「そんじゃ、ケイさん。自分はもう行くっす。日が落ちる前にはお迎えに上がりますんで」
「うん!ありがとうね、ミッシェル!」

 去っていくミッシェルに手を振りながら、見送る。最初は敬語を頑張ってた彼だが、今ではもう砕けた物言いをしてくれるほどには仲良くなっていたので結構嬉しい。
 あれから第二宿舎にも遊びに行ったりして、その度にミッシェルに案内してもらってたら自然と距離が遠かった他の騎士達とも話すようになったので、関係は良好なのではないか……と思う。
 まだまだぎこちないから、そこは頑張っていくつもり!

「ケイ様、お荷物重くないですか?」

 ルーが心配そうに背負ってるバックパックを見つめる。

「あ、これ?全然重くないよ。そういう使用っぽい」

 何せチート道具ですからね。
 重くもなければ背負ってる感覚すら無いに等しい。それに私以外持てないからルーが荷物持ちしたいと言っても出来ないんだよね。
 それを言ったら残念そうにしてたけど、ルーは私の世話係だけど、荷物持ちじゃないし召使いでもない。そういう心配というか気遣いはして欲しくないんだよなあ……。

「この辺りが見晴らしが良いですね」

 馬車道から少し歩いた場所に木陰になりそうな一本の木が生えてた。
 そこの根元を今日のキャンプ地とする!のでバックパックからレジャーシート代わりのグランドシート……――テントの下に敷くシートのこと――を敷いてから座る。

 木があるから馬車道からはそんなに遠くないのに目立たないし、景色はいいし、いい場所を選んでくれた!有り難いね、ホント。

「そんじゃ、設営も終わったしオープンサンド作るぞー!」

 設営、と言っても簡易テーブルにガスストーブとナイフやらを置くだけなので本当に簡単。

 まずはゆで卵を作るので、メスティンに水と卵を入れてガスストーブで調理。
 その間にシェラカップに買っておいた魚の油漬を入れて、マヨネーズと合える。ここで玉ねぎのみじん切りを入れても美味しいけど、今回はスライスしたものを用意した。
 ゆで卵が出来たら、冷ましてから殻剥きして、フォークで潰してこれまたマヨネーズと合える。
 あとはベーコンを焼いたり、パンや野菜をスライスしたりしたら用意は終わり!

 各自好きなサンドイッチが作れるように、のオープンサンドスタイルです!

「ガスストーブあるから、パンは焼いてもいいしそのままでもいいよ!」
「わああ!すごいですっ!これ、好きなの乗せていいんですか?!」
「そうだよ!好きなものをいっぱい乗せて食べてね!」

 目の前にずらっと広がる数々の具材に目を輝かやかせるルーは、まずは卵からいくそうです。
 レタス、卵……とシンプルな具材を選んでパンの上に溢れんばかりに乗せたオープンサンドを口いっぱいに頬張り、笑顔のままで咀嚼してる。私はそんなルーを見ながら冷やしたレモンティー……ならぬ、甘夏ティーを渡す。

 それをごくごくと飲みほし、ぷはあっ!と満足そうに息つくルー。

「美味しいです!オープンサンドも、今飲んだ飲み物も、とっても!」
「甘夏ティーだよ。本当なら紅茶にレモンの輪切りを入れて飲むんだけどレモンがないからね。蜂蜜も少し入れてるから、甘夏ハニーティーかな?」
「この前のフレーバーティーと違う感じで、これも美味しいですっ」

 甘夏ジャムを溶かしたものと、輪切りの甘夏を風味づけ程度に入れたものでは味も違う。
 そういう細かい事をちゃんと気付いてくれるルーは本当にいい子。

 隣で美味しそうに食べているのを見てると私もお腹が限界突破の空腹なので、そそくさとパンに乗せて食べる。
 やっぱりここはツナマヨでしょう!
 ちょっと炙ったパンにツナマヨ、オニオンスライス、胡椒をガリガリしたらそのままお口にぱくり。
 あー!この、胡椒をガリガリたっぷり乗せて、びりっとした刺激とツナのしょっぱさ、マヨネーズのこってりがいいんだよね!そんでまたオニオンスライスがいい仕事してる……口の中のこってりを洗い流してくれて……食欲が増しますね、これは!

「あー……これは、ビールが欲しい」

 甘夏ティーしかないけどね。

「ケイ様!お酒はダメですよ!」
「元々持ってきてないから大丈夫だよ」

 横のルー君も私の真似をしてツナマヨ食べながら心配してくれております。気に入ったみたいでふんふんと鼻息荒く食べてますね、ほっぺにパンくずつけてて可愛い。

「そうだ、野菜好きなルーに特別なの作ってあげる!」
「特別!?」

 キラキラした瞳が私を貫く。

 可愛いがすぎる弟みたいなルーに、サッと炙ったパンにベーコン、レタス、トマトを乗せてマヨネーズとケチャップをかけてから渡す。
 なんちゃってBLTサンドだ。

「どう?」

 よほど美味しいのか無言で頷いて食べるルー。お肉も好きだけど、この子は野菜が好き――……特にトマト――みたいなのであっという間になくなった。

 私なんかトマトは大人になってからしか食べられなかったというのに……。

 木陰の涼しさと、爽やかな風と、美味しい食べ物。
 時々異世界の話なんかしつつ、時間が過ぎていった。
 そして、程々お腹も満たされた後、ルーから突然爆弾発言をされたのだった。



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