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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

18 猫の舌はざーらざら

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 なんやかんやありまして、照れたダンが機嫌を損ねてほかの三人に八つ当たり……じゃなく、制裁を与えたりして場は収まりました。

 私はじゃれ合いに混ざらず遠くで観戦。
 仲良き事はよきかなー、ですよ。

 さてさて。そんな仲のいい四人は放っておいて私はお菓子作りを開始しようと思います!

「ケイ様、すみません、僕達は訓練に混ざらないとなので……」

 そうだった。ルー達は見習いの仕事もだけど騎士としての訓練もしなきゃなんだっけ?

「いいよいいよ、簡単なものだから一人で出来るし行っておいで」
「すみません……何かあれば声掛けて頂ければ聞こえますので」

 慌ただしく出ていく四人を見送って再び再開!
 勝手知ったるなんちゃらーなんて歌いつつ食料庫に。バターと砂糖はすぐにわかるので確保。問題は……

「この粉類だよね。おーおー、乱雑に置かれておるわ」

 そう、小麦粉はあれど、どれが薄力粉なのか強力粉なのか、はたまた中力粉なのかが分からない。
 全粒粉は色などですぐ分かるから前にちゃちゃっと分けておいた。
 天然酵母出来たら全粒粉のパンも作るんだ!

「えーと、たしか小麦粉の中のグルテン量の差だから……握ったらいいんだったよな」

 薄力粉はぎゅっと握れば固まり、強力粉はサラサラと崩れる……という雑学。
 まあ、こういうのは普段から小麦粉に触っていればなんとなくわかる程度なのだけど、薄力粉はしっとりしてるし、強力粉はサラサラしているのだ。
 うどんに適している中力粉はその中間なので触りながら仕分けていく。

「ん?これは……!?」 

 触っていると小麦粉とは違う質感を持つ袋を発見。
 しっとりしているのにサラサラで、握るとギュッギュッと軋む音がするこれは……まさに。

「片栗粉ー! またはコーンスターチ!どっちかわからんけど嬉しい!」

 片栗粉があればあんかけ料理が出来る!コーンスターチがあればカスタードが作れる!
 ここら辺ではじゃがいもが主に食べられているからこれは片栗粉なのかもしれない。
 コーンスターチはその名前とおりとうもろこしでできているから。
 とうもろこしもここにはあったのでどちらも、という可能性もある。
 何にせよ何か作れば分かるから実験あるのみ。
 次何かやる時に実験しよーっと!

 嬉しい収穫にウキウキとしつつ小麦粉の仕分けを終える。楽しみが増えるって良きことかなー!
 必要分の薄力粉をもらって食料庫を出ようと思ったが……ふと気になる骨の山を発見した。

「あ、ルーが出しててくれたのかな?」

 出汁の話をした後、食料庫でゴソゴソやっていたのは見かけたので言われたら出せるようにしていたのかもしれない。

「ふーむ、出来る子である。これはお礼にコンソメ作っておくかー!」

 だいぶ骨は折れるけどな、骨だけに。

 ……だれも聞いてないから。うん。いいの。

 食料庫から厨房に戻ればさっさとラングドシャの準備を始める。
 最初に作ったパンプディングは冷めた方が美味しいので既に冷蔵庫に入っている。
 
 調理台に材料を並べて、ふんっと意気込み。
 ラングドシャは本当に簡単に出来るので卵白が余ったら作っていたお菓子だ。
 私は黄身の醤油漬けや味噌漬けが好きなのでよく卵白を余らせていた。明太子と混ぜて炒めたりして食べる時もあるけど、ここには明太子がない。なので今回はお菓子!この世界に無いものをまた、生産するのです。

 これも実はズボラで作れるお菓子なので重宝している。

 ボウルにバターと砂糖を入れて柔らかくなるまで混ぜる。泡立て器はこの間見つけたから本当助かってる。先人よ……ありがとう。君たちは何に使っていたのかい?

 ちょっと気になるけど混ぜるのに集中。
 ボウルの中のバターが柔らかくなってきたら卵白投入。何回かに分けて馴染ませたら次は薄力粉を投入。もったりマヨネーズくらいまでなればおっけー。ほら簡単。
 分量?卵白と同じくらいの量。
 測り?知らない子ですね。

 後は天板に薄ーく絞り出したい所ですが、絞り袋なんてないので、スプーンで掬って薄く伸ばす。
 ポテッと落としてそのままスプーンの背でスイっと伸ばす。
 うーん、名の通り猫の舌っぽい形だ。

 後はオーブンに入れて焼くだけ。
 最初は高温で5分、低めにして2、3分焼けばもう出来上がり。

 いやあ、魔道コンロの使い方を覚えちゃうともう日本には戻れないな。
 なんたってコスパ良し、機能よしなんだもん。最初に魔力補充さえ十分にしとけば後は思うだけで火加減出来るんだからね、ファンタジー、ファンタジー。
 まあ、使う人が魔力持ってなきゃ意味ないらしいんだけどさ。なんか、使う人の魔力に反応して魔道コンロの魔石がリンクしてそこから思考を読むとかうんちゃら言ってたけど。
 開発した人めっちゃすごいよね、としか言えないわたしです。
 だって化学はわかるけど魔法は習ってないもん!!

 ルーに教えて貰って魔石に魔力を適量流す訓練はしてるけども!
 まだよくわかんないからそのうち聞くつもり。

 さてさて、そんな事を考えていたら出来たぜラングドシャ!

「うわあ!久しぶりのお菓子だ!」

 こちらに来てまだそんなに日にちは経ってないけど、日本でよく食べてたものが恋しくなるくらいにはここで生活したんだな、と思った。

 あつあつはまだ柔らかいのでここでくるっと回せば筒状になるけど、今回はしない。

 味見に一枚ぱくっ。
 噛めばサクサクっほろほろ、と薄く軽いクッキーは口の中でほどけて溶けていく。
 バターと砂糖の味なのだけど、焼いているので香ばしく、この軽い食感がなんとも言えない。作ってる最中は、欲を言えばバニラエッセンスが欲しいところだったけど、ここにあるバターは良質なのか牛乳の味がしてそれがまたいい。
 むしろ食べてみてわかったけど、材料が良ければバニラエッセンス要らないのでは?

 調味料は無いくせに材料の質だけはとてつもなくいいこの世界は、基本材料の持つ味だけで完結するくらい美味しい。
 だから調味料が塩だけしかないし、他を望まないのだろう。

 駄菓子菓子、いや、だがしかし!

 わたしは、日本人!!!

 食に貪欲な日本人なのである!!!
 材料が良ければそれをもっと高めたくなるのが日本人なのではないのか!そう!わたしは美味しいものが食べたいだけなのだ!

 だから女神様も私がいるだけでいいって言ったんだと思う。
 女神様……この世界の食事情、知ってたんだろうな……。

 とりあえず世界変えるほどのことは出来ないけど、わたしはわたしのペースで美味しいものをこさえていくよ。
 
 ……一人だと思考が滾るからダメだね。
 切り替えていこう。


 さてさて。ラングドシャは冷めて食べ頃だし、かなりの枚数が出来たので騎士達も存分に食べられるだろう。

 チョコとかあれば挟んだりしたけどそういうのは無いから今回はこのまま。
 バタークリームとかキャラメルは作れるけどらめんどくさいからね。

「あ、団長さんにも持っていこう……かな?」

 昨日の口ぶりだと、カレーを食べてない。ということはもしかしたら訓練場に持っていっても団長さんはいないかもしれない。
 居たらいたで遠慮しそうだし、別に分けておいて後から……ってのも悪くない。
 食べなかったら自分で食べたらいいしね。
 お世話になっているのだから、これくらいはしないとかな……なんて。

「昨日のことは一旦忘れて、恩返しをしなきゃなー」

 甘やかされてばかりだと居心地悪いのだ。何かしなきゃとは思っていたから丁度いい。

 そうと決まれば団長さんの分と自分の分を冷蔵庫に保管して、残りの分を汗水垂らして訓練している騎士達に差し入れにいこう。

 ……かなりの数があるけど、ここは長年のキャンパー生活で鍛えた筋肉で持てるだけ持つ!そして残りは持っていったら多分ルー達が気付いて持ってきてくれる、はず!

 結局人頼み?うるさい!持ちつ持たれつ、共同生活には助け合いが重要なのです!!



 
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