上 下
13 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

12 料理は基本、ズボラです

しおりを挟む

「……ということで出来ました!」 

 マヨネーズに夢中になってるルーを無視して……というかその隙を狙ってさっさと作ることにした。
 じゃないといつまでもお料理聖女様ってうるさいんだもん。違うよって言ってるのにね?

 とりあえず私が拵えたのはマヨネーズを除いて三つとおまけの一品。

 ひとつは甘い白ワインにはちみつを加えて混ぜたものを瓶に何個か作る。これはみりんの代用品になる。
 もともとみりんは酒と砂糖で出来ているから、混ぜておかなくても代用できるし、いいんだけど、便利さを求めて混ぜて冷蔵庫で保存しておく事にした。そうした方が熟成されて良い味が出ると思うんだよね。

 後はリンゴを適当に切って煮沸消毒したビンを何個か作ったからその中にりんごと水を入れる。
 ちなみに煮沸消毒は沸騰したお湯の中にビンを入れて煮詰めることによって菌を殺すこと。

 これも、科学……じゃなく生物や公衆衛生の知識だけどルーにはそういう概念がないから、説明するとめっちゃ食い気味で質問やらされたから困った。

 この世界なら浄化で一発解決なんだけど。
 どうしてそうなるのか、そうする必要があるのか、の工程や概念概論は知らないと魔法だって意味がないと思うんだ。

 そしてリンゴの他にドライフルーツが数種類あったので、ついでにそれも各種水につけた。
 ちなみに干しぶどうや柑橘系、イチゴっぽいものがあったので適当に見繕った。
 これらは天然酵母をつくるためである。

 そう、あの硬いグルテンの塊のパンを変えるべく、私は試行錯誤をしようとしているのだー!

 天然酵母は不安定だから何個か作っておけばどれかが綺麗に膨らむ天然酵母となるだろう。それを種菌にして増やせば安定した酵母が常に作れるという戦法よ!
 何事も保険が必要。それに種類の違う天然酵母を混ぜることによってふくらむ率も高くなるんだよね。

 一週間くらいでできるから、それまでガス抜きしつつ混ぜて酵母を育てる……というのを繰り返す。
 だからパンを作るのはそれ以降だ。

 そして最後にリンゴと白ワインビネガーとはちみつを入れておく。これはりんご酢を作りたかったから。
 この世界どう考えても高血圧の人多いと思うんだよね。確かりんご酢が身体に良いって聞いたことがあるから……ちょっと作っておこうかなって。

 あとはあまったワインビネガーでピクルス作り。
 ビンの中に野菜を詰め込んでワインビネガーと砂糖と塩を混ぜたものを入れて漬け込んでおく。これはワインビネガー液があるだけ作ったから結構量がある。
 
 まあ、材料あまったからついでってのもあるんだけどね。

「この短時間で四つも作るなんて……やはりケイ様只者ではないですね!」
「今すぐにどうのってやつは無いけどね。それにちょっとそういうのに詳しい学校に通ってただけだよ」

 日本にいた頃、家政に詳しい学校だったからこその知識だ。うろ覚えなのもあるからあとは実験していって……という感じ。何事も失敗を恐れずにやることが大事だもんね!失敗は成功のもとなのだ!

「本当はもっと色々教わりたいのですが……そろそろ夜ご飯を作らねばならないので……」
「え!?またあの塩辛いメニュー……っ!?」

 あからさまに嫌な顔をしてしまった。
 ルーがなんとも言えない表情をしている。……しまった、ここの食事はルーを始めとして下働きの見習い騎士が交代制で作ってるんだった。
 作ってる本人を目の前にして不満をぶつけてしまうなぞ!やばいやばい!

「あ、ごめん!ついっ、あの…… 」  
「いいんですよ、ケイ様。お口に合わないのでしょう?」
「ううぅ……ごめん、私にはここの食事は塩辛くて……よかったら場所貸して貰えない?夜ご飯、私の分は自分で作ってもいいかな?」
「どうぞ気兼ねなく使ってください!僕もお手伝いします!」

 ルー!なんていい子なの!
 今日初対面なのにこんなに懐いてくれて、しかも自分のテリトリーだろう場所も嫌な顔ひとつせずに貸してくれるなんて……!やっぱり心を開いてくれたきっかけはマヨネーズかな?美味しいものは世界を救うからね。 

 調理場を貸してくれるお礼にルーに作ったマヨネーズを提供した。
 大事にするとかでビンに詰めて冷蔵庫に保管してた。
 また作ってあげるし、レシピ渡して今後も作れるようにしといてあげよう。

 さて、ルーという調理場の管理者から許可も貰ったし、団長さんからも食材を使っていい許可はある。
 何を作ろうか。
 あまり凝ったものは作りたくないし……

 あ、そうだ。

「ちょっと1回、自分の部屋から調味料とってくるね」

 そう言って私は借りてる部屋に戻った。
 確か女神様は調味料もチート仕様にしてくれていたのを思い出したのだ。そしてそれを試してみようと思ったのである。

 バックパックから調理道具とスパイスボックスを取り出す。
 調理道具は海外の某有名なメーカーの折り畳みナイフで私はNo.9を愛用している。ちなみに黒鯖加工済である。
 あとは簡易まな板とシェラカップ、コーヒー用のドリップセット、折り畳みカトラリー……等。
 これがどうチートになってるかは分からないけど壊れないとかそういう感じだろう。

 そして今回の本命、スパイスボックスー!

 実は私、スパイスジャンキーなのでキャンプスパイスはほぼ全網羅しているのである。
 今、手元にあるだけでも数種類あるのだけど、これでも厳選したスパイスコレクションの一部だ。
 ほりかわシリーズ、黒田のスパイス、mottekeシリーズ、ちこりん……などである。

 そのまま瓶でスパイスボックスに詰め込んでいる。

 あとは基本の塩、コショウ、味の素、砂糖、醤油、油、ケチャップ、マスタード、タバスコ、カレールー……という所だ。
 カレールーはちょうどキャンプ場でカレーを作ろうと思ってたから箱ごと持ってきている。
 団長さんに飲ませたインスタント味噌汁も減らずに復活してるのでこれもある。

「んー……めんどくさいしスパイスボックスごと持っていくか」
 
 私のスパイスボックスはよくある木箱を縦にしたやつだ。DIYして自分で作った自作ものである。バイクに載せられるようにちょっと大きめにしてるのが良いところで小分けしたくないから調味料はそのまま入る。
 大きさ的にはよくドラマで見るジュラルミンケースくらいはあるんではなかろうか。
 開けて左側にスパイスコレクションと小物を入れる引き出し(ティーパックやらコーヒー豆やら入ってる)、右側に基本の調味料……という並びだ。
 なので閉めてしまえば簡単に持ち運び出来るように鍵と取っ手付きなのでズボラキャンパーの私にピッタリなのである。
 実は片付けが苦手なので、簡単に設営&撤収が出来るものが大好きなのである。

 ズボラ故に、我、効率を求める者なり。

「この、中身が減らないってところを確かめて見ますかねー」

 未だに女神チートが信じられない私です。

 調理場についたら丁度戦場になっていた。
 そりゃそうだよね、もうすぐお腹が空いた騎士達がこぞってやってくる時間なんだろう。ルーも忙しそうに他の見習い騎士達に指示出してるもんね。なんか声掛けづらいなぁ。

 ……でも浄化は必要だし……。

「自分でしてみるか……‘浄化’」

 呟いた瞬間、ぶわっと自分を含めた調理場全体にキラキラとした光の粒が広がる。
 綺麗だなあ、なんて呑気に見ていたら何だか調理場が輝いているのが分かった。
 ……ん?なんか綺麗になってるな、調理場。
 ふと気付いたら、調理場にいる騎士見習いが驚愕の表情で全員こっちを見ていた。

 あちゃーという感じでルーが頭を抱えるのも見えた。

「あはははは……私、またなんかやらかしました?」

 その言葉に見てはいけないものを見たという表情に全員が変わった。
 やらかしたな、と確信したけど後の祭りでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...